軽い勧誘
諸々が終わったタイミングでアカリがログインしてきたので、今回の説明をしておく。
「ああ、そういう事ね。急にメッセージが来たから驚いたよ」
「まぁ、私も驚いたけどね。取り敢えず、トラブルの大元は解決したから、大丈夫だと思う。他にも色々な人を呼べるようになったみたいだから、アカリの方でそういう人がいたら連れてきても良いよ。事後報告でも何でも報告さえしてくれるなら、問題はなし。なんたって、私が一番事後報告が多いからね!」
胸を張ってそう言うと、アカリがジト目でこっちを見てきていた。ちゃんと自覚しているだけマシだと思って欲しい。というか、アカリのジト目も可愛いな。
「私は、師匠とか師範達に声を掛けてくる。もしかしたら、移民をしたいかもしれないから」
「まぁ、隠れ里は大変そうだもんね。でも、お師匠さん達がいなくなって大丈夫なのかな?」
「重要な人達だから、何かしらの補填があると思う。取り敢えず、話だけでも聞いてくるって感じかな」
「そっか……あっ、あった」
話を聞いている途中からメニューを操作していたアカリがそう言って、私にも見えるようにメニューを可視化した。
「神桜都市消滅って、掲示板が出てるよ」
「へぇ~、そりゃいきなりなくなったら、話題になるよね」
「うん。神を名乗る存在から、忠告をされた後に神桜都市が消滅したらしいね。虹の橋が出て来て、それを渡ろうとしたら、神様に倒されたって」
「えっ!? まぁ、そのくらいはするか」
ヘルメスさんとイーリスさん、八咫烏が何をしたのか分からないけど、プレイヤーを弾いてはくれていたらしい。というか忠告って何を言ったのだろうか。
「これから土地神の領地は、次々に神界へと帰るみたいな事を言ったらしいけど」
「えっ!? ヘルメスさん! イーリスさん! 帰ってきてますか!?」
大きな声で呼び掛けると、二人が私の元にやって来た。
「お呼びでしょうか?」
ヘルメスさんとイーリスさんは、胸に手を当てながら礼をする。
「二人とも、土地神の領地が神界に帰るって言ったんですか?」
「ああ、その通りだ。今後の事を考えると、この神界に統合していく事が一番だと思ったのでな」
「この程度の脅しは必要かと思いまして。奴等は祝福が欲しいだけのようですので」
「そう言われたんですか?」
「よくご存知で。元々同じ人間だったハク様とは大きな違いです。俺にも祝福を寄越せ等と喚く愚か者が多くいらっしゃいました」
「あっ……何かごめんなさい」
同じプレイヤーが迷惑を掛けたようで、取り敢えず謝っておいた。まさか、その状況で、そこまで図々しい事を言えるとは思わなかった。現実でも同じように生きていたら、きっと物凄い顰蹙を買うのではとも思ってしまう。
「君が謝る事ではない。その者達と君達は関係がないだろう?」
「まぁ、そうですが……一応、同じ人間ではあるので。はぁ……これで、神様が地上からどんどんいなくなる事になりそうですね……」
「同様の人間が神界に来たとしても、神々は祝福など授けないだろうな」
「これが神々の総意であると捉えて頂いて構いません。我々も学びますから、愚かなだけの人間に手を貸そうとは致しません。良き人間の例が、この世界に揃っているというのも大きな点となるでしょう」
つまりは、アカリやアク姉達の事は気に入ってくれているという事だ。まぁ、皆遠慮の塊みたいな人達だしね。アク姉は、私に対して遠慮せずに抱きしめてきたりしているけど。
「ハク様には是非、様々な土地神の領地を回って頂きたい。同じ事があった際、祝福を授けられているのと授けられていないのを比べれば、圧倒的に前者の方が対応がしやすくなりますので」
「そうですね。もし場所を特定出来た時には挨拶をさせて頂こうと思います。祝福を頂けるかどうかは、神様次第ですが」
「ありがとう。土地神自体は、数が減ってきている。出会う確率は低いだろうから、あまり気にしすぎないようにしてくれ」
やっぱり土地神は少なくなっているらしい。ヘスティアさんみたいに元々土地神だったみたいな神様が多いのかな。
「はい。分かりました。お二人から真意を聞けて良かったです」
「こちらこそ、勝手な真似をしてしまい申し訳ありません」
「いえ、大事な事だと思いますので、全然大丈夫ですよ。でも、ちゃんと報告してくれると嬉しいです。地上でどんな事になっているか私には分からないので」
「かしこまりました」
「分かった」
「カー」
二人が了承の返事をしてくれたのと同時に八咫烏が飛んできて鳴いた。八咫烏も返事をしてくれたという事なのかな。腕を横に出すと、そこに留まる。
「カー」
「八咫烏もありがとう。どこか住みたい場所はある?」
「カー」
八咫烏は、私に頷くと世界樹の方を見た。
「世界樹に住むの? なら、ニクスと喧嘩しないようにね」
「カー」
八咫烏は、頷いて返事をすると、そのまま世界樹の方に飛んでいった。ニクスと喧嘩しないで住めると良いけど。一応、ニクスや八咫烏のために止まり木をいくつか用意して貰おうかな。そうしたら、色々な場所に居やすいだろうし。モートソグニルさんに良い感じの物を依頼しておく。
「それじゃあ、私は行くね。ヘルメスさん、イーリスさんはお疲れ様でした。今後もよろしくお願いします」
「はい」
「ああ」
アカリに手を振ってから、私は師範の元に向かう。双刀の隠れ里は、前よりも人がいない。というより、プレイヤー自体がいない気がする。
師範の家の前に来ると、師範が出て来た。
「お久しぶりです。師範」
「良く来たな。入れ」
中に通されると、いつも通り道場に向かうのではなく、茶の間に通された。そこで、お茶を出される。
「実はな。この道場の世代交代を考えていた」
「引退されるんですか?」
まさかの展開に驚きを隠せなかった。まさか、師範が引退するとか思いもしないし。
「ああ。道場の継ぎ手が出来たのでな」
そんな人がいたなんて初耳だけど、私がいない間に育てたのかな。道場を任せられる程の逸材がいた事も驚きだ。
「なるほど……実は、師範にお話があって来たんです」
「稽古か?」
「いえ。実は……」
私はギルドエリアの存在について、師範に説明していく。すると、師範は顎に手を当てて考え込み始めた。
「なるほどな。その世界に住まないかという事か」
「師範がお望みなら、準備は進められます。私よりも師範がどうしたいかでお考え下さい。今すぐ返事が欲しいという訳では無いので、また今度来た時にでも返事を頂ければ」
「いや、いいだろう。さっきも言ったが丁度良い機会だ。後継に譲って、儂はそちらに移り住む事にしよう」
「本当ですか? 分かりました。では、これをどうぞ」
師範に札を渡す。これがあるとNPCでもギルドエリアに出入り出来る。さっきの発展度上昇に伴い追加されたものの一つだ。ギルドメンバーであれば、誰でも発行出来る。
「これでいつでもこちらに来られるので、準備が出来たら来て下さい」
「ふむ。助かる」
これで師範とは別れる。次は、師匠、親方、老師、セラフさん……後は闇霧の始祖にも声を掛けてみるかな。




