エルフの血
街で回復薬を大量に用意した私達は、平原の端の方に向かった。街の入口近くだと、目立ってしまうかもしれない。そうなると、また変に絡んでくる人達が出て来ないとも限らないしね。
平原の端に加えて、街の壁近くにいれば、より見つかりづらい。壁に寄り掛かると、私の正面にアカリが立った。
「さてと、【吸血鬼】になったのと【吸血強化+】が増えたから、HPが滅茶苦茶減ると思う」
「うん。ハクちゃんの方で、ある程度調節してくれるでしょ?」
「まぁ、死なないようにするつもりだけど、危ないって判断したら、突き放してくれて良いから」
「ハクちゃんを信じるよ」
そう言って笑ってくれるアカリの首に腕を回して、少しだけ襟を広げて、首元に噛み付く。口の中に、アカリの血が流れ込んでくる。濃い血の匂いだけが鼻に抜けてくる。アク姉は、石鹸を使ったりしていたから、匂いが誤魔化されていたと分かる。
飲み込んでいく度に、口の中と喉に違和感を覚える。炭酸を飲んでいるような感じが一番近いけど、滅茶苦茶焼ける感じもする。でも、禊ぎの水よりマシな感じもする。
アカリのHPを見るのと同時に自分のHPも確認すると、一ドットくらい削れて回復してを繰り返している。つまり、アカリの血でダメージを受けているという事だ。
アカリのHPが三割くらいになったところで、口を外す。同時に、アカリは回復薬を飲む。自分のHPが回復していくのを確認したアカリは、私の方を見る。
「ハクちゃん、ダメージ受けてなかった?」
アカリも気が付いていたみたい。まぁ、見るものHPゲージしかないから、気付くのも当たり前かも。
「うん。でも、飲んでいる間に回復していたし、飲むのを止めたら、ダメージもなくなったよ」
「もう吸収したって事? 胃にあるとしたら、まだダメージを負いそうだけど」
「そうなんだよね……」
この会話の間に、アカリのHPが回復したので、何も言わずもう一度吸血する。
「何も言わずに飲まれるのは、さすがに驚くんだけど」
「ん~」
やっぱりダメージは受ける。でも、本当に微弱だ。血を飲んでいるおかげで、ダメージを受けてもすぐに回復するから、問題は特にない。スライムよりも刺激的な飲み物っていうのが、一番近い表現になるかも。
また、アカリのHPが三割くらいになったところで、口を離す。そして、アカリが回復薬を飲んでいる間に、自分のスキルを確認する。
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ハク:【剣Lv35】【短剣Lv32】【格闘Lv22】【拳Lv5】【蹴りLv6】【魔法才能Lv20】【支援魔法才能Lv20】【吸血鬼Lv25】【操血Lv19】【夜霧Lv9】【執行者Lv30】【硬質化Lv25】【豪腕Lv8】
控え:【HP強化Lv29】【物理攻撃強化Lv27】【速度強化Lv30】【運強化Lv18】【脚力強化Lv39】【毒耐性Lv1】【麻痺耐性Lv3】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv1】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv1】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【消化促進Lv9】【言語学Lv9】
SP:54
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あまり大きくレベルが上がっていなかった【消化促進】が大きく上がっている。使った覚えもないから、アカリの血を飲んで上がったと考えられる。胃の中に入ってもダメージが継続しなかった理由は、【消化促進】で、より早く吸収出来たから。これで納得がいく。
次いで、自分の収得可能スキルを確認する。
「う~ん……変わりなし……聖属性耐性とか貰えるかと思ったけど」
「でも、ダメージを受ける速度が下がってる気がする。このまま飲み続けたら、どんどん耐性が付くんじゃない?」
「じゃあ、いただきます」
アカリの許可が出て、HPも回復していたので、首元に噛み付く。
「何か、流れ作業でやられると、ちょっと不満かも。ちゃんと味わってね」
アカリがとんでもない無茶を言ってくる。匂いとかがマシなだけで、血を飲んでいる事には変わりない。そもそも血は味わうようなものじゃない。仮に味わうものだとしたら、もう少し味をどうにかして欲しいし、もっと食欲が湧く匂いにして欲しいものだ。
何かアカリも楽しめるような事をしてあげられれば良いのだけど。そう考えて、ふと思い付いた事があった。アカリの首から口を離して、近くにいたホワイトラビットにツイストダガーを突き刺す。
「うわっ!? 何してんの!?」
「ん? アカリを楽しませようと思って」
「そんな残酷ショーを楽しめるほど、心はねじ曲がってないけど!?」
「え? ああ、別にホワイトラビットを倒すところを見せようと思ったわけじゃないよ。見せたいのはこっち」
出血状態になったホワイトラビットから【操血】で血を取り出す。それで、ホワイトラビットは倒せたけど、血は残る。
「おお……初めて見た。それが、【操血】?」
「うん。結構長く使ってるから、結構上手く操れるようになってきたんだ」
血を使って、単純な図形を作っていく。丸、三角、四角、五角、六角……次々に形を変えていく血に、アカリは目を奪われていた。そこで、アカリのHPが回復した。
「アカリ、そこに座れる?」
「あ、うん」
アカリに街の壁を背にして座って貰う。ずっと立ったまま血を吸うのも疲れるので、アカリにも楽な姿勢で吸う事にしたからだ。座って脚を伸ばしたアカリの太腿の上に乗り、首元に噛み付く。その間に、【操血】で動物を模り、動かしていく。これなら、少しは楽しんでくれるはず。
「これって、もっと細かく変えられるの?」
アカリに訊かれて、少し考える。そして、試しにアカリを模ってみようと思い、血を操作する。
「おぉ……? 何これ?」
アカリの疑問の声と同時に吸血を終えて、操作をしている血を見る。それを見て、私も眉を寄せる事になった。
「ん。う~ん……アカリのつもりだったんだけど、もの凄く歪な何かになったね」
「まだ、人程複雑なものは作れないって事?」
「うん。兎とか犬とかだと、簡単に作れるんだけどなぁ。まぁ、それでも犬とかに見えるなにか程度だけど」
「血の量は?」
「今なら、二回抜き出しても操作できると思う」
近くにホワイトラビットがいないので、自分の手にツイストダガーを突き刺そうとすると、手に刺さる前にアカリの手が、ツイストダガーを握る私の手首を掴んだ。
「自分の血を使わないで良いよ。そこまでして見たいわけじゃないし。ハクちゃんが試したいんなら、この血で近くのホワイトラビットを捕まえてみたら?」
「それも有りだね。操作範囲も広がってきてるし、七メートルくらいならいけるはず」
近くにいるホワイトラビットに向かって、血を飛ばす。網状に変化させた血をホワイトラビットに絡ませて、【硬質化】で固める。そうして捕獲したホワイトラビットを私の方に引っ張る。
「出来た」
そこでアカリのHPが回復したから、血を飲みながら、近くに来たホワイトラビットにツイストダガーを刺し、【操血】で血を抜く。そうして倒したホワイトラビットを縛り付けていた血も操作して、二つの血を浮かせた。ちょっと操作が難しいけど、出来ない事はない。実戦で使うには、まだ不安要素が残る。
「一個にまとめられる?」
「ん~ん」
「出来ないんだ」
二つの血を合わせてみたけど、まとめて大きな一つの血として扱えない。二つの別の血が混ざり合っているってだけで、一緒に動かさないと、すぐに分離してしまう。
私が持つスキルの可能性は、まだまだ広がっている。その事を強く実感した。