原生林エリア
翌日。昨日の夜更かしで遅めに起きるという事は全くなく、いつも通りの時間に起きて、いつも通り昼前にログインする。ギルドエリアでは、工事の音が絶え間なく鳴り響いている。色々な家の改築が行われており、ドワーフの皆が動き回っているからだ。
その中で神様達もドワーフを手伝っている姿が見えた。神様に働かせてしまっている現状はどうなのだろうと思わなくもないけど、皆楽しそうだから良いのかな。他の神界の神様との交流も盛んに行われているようで、畑では豊穣の神様達が和気藹々と話していたり、アフロディーテさんとフレイヤさんが美を競っていたり、最高神の三人が何かを話していたりと、結構良い感じな気がする。
私が最初に言ったルールを、皆がちゃんと守ってくれているというのが大きいかな。アク姉達とのトラブルもないようだしね。
取り敢えず、何も問題はなさそうなので、このまま次のエリアの探索に向かう事にした。次に向かうエリアは、妖命霊山エリアの奥。原生林エリアだ。もう酒呑童子戦を終えているから、普通に奥に向かえる。空を全力で飛ぶことで妖命霊山エリアを素通りして、原生林エリアに転移した。
原生林エリアは、その名前の通り手つかずの森という印象が強い。地面は苔むしており、木々は太く大きい。周囲の空気は冷えているような感じがした。
取り敢えず、エアリー、ソイル、ラウネ、フェンリルを喚び出す。すると、その流れに乗って、アルテミスさんが現れた。
「アルテミスさん?」
「今日は私が手伝ってあげる。まぁ、特にやることはないだろうけどね」
アルテミスさんはそう言いながら、私の頬を撫でてくる。何となくうっとりとしているようにも見えるけど、きっと気のせいだろう。
「フェンリル。私達全員乗せられる?」
『無論だ』
フェンリルは、いつもより少し大きくなる。そこに乗ると、アルテミスさんは私の後ろに乗って腰に手を回した。ただ、アルテミスさんの掴む力が強く、私にしがみつくというよりも私がアルテミスさんを背もたれにするような感じになった。エアリー達はそれぞれで座る。
そして、フェンリルが走り出す。森の中を自由に走り抜けていく中で、モンスター達がラウネによって縛り付けられていた。抜け出そうとしてもどんどんと蔓が縛り付けているので、ちょっと可哀想。モンスターは、猿のアグレッシブモンキーとオウムみたいな鳥のマジックパロット、白いゴリラのシルバーバックの三体だった。数的には、アグレッシブモンキーとマジックパロットが多くシルバーバックが少ないって感じだ。
「あれの血を吸うの?」
「はい。動物の血は臭くて嫌なんですけどね。出来れば岩とかの方が味がなくて嬉しいです」
「お腹に悪いから、程々にね」
「は~い」
神様の認識では無機物はお腹に悪いとなるらしい。まぁ、当たり前か。アルテミスさんが見守る中でモンスターを魅了と麻痺で拘束を強めて吸血する。そうして手に入れたスキルは、【平衡感覚強化】【群呼び】【復唱】【鳴響】だった。
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【平衡感覚強化】:平衡感覚に補正が入る。控えでも効果を発揮する。
【群呼び】:MPを消費して、モンスターの群れを呼び出す事が出来る。ただし、モンスターは友好的ではない。控えでも効果を発揮する。
【復唱】:対象が唱えた魔法を同時に発動する。MPは通常通り消費される。
【鳴響】:音を響かせるスキルが強化される。控えでも効果を発揮する。
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ちょっと有り難いスキルを手に入れた。【群呼び】があれば、レベル上げが楽に出来る。これは本当に良いね。他は持っているスキルばかりなので、残りは倒しても良い。
「エアリー、もう倒して良いよ」
「あっ、倒して良いのね。じゃあ、任せて」
「え?」
私が止める前に、アルテミスさんは空に向かって矢を放った。すると、空から無数の矢が降り注ぐ。矢は木々を避けて、正確にモンスターを倒していた。
「わぁ……」
「これでしばらく安全よ」
「ありがとうございます」
ニュクスさんもそうだけど、エリア殲滅攻撃は、本当にエグい。他のプレイヤーの迷惑になっていそうだし。
「でも、そんな頻度でやらないでくださいね。私みたいな吸血鬼が血を欲しているかもしれないので」
「う~ん……私はハクちゃんが無事なら、それで良いのだけど」
「他の人の迷惑になっちゃうので、許可制にしましょう。アルテミスさんが恨まれても嫌ですから」
そう言うと、アルテミスさんが後ろからぎゅっと抱きしめてきた。そして、自然と頭を撫でてくる。
「あなたは本当に良い子ね。分かったわ。ハクちゃんの許可を貰った時だけ殲滅してあげる」
「ありがとうございます」
ちゃんと分かってくれて良かった。他の神様もエリア殲滅攻撃を持っているかもしれないし、後でギルドエリアに戻ったら他の神様にも伝えておこう。
フェンリルの上から周囲を見回して何かないか探すけど、特に怪しい場所は見当たらない。その間、アルテミスさんが揺れに合わせて、さりげなく身体のあっちこっちを触っているような感じがするけど、気のせいだろう。純潔の神様だし。
そんな中でラウネがキョロキョロし始めた事に気付いた。
「ラウネ?」
『何か変なの』
「変?」
ラウネの感覚は私よりも鋭い。それは精霊、神霊が故のものだ。私が感じるものは何も無い。
「エアリー、ソイル」
『違和感という程ではありませんが、空気が澄み切っていると感じます』
『地面の栄養に……偏りがある……気がするよ……でも……本当に……微妙な……違い……』
『それなの! 一本の木に栄養が集まっている気がするの!』
「栄養が? つまり、その木が栄養を欲しているって事?」
『うんなの!』
自然の現象として、そういう事はあり得そうだけど、ラウネが違和感を覚えるという事は、それだけ変なのだと思う。
「取り敢えず、その方向に行ってみよう。ラウネ、指示して。フェンリル、お願いね」
『任せろ』
ラウネの指示に従って、フェンリルが駆け出す。フェンリルの速度なら、五分も掛からずに目的の木に辿り着いた。その木は、本当に大きく太い木で、恐らくここにある木の中でも一番だと思われる。
「どこかの空間に繋がっているみたいね」
アルテミスさんがそう言う。私もここまで来れば、何となく分かる。この木からどこかに繋がっているという事が。しかも洞とかの話じゃない。この木の幹そのものが入口だ。
「エルフの里……」
ツリータウンで聞いた話を思い出す。ツリータウンから考えれば、ここはかなり離れた場所になる。自然が多く、エルフが里を移していたとしても何もおかしくはない。ここで【森人化】を使う事も出来るけど、私は何も使用しない事にした。素の私で受け入れて貰いたいから。
「でも、これってどうやって入れば良いんだろう……」
「普通に幹に入れば良いんじゃないかしら。フェンリルは、一旦戻った方が良いと思うわ」
『ふむ。そうだな。我は戻っておく。何かあれば喚べ』
「うん。ありがとう」
フェンリルを撫でてお礼を言ってから戻って貰う。そして、私は、エアリー、ソイル、ラウネ、アルテミスさんを連れて、木の幹へと入っていった。




