茨木童子戦
茨木童子はゆったりとした動作で近づいてくる。そして、瞬きをした瞬間に、既に目の前に刀が迫っていた。力の付与で一瞬だけ動きを遅くする。茨木童子は、かなり強いみたいで動きを止める事は出来なかった。でも、遅くするだけで私には十分だ。【雷化】で距離を取り、雷霆を放つ。茨木童子は、雷霆を斬り裂いた。でも、無傷とはいかないみたいで、HPが少し減っていた。
『思っていたよりも重いな』
茨木童子は、ニヤリと笑って一気に接近してきた。私は、【雷化】で距離を取る。でも、それを予期していたように茨木童子が追ってきた。振われる刀に、神殺しを合わせて弾く。さっきの四人よりも遙かに重い。ここは【黒鬼王】を解放して力を上げておく。
それを見た茨木童子は、またにやりと笑った。そして、身体から黒いオーラを出していく。私と同じ黒鬼みたいだけど、向こうの方が出力が高そうだ。ひとまず、この鍔迫り合いを終わらせるために、茨木童子の足元の土を動かして体勢を崩させる。
茨木童子の刀を神殺しの刀身で滑らせて、その脇腹に膝を入れて吹っ飛ばす。吹っ飛んでいく茨木童子に、雷霆を放ち、続けざまに【極雷】を連発する。
茨木童子は、それを全て斬り裂いていった。そして、私の方に向かってくる。私は【雷化】で背後に移動して、その身体に向かって【業火】を放つ。茨木童子は【業火】を簡単に斬り裂いた。そこに立て続けに雷槌を叩き付ける。これすらも茨木童子は斬り裂いた。この感じだと、例え祝福だとしても魔法系の技は通用しないのかもしれない。まぁ、ダメージは通るから連発すれば、いずれ倒せるのだろうけど、再生があるからあまり良い方法ではない。
この感じだと酒呑童子も同じかもしれない。魔法がメインで通用するのは、最初だけって事かな。
取り敢えず、蒼天と天聖の混合熱線をチャージしつつ、神殺しと血刀を握って突っ込む。
まず、血刀を振るって、【神炎】と【神雷】を纏わせた血液の刃を飛ばしまくる。刀身が血液で出来ているので、こういう時に使いやすい。こちらで牽制しつつ、【雷化】で背後に移動。背中を斬りつけようとしたけど、茨木童子は前に倒れる事で避けた。
そして、不安定な姿勢のまま刀を振ってくる。その攻撃を血刀の刃で受け止める。不安定な姿勢のため、大した力は込められていない。そのまま弾き返して、そのお腹を蹴り飛ばした。吹っ飛んでいく茨木童子に向かって【雷化】で突っ込み、神殺しを突き出す。それに対して、茨木童子も刀を突き出してきた。互いの切っ先がぴったり重なり、互いにノックバックした。私は、【熾天使翼】を広げて、空中で逆さになりながら、血刀から血の刃を飛ばす。茨木童子は、即座に着地して血の刃を弾く。
私は空中で【雷化】して、茨木童子の目の前に現れる。そして、チャージした混合熱線を吐き出した。地面が抉れ、周囲に衝撃波が散る。その中で、茨木童子は刀で熱線を切り裂いていた。
この中で、私は【業火】を混ぜ込む。熱線を斬っている最中の茨木童子は、【業火】に対処出来ず、火球に飲まれた。じわじわとHPが削れているけど、まだ八割近くのHPが残っている。ここに雷槌を叩き込む。一気に茨木童子のHPが五割にまで減ったと思ったら、茨木童子を中心に爆発が広がった。
爆発から出て来た茨木童子は、角が伸び、赤い瞳が爛々と光っている。そして、その身体から黒と白のオーラを出していた。そんな茨木童子は、楽しそうに笑っていた。
『ふははははははははは!! こいつは良い!! お前を舐めていた事、謝罪しよう!! ここからは本気でやってやる! 命の削り合いをしようか!!』
何か冷静な感じの鬼だと思っていたら、想像以上にぶっ飛んでいる鬼だった。
茨木童子は、目にも留まらぬ速度で動き、私の背後から刀を振り下ろしてきた。咄嗟に反応出来て、神殺しで受け流せる。受け流したところで体勢を崩した茨木童子に毒を纏わせた血刀を突き刺す。血刀は刺さったけど、毒にはならなかった。あの四人も効きにくかったけど、茨木童子も同じく効きにくいらしい。これなら、状態異常に頼るのは止めよう。
茨木童子に刺している血刀の刀身を血液に戻して、茨木童子の内側から滅多刺しにする。しかし、茨木童子は一切動じずに、私に向かってきた。
高速で振われる刀を神殺しと血刀で受け流していく。そして、斬られるタイミングで何とか斬っているのだけど、相手の再生速度と私が攻撃出来る回数が少ないせいで、茨木童子のHPは全然減らない。
だから、ここでいくつも属性攻撃を交ぜる事にした。【業火】【灰燼】【極雷】【絶対真空】さらに、雷霆、雷槌も。周囲の地表が捲れ上がり、酒呑童子がいる寺もどんどんと形を失っていった。それなのに、酒呑童子からの介入はない。本当に茨木童子が倒されるまでは動かないみたいだ。
祝福全開の私とここまで戦える時点で、茨木童子の強さがよく分かる。これだと、普通のプレイヤーは、ソロで攻略出来ない気がする。パーティー戦前提の強さだ。
血の刃、火、水、土、風、雷、光、闇、影、その全ての属性を使い、茨木童子を攻撃していく。ようやく少しずつHPが削れる茨木童子。少しずつ追い詰められているはずなのに、茨木童子は楽しそうに笑っている。まるで、戦闘の中で喜びを覚えているように。
そして、HPが三割を下回ったところで、茨木童子が変化する。その変化は戦闘中に唐突に始まった。茨木童子のオーラが、茨木童子の刀に纏わり付いた。その瞬間、茨木童子の力が跳ね上がる。血刀で防いだつもりが、血刀がへし折られた。私の血液では、もう茨木童子の力に耐えられないらしい。だから、私は神殺しだけで攻撃を防ぎながら戦っていく。
両手で柄を握り、互いの大きな一撃をぶつけ合い、鍔迫り合いになったところで雷霆を撃ち込む。雷霆は、オーラによって威力を削がれたけど、それでもダメージになっていく。それでノックバックする事はなく、茨木童子の力は上がっていく。地面を崩す体勢崩しも通用しない。でも、茨木童子のHPが残り二割を切るところまで追い込むことは出来た。
思いっきり力を込めて、茨木童子との間に空間を作る。そして、神殺しを手放して、白百合と黒百合を取り出し、大鎌に変えて、【死神鎌】を発動させる。茨木童子は、まだ体勢を立て直せていない。私は、即座に大鎌を下から斜め上に目掛けて振る。
茨木童子のオーラにぶつかって、一瞬刃が止まるけど、歯を食いしばり、大鎌の柄から思いっきり血液を噴射させて、それを推進力に茨木童子を斬り裂いた。
【死神鎌】の効果で茨木童子はHPを全て失って倒れた。
『ふははははははははは!!』
茨木童子が倒れたのと同時に、酒呑童子が大笑いする。
『そうか! 茨木を倒すか! ふははははははは!! やはり良い! 良いぞ!』
燃え盛る寺を背後に、酒呑童子が歩いてくる。その腰には刀が差してあり、片手には金砕棒を持っている。
『最近やけに来客が多かったが、そのどれもがつまらん奴等ばかりだった。だが、お前は違う。さぁ! 俺とも死合おう! お前の命の輝きを俺に見せてみろ!!』
休み無しの連戦。でも、これが最後だ。ボス戦という意味では、さっきの茨木童子すらも前座に過ぎない。ここから本番だ。




