妖命霊山エリア
私は妖都に来て、その奥へと進んでいった。
「そういえば、ここのボスと戦った事ないな。いないんだっけ?」
そう思いながら歩いていくと、すぐに妖命霊山エリアへの転移メッセージが出て来た。まぁ、下手すれば玉藻ちゃん達が襲って来るだろうから、それがボスみたいなものだよね。絶対に倒せないと思うけど。特に玉藻ちゃん。
それはさておき、妖命霊山エリアは、生い茂る山のエリアだった。山は上にも縦横にも大きい。
「でっか……」
『まぁ、そうじゃのう。酒呑が治めている山じゃからな』
「玉藻ちゃん……いつの間に……?」
唐突に現れた玉藻ちゃんは、当たり前のように私を尻尾で包み込んで持ち上げている。
『この場所は厄介じゃからな。妾達も来たわけじゃ』
そう言われて周囲を見ると、胡蝶さん、清ちゃん、紅葉さんがいた。皆が来る程には危ない場所らしい。取り敢えず、この環境に適していると考えられるエアリー、ソイル、ラウネを召喚しておく。フェンリルも勝手にやって来た。
『ふむ。禍々しさが強いな』
フェンリルは開口一番にそう言った。
「そうなの?」
『ハクは、鬼でもあるからな。そこら辺は鈍感なのだろう』
『そうでありんすね。この場所は鬼が支配する場所でありんすので』
『同じ鬼である我々には、ここの圧というものがよく分からないのです。通常の人が来れば、その圧に冷や汗を掻く事でしょう』
「へぇ~、鬼で良かった」
『ハクちゃんの場合、神様でもあるから、元々関係なかったかもしれないですけどね』
清ちゃんが補足してくれた。神様には通用しない可能性も高いらしい。まぁ、神様だし、そのくらいの特典があってもおかしくはないか。
「それじゃあ、探索と吸血をしていこうか。エアリー」
『数はかなり多くこちらを警戒しているようです。山の中に踏み入れば、襲ってくるでしょう』
「おっけー。ソイル、ラウネ、拘束お願いね」
『うん……』
『うんなの!』
フェンリルの上にエアリー、ソイル、ラウネが乗り、移動が始まる。因みに、私は玉藻ちゃんの尻尾に包まれたままだ。玉藻ちゃんの尻尾をクシナダさんの祝福を使って生み出した櫛で梳いて暇つぶしをしながら、周囲を見ていく。すると、モンスターが凄い勢いで突っ込んできて、ある一定の境で止まったのが分かる。ソイルとラウネが拘束しているのだ。
『セイちゃん、拘束されてない鬼を食べてきて』
清ちゃんがそう言うと、蛇のセイちゃんが動き出して山の中に消えていった。
「良いの? 皆の仲間でしょ?」
『う~ん、ここの奴等って、割と好戦的で、私達にも襲って来ますから、正当防衛ですね』
こちらから仕掛けに行っているようにも思えるけど、そこはツッコまないでおこう。そこにいたのは、四種の鬼だった。猿のような身体と額から生えた一本角が特徴的な猿鬼。大きな熊の身体に二本角が生えている鬼熊。薄い衣を纏い二本角餓生えた存在の薄い縊鬼。滅茶苦茶長い髪鬼だ。
アルテミスさんの祝福で熊系モンスターを従わせられるはずなのだけど、鬼熊には通用しなかった。鬼熊は熊ではなく鬼という分類になっているせいなのかもしれない。
その一体一体を吸血していく。縊鬼が糸を使って攻撃しようとしてきたり、髪鬼が髪を伸ばして攻撃しようとしてきたりした。でも、糸は胡蝶さんが逆に操って縊鬼の拘束を強めて、髪鬼は清ちゃんが毒で麻痺させたり、玉藻ちゃんが幻覚で放心状態にさせていた。改めて、玉藻ちゃんが恐ろしい存在という事がよく分かる。
猿鬼からは【縦横無尽】【一本角鬼】。鬼熊からは【怪力】【獣鬼】。髪鬼からは【操髪】【伸縮髪】を手に入れた。縊鬼は既に持っているスキルだけだった。
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【縦横無尽】:あらゆる角度への移動が素早く行えるようになる。控えでも効果を発揮する。
【一本角鬼】:内なる一本角鬼の力を解放出来る。一本角を生やし、物理攻撃力を大きく上昇させる。
【怪力】:物を持ち上げる動作に補正が掛かる。自身よりも重い物を軽々と持ち上げる事が出来る。控えで効果を発揮する。
【獣鬼】:内なる獣鬼の力を解放出来る。身体能力が大きく上昇し、肉体、爪での攻撃力が大幅に上昇する。
【操髪】:自身の髪を操る事が出来る。
【伸縮髪】:髪の長さを自由に調整する事が出来る。控えでも効果を発揮する。
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祝福を貰いすぎて、これが凄いスキルなのか分からなくなってきた。まぁ、控えで発動するスキルは動きやすくなるから有り難いかな。【伸縮髪】に関しては、イメチェンで使えるかなって感じだ。現実だと髪の長さを自由に調節する事は出来ないから、アカリが喜ぶかな。服に合う髪型に出来るから。
そんな風に吸血してスキルを得ていると上の方から視線を感じた。そっちを見ようと顔を上げると、玉藻ちゃんの尻尾がもふっと乗っかってくる。
『見ては駄目じゃ』
「黄昏のところみたいな感じですか?」
『違うのじゃ。正直、あれよりも厄介な可能性すらある』
『視線を合わせない事で、トラブルを回避出来るかもしれません』
紅葉さんはそう言いながら頂上を睨む。見るではなく睨むだ。
「もしかして、酒呑童子が見ているみたいな感じですか?」
エリアに来た時に玉藻ちゃんが言っていた酒呑という言葉から酒呑童子がいるという事は分かる。皆が警戒するって言ったら、その位な気もするし。
『うむ。彼奴は、戦闘好きでのう。ハクが戦っている姿などを見せずにいれば見逃す可能性が高いのじゃ。ハクは異常に強いからのう』
『それに加えて、視線に気付けるのは一定の強さを持つ者のみでありんすので、ハクちゃんには視線に気付いた素振りも見せないで欲しいのでありんす』
「なるほど。分かりました。エアリー、ソイル、ラウネ、いつも通り戦闘も任せるね。フェンリルは、皆の護衛をお願い」
『はい』
『うん……』
『うんなの!』
『分かった』
私は玉藻ちゃんの尻尾に包まれながら、上を見ないようにして周囲を見回す。周囲は山の中の森という雰囲気で、見通しは悪い。でも、林檎とかが実っているのが見えた。
「ねぇ、清ちゃん、あの果物って特殊なもの?」
『ううん。ハクちゃんのところにあるのと変わらないものですよ』
「そうですか……」
新しい果物かと思ったけど、普通に最初の方のエリアでも採れる果物らしい。それならギルドエリアで育てている方が神性を帯びているので採る意味も無い。
「そういえば、玉藻ちゃん達は神様と仲良くしてる?」
ギルドエリアに神様達が常駐するようになったので、玉藻ちゃん達の居心地は変わっているのではないかと思い訊いてみた。
『まぁ、悪くはないのじゃ。あのウカノミタマという奴は、謎の対抗心を燃やしておったがな』
「ウカさんが? なんだろう?」
『彼奴の神使が狐だからじゃろう。妾が全く敬いのせんからのう。後は、妾が稲荷寿司をハクに渡している事を知ったからかのう。彼奴も稲荷寿司に自信があるようじゃからな。もしかしたら、ハクにも振る舞われるかもしれんぞ』
「それは楽しみですね」
『むっ! 妾が作る方が美味しいに決まってるのじゃ』
「玉藻ちゃんのも好きだよ」
『うむ!』
玉藻ちゃんは満足げな声が聞こえる。また稲荷寿司パーティーが行われるかもしれないのか。ウカさんの稲荷寿司は興味があるなぁ。玉藻ちゃんと喧嘩しないと良いけど。