アップデートと工場
そこから平日を挟んで次の土曜日。今日は大型アップデートの日だ。スキルの追加と様々な調整。それに加えて、エリアの追加がされる。追加されたアエリアは、東が妖命霊山エリア、原生林エリア。西が雷鳴ヶ原エリア、死の国エリア。南が炎海エリア、八熱地獄エリア。北が氷冷界エリア、八寒地獄エリアだった。
名前から予想出来るエリアも多いけど、具体的な内容は分からない。もしかしたら、私が想定しているよりも変なエリアが多いかもしれないし。エリアは、先に行く毎にどんどんと広くなっていく。これらのエリアを探索し終えるのは、時間が掛かる可能性もある。その方が楽しいから、それでも良いのだけどね。
このアップデートとは別に、今日は特別な事がある。それはアカリの工場が完成したという事だった。早めにログインして、工場に向かうと、アカリが最後の点検をしているところだった。
「アカリ」
「ハクちゃん。おはよう」
「おはよう。もう稼働するの?」
「うん。今、ライちゃんとヒョウカちゃんと一緒に最終点検をしてるところ」
そう言った直後、ライとヒョウカがやってきた。
『ハク様、おはようございます。点検の結果、冷却器は問題ありませんでした』
「おはよう、ヒョウカ。ライも問題は無かった?」
『……』こくり
ライが頷いて答えてくれる。これで、最終点検も終わりかな。
「よし! 念のため火力発電も追加しておいたし、電力的な問題もない。じゃあ、稼働するね」
アカリはそう言うと、工場内に入り、操作室のような場所に移動した。そして、何かしらの操作をすると、工場の機械が稼働し始める。機械の稼働音が響いてくる。
「おぉ……動いてる」
「そりゃあね。ライちゃん、異常はない?」
『……』こくり
電気の流れなどに異常がない事も確認され、どんどんと素材が出来上がっていく。ここでは、糸と布に加えて、既製品の量産などがされている。それらがコンベアに繋がれているので、出来上がった糸と布が既製品に変わるという方式らしい。そこら辺は現実離れしているけど、ゲームの中だからそこまで気にならない。
「よし。これで初心者、中級者向けの大量生産品が出来る。おしゃれ着の方はランダム生産にしてるのとデザインの関係で、ちょっと遅い感じかな。オーダーメイドに対応出来れば良いんだけどなぁ」
「追加効果とかの問題があるから無理なんでしょ?」
「うん。一応、ここの服にも付けられはするけどね。それは購入時に申請する方式。まぁ、基本的なステータス強化系の追加効果は付けてるから、そのままでも使えなくはないけどね」
どんどん出来上がっていく服は、コンベアでストレージに運ばれていく。ここから定期的に服を回収して、アカリエに並べれば、オーダーメイド以外の防具は問題ないという感じらしい。
「これって、素材が無くなったりしない?」
「ミルクとシルクがどんどん素材を出してくれているし、羊毛とかもいっぱいあるから大丈夫だと思う。後は、ポリエステルの製造を進めてるところ」
「あれって、石油からだっけ?」
「うん。ギルドエリアのメニューに、油田があるから、それを遠くに設置して、石油を取り出しているところ。一応、ゲームの中だから無限に取り出せるみたい。時間は必要になるけどね。石油を取って、使える状態にして溜め込んでいるところ。ポリエステル繊維を作るための機械も製造自体は出来ているから、実験していってから本格的な製造になるかな」
現実程複雑ではなく、専用の機械を作れば製造出来るらしい。構造を考えなくて良い分、素材があれば即座に作れる。ゲームの良いところだ。
「へぇ~、本当に手広くなっていくね。金属加工の方は?」
「もう少し後かな。ドロシーさんのおかげで、機械人形の量産も目処が立ったから」
「ハクちゃんとアクアさん達のおかげで、素材には困らないからね。特に金属類は……」
「まぁ、私が生み出しているわけだからね。これで、アカリが楽になると良いね」
「確実になるね。既製品の量産はある程度のところで停止して良いし、そうしたら、おしゃれ着の量産が主になるからね。おしゃれ着のデザインをどれだけ作った事か。まぁ、五分の四はハクちゃんに着せるために考えたデザインなんだけどね」
「へぇ~、現実で作っておいたデザインをこっちに読み込ませたって事?」
「うん。服のデザインとかを現実で作って読み込ませる事が出来るようになったからね。実質、向こうでも作業が出来るようになったって感じ」
何かアプデで追加された要素みたい。全く興味がないからチェックすらしていなかった。そのデザインを機械に読み込ませてランダムで製造するように設定したらしい。結構、凄い事をしている。
ここにメアリーと同じ機械人形が増えたら、より効率化が進むことになる。ここ最近のアカリは大変そうだけど、かなり生き生きとしていた。それだけ楽しいって事だから、良い事だ。
「ふ~ん、中々面白い事をしているわね」
「うわっ!? びっくりした……アテナさん、いつの間に来たんですか?」
アカリと話していたら、唐突に背後からアテナさんの声がして驚いた。頭の中に響くのなら、大分慣れているけど、身近からいないと思っていた神様の声が聞こえると本当に驚く。まぁ、神様に限らず、玉藻ちゃんとかでも驚くけど。
「今よ。貴方が、ハクの恋人ね。私は、アテナよ」
「あ、は、初めまして。アカリです」
アカリは、大分緊張していた。ヘスティアさんがいるけど、他の神様は初めて見たわけだから当たり前だ。
前に【処女神達の加護】を手に入れた事で、私の周囲に限り、アテナさん、ヘスティアさん、アルテミスさんは顕現出来るようになった。今が初めての顕現なので、私も驚いた。ゲームシステムで顕現前にお知らせが欲しい。
「初めて見るものばかりね。これは何なのかしら?」
「機械による布製品の大量生産ですね。機織りの自動化みたいなものです」
「なるほどね……私達の服も作れるのかしら?」
「えっと……作れない事はないと思いますが、アテナ様が着ていらっしゃるお召し物に比べたら、お粗末なものしか作れないかと……」
アカリが滅茶苦茶謙っている。ちょっと面白い。
「見たハク。これが普通よ」
「謙りましょうか?」
「やめなさい」
アテナさんに頬を引っ張られる。そこまで力を込められていないから、全く痛くないけど。
「こういうのは、ヘファイストスの方が興味を持つかもしれないわね。取り敢えず、暇が出来たら何着か作って欲しいわ」
「えっ!? あ、はい。分かりました。が、頑張ります」
「そこまで緊張する事ないのに。変なものさえ作らなければ、アテナさんも怒らないよ」
「うんうん。アテナは理不尽な事があるけど、普通の服を作れば問題ないよ」
いつの間にかヘスティアさんがやって来ていた。
「ヘスティア。貴方こんな良い場所にいたなんて聞いてないわよ」
「アテナも自由に顕現出来れば良かったのにね」
「貴方ね……」
ヘスティアさんとアテナさんでバチバチの状態になっていた。アカリがあわあわと焦っている。可愛い。でも、アカリの心労が凄い事になりそうなので、このくらいで止まって貰わないと。
「ところで、アテナさんは何か用事があったんですか?」
「ん? いえ、何もないわ。ただ来たかっただけよ」
「あ、そうなんですね。でも、私は、ギルドエリアにいない事もあるので、もしかしたら戦闘中になるかもしれませんよ」
「その時は戦うから大丈夫よ」
一緒に戦えるメンバーが増えた。ヘスティアさんは戦闘参加は無理でも、アルテミスさんは出来るだろうから、戦いの幅が広がったと考えよう。
「それにしても、本当に面白い場所ね。ハク、案内して」
「良いですよ。それじゃあ、アカリ、またね」
「うん。またね」
アカリと手を振り合って別れる。アテナさんとヘスティアさんも手を振って、私に付いてきた。そこからアテナさんにギルドエリアの案内をしていく。オリュンポスにいたアテナさんは、ギルドエリアが珍しいと思ったのか、結構楽しそうだった。




