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吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ  作者: 月輪林檎
東方の守護者の吸血少女

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ぶつけどころの無い正義

 葬送を終えた後で、私達は研究所を調べて行く。ここの資料は一通り目を通す事にした。


『ふむ……悍ましい研究じゃのう。悪魔の召喚ではなく、人を直接悪魔へと変える方法とな』

「私みたいに下地がある人じゃないと無理だよね?」

『そうじゃな。妾はそう思う。妖怪への変化とはまた違うからのう』

「人って、妖怪に変化出来るの?」

『死後の話じゃ。生きたまま妖怪になるものは、あまりいないのう。憎悪などを募らせて死んだものは妖怪などに変化する。幽霊もその一種になるじゃろうな。じゃが、悪魔は話が別じゃ。天使同様、存在そのものが違いすぎる。だからこそ、ハクのように特殊な身体でなければ、どちらにもなれず、あの者達と同じ末路を辿るじゃろう』


 私はプレイヤーという意味でも特別な身体をしている。それを抜きにしたら、初ログイン時から常に闇の因子を持っている事だ。加えて、大分早くから光の因子を得ているし、それに対する耐性も獲得している。徐々に濃くしていく事で、身体も慣れていった感じだから、被験者達とは違い生き延びたと考えられる。

 まぁ、正直プレイヤーだからという理由だけで、全ての説明は出来そうだけどね。


「こんなの……」


 同じく資料を見ていたアストライアーさんが歯を食いしばっていた。拳も血が滲んでもおかしくないくらいに握りしめている。正義を司るアストライアーさんからすれば、邪聖教の悪事は見逃せないものなのだと思う。だけど、ここに断罪すべき対象はいない。やるせない怒りを覚えているのだろう。神様とて万能じゃない。自分の認知の外で起きた事まで、全て対処出来るわけじゃない。これは仕方のない事。そう割り切るしかない。


『お姉様。こちらの資料は、研究とは違うようです』

「ん?」


 エアリーが見つけた資料がある場所に移動する。確かに研究の手順や経過観察などを記した資料ではない。


「これは……襲撃計画書? いや……でも、実行不可ってなっている場所が多い……刀刃の隠れ里も含まれてる……他の隠れ里の場所にも該当する……隠れ里の襲撃? でも、何で?」

「隠れ里は、特殊技能を受け継ぐものを育てるための場所よ。だから、技能を奪おうと考えたのだと思うわ。悪魔に繋がるとは限らないけれど、悪魔になるにも特殊な身体が必要になるかもしれないというところまでは掴んでいたみたいだから」


 アストライアーさんが説明してくれた。確かに、悪魔に繋がる身体を作るための隠れ里があっても不思議ではない。これまでの隠れ里を見ていたら、特殊技能を身に付ける人を育てるための場所というのも納得だ。それを放棄したのが、【慣性制御】の隠れ里ということかな。


「でも、なんで実行不可なんでしょうか?」

「継承者が里から出ている状況にならないと返り討ちに遭う可能性が高くなるからじゃないかしら?」

「あ、なるほど……」


 【刀】の継承者で里一の強さを持つ師匠がいない間に襲う事も計画の内だった。邪聖教のくせに小賢しい。


「ヴォルケイノタウンも襲撃計画に入ってたんだ」

「返り討ちに遭ったけれどね」

「そうなんですか?」

「うん。ちょうど私がいたから。そこからこの悪の組織を調べていたのだけど、ここに繋がる情報は一つもなかったの。まぁ、天聖教が隠蔽していたのなら、見つからなくても仕方ないわね」


 アストライアーさんも邪聖教を追っていたらしい。ただ、思った以上に秘密の組織だったみたいで、ここへと繋がる情報は全く出てこなかったみたい。もしかしたら、邪聖教が滅ぶきっかけを作ったのは、師匠だけじゃなくて、アストライアーさんも含まれていたのかもしれない。


「ここの事を知っていた天聖教の偉い人は、我らの汚点と言っていました」

「死なせる勇気はなく、これを広く知られるわけにもいかなかった。だから、箝口令を敷いたというところかしら。善の心を持っていたのなら良いわ」


 そう言うアストライアーさんの声は、冷たく感じた。ここにいる人達や新たに被害になる人を増やさないために仕方なかったと知っても、これを知っていれば、自分で断罪したのにみたいな感じかな。悪を憎む心。これが正義狂いと言われた所以なのかな。


『姉々。ここ奥にも部屋があるよ』

「奥? ソイル、何か分かる?」

『ううん……ここと同じ……』


 ソイルでも見抜けない処置が施されているという事だ。でも、メアが指さすところ一面に扉はない。


「エアリー」

『風の通り道もありません。見た目通り隙間も無く閉まっているものかと』

「そっか。ソイルは、メアと入口を探してくれる?」

『うん……』

『オッケー♪』


 二人が入口を探している間に、装置の方を調べて行く。資料は全部アイテム欄に押し込んだので問題ない。


「普通に精密機械っぽいね」

『ふむ。妾にはよく分からぬのう』

「私も同じだよ。説明書があれば何となく分かるものもあるけど、こんな高度な機械になったら分からない。でも、結構な電力を食いそう。発電機はどこだろう?」


 ケーブルを辿っていくと、大きな箱に繋がっていた。大きなタンスみたいな感じだ。でも、全体的にのっぺりとしていて、中を見る事は出来なさそうだ。


「これがエネルギーを供給していたもの?」

「恐らくですが、そうだと思います。どういう方法で接合しているんだろう……?」

「これを斬ればいいのかしら?」

「駄目です。出来れば蓋を取って中身を確認したいので」

「蓋ね……」


 アストライアーさんは、箱の横に立つと軽く剣を振り下ろした。すると、箱の正面一ミリ程が倒れてくる。玉藻ちゃんが尻尾で私を引っ張ったおかげで、私が押し潰される事はなかった。そうされなくても避けられはしたけど。


「これで良いかしら?」

「ありがとうございます……」


 まさか、こんな強引な方法で解決出来てしまうとは。私の技術では、ここまで正確に斬る事は出来ない気がする。血や影を使うにしても隙間がないからどうしようか迷っていたくらいだし。

 それはさておき、発電機らしきものの中身を確認していく。そこに入っていたのは、複雑な機構だった。タンスくらいのものと認識していたけど、壁の中に装置が埋まっていた事が分かる。


「モーターは……あった。壁の奥に並んでる……でも、メアの言っていた部屋までは繋がっていないみたい」

『これで発電が出来るのじゃ?』

「うん。動力が分からないけど、多分魔力か何かかな。地熱って感じじゃないし」

「これは壊しておいた方が良いのかしら?」

「いえ、下手に触って爆発しても困りますから、このままにしておく方が良いと思います。稼働を止めれば、そう言った心配もある程度まで抑えられると思いますし」


 私は装置の側面に回って、電源らしきものを落とす。中で稼働しなくなったので、私が操作したものが電源だったという事が分かる。


「それで良いの?」

「はい。これで通電も収まるので大丈夫だと思います。それにしても、邪聖教って、思ったよりも技術力がありますね」

「そうね。正直、ここまでとは思わなかったわ。これだけの技術……協力していた他組織があっても驚かないわね」


 今のところ、他組織に繋がる情報はない。強いて言えば、ここに繋がる情報を天聖教の偉い人が持っていたという事くらいだ。

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