アク姉の新しいスキル
アク姉が、私を放してくれた後、またフレ姉が、労るように頭を撫でてくれる。
「他に、私に訊きたいスキルはあるか?」
「ううん。アク姉にはあるけど」
「なら、交代だな」
フレ姉はそう言って、私達の一歩前に出た。近接系なので、アク姉と違って前に出る方が守りやすいのだと思う。因みに、アク姉は私達と並びながら、魔法で次々にモンスターを倒していた。ちょっと格好よかった。
「それで、訊きたいスキルって何?」
「【複合魔法】ってやつ。何これ?」
「複数の属性を合わせて別の属性を作り出す魔法だよ。例えば、火と水で蒸気魔法と氷魔法が使えたり、風と雷で嵐魔法が使えたりね。ここら辺の名称は、私が適当に言っているだけで、他にも名称しにくい魔法も使えるよ。火と風で火の竜巻とか水と雷で触ると感電する水とかね」
「それって、順番に使うんじゃ駄目なの?」
聞いた感じ魔法を順番に使ったり、二人でそれぞれの魔法を使えば出来る事なのではと思った。
「うん。駄目。それぞれの魔法が干渉し過ぎちゃうって感じかな。火と水が合わさると蒸気にはなるけど、魔法としては使えないんだ。ちょっと温かいミストみたいになるって言えば分かるかな?」
「なるほど。それを戦闘にも使えるようにしたのが、【複合魔法】って事?」
「そういう事。本当は光属性と闇属性も取ろうと思ったんだけど、【複合魔法】があったから、こっちを優先して取ってみた。さすがに、光と闇も増えると分からなくなっちゃうから、今はセーブ中」
【複合魔法】は、結構使えるスキルみたいだけど、魔法中心のスキル構成じゃないと役には立たないので、私が取る事は無さそうだ。
「一応訊くけど、収得条件は?」
「知らない。いつの間にかあったよ」
「これ、ちゃんと把握出来るようになると良いね」
「どうだろう? そういうのを曖昧にする事に意味があるのかもね。誰でも取れるとかじゃなくて、頑張った人が取れるから唯一無二のスキル構成になるみたいなね」
「ふ~ん」
「反応がドライ!?」
アク姉が、こっちの頬を指で突っついてくる。何かいきなりくさい事言い出したので、何を言っているのだろうって気持ちが大きかっただけなのだけど、反応が悪かったのは事実なので、指をはたき落とすだけで済ませる。
「アク姉に訊きたい事も終わったから、私も戦えるよ。アサルトバードの血が吸いたい!」
「お、おぉ……実の妹から聞きたい言葉ではないな。スッポンなら受け入れる事は出来るんだがな……」
「でも、可愛いハクちゃんの口から聞けるって考えたら、ちょっと興奮するでしょ?」
「だから、変態と一緒にすんな。取り敢えず、アサルトバードは、ハクに任せる。時間掛かるか?」
「ううん。新しい戦闘方法も見つけたから、そこまで掛からないよ」
「そうか。まぁ、様子を見てアクアに援護させる。夜明けまでがリミットだからな」
「うん」
私が足手纏いになっても、二人なら大丈夫だろうけど、私のスキル上げや戦闘経験の事を考えてくれているのだと思う。だから、リミットと言っても、夜明けで解散って訳ではない。
「そういえば、血のアイテムいる? 結構うちの家に溜まってて、どうしようか困ってるんだよね。強化に使えるのもあるけど、特に要らないなっていうのが余ってるんだよね。売っても良かったけど、強化素材として使えるからさ」
「本当に要らない分なら欲しいかな。でも、お金払うよ?」
「良いよ。多分、皆も要らないって言うだろうし」
確かに、アク姉のパーティーなら絶対にお金を受け取ってくれないと思う。
「なら、うちの奴等にも出させるか。要らない血なら、いくらでもあるだろ」
「さすがに、ギルドの人達は……」
「あいつら山狩りでもするのかってくらい血気盛んになってたぞ。そのくらいさせてやれ」
「わ~お……」
ギルドの人達は知っている人もいれば知らない人もいるって感じだけど、向こうからしたらフレ姉の妹として、認識されているので、向こうからは一方的に知られていたりする。だから、フレ姉の妹である私が迷惑プレイヤーに襲われたって聞いて、迷惑プレイヤーを叩きのめそうとしたみたい。そこまで愛される意味がよく分からないけど、それだけフレ姉が愛されているって事かな。
「やっぱり、ギルドの人達にも挨拶した方が良いかな?」
「無理する必要はねぇ。お前がしたいと思ったら連絡しろ。古参勢は、多分大喜びで歓迎するだろうな」
「……気が向いたらにする」
「そうしとけ。アクアのパーティーくらいが限界だろうからな」
フレ姉の言う通り、人付き合いが苦手ではあるので、そんなに盛大な歓迎をされても困るだけだ。アク姉のパーティーは、現実でも付き合いがあるから、普通に接する事が出来る。でも、ギルドの人達とはゲーム内で、時々しか付き合いがないから、一斉に寄られると困る。
そんな話をしていると、フレ姉が指で空を指した。そこには、アサルトバードの群れがいた。
「頼めるか?」
「うん! 任せて! あっ、でも、攻撃は避けてね」
「分かってる」
「ハクちゃん、頑張って!」
私は、突撃してくるアサルトバードを、一匹ずつ片手で掴み取ってから、もう一匹を直接噛み付くことで捕まえる。そして、噛み付いたアサルトバードを、そのまま吸血する。
これで、一気に三匹減らす事が出来る。最初は意味ないと思っていた両手を使っての掴み取りも、突撃してくるアサルトバードの数を減らせるので、避けやすくなるというメリットがあった。ついでに、握りしめてちょっとずつダメージを与える事も出来るから、【格闘】のレベル上げにもなる。
私が目の前でアサルトバードに噛み付いている姿を見て、アク姉とフレ姉が若干戸惑っていた。一応、吸血しているところは見ているはずだけど、モンスター相手は初めてだったかも。アサルトバードに噛み付きながら、ジッとアク姉を見る。
「えっと……私のも飲む?」
「えぇ~、パーティーメンバーだと攻撃出来ないから意味ないんじゃない?」
そう言いながら、突撃してくるアサルトバードを捕まえて吸血していく。【吸血鬼】になった事で、格段に早く飲み干す事が出来るので、もう戦闘は終わった。
「試しに飲んでみたらどうだ? パーティーでも飲めるかもしれないぞ。街中はさすがに怪しいが」
「アカリと試したけど、街では駄目だったよ。それじゃあ、口直しに」
アク姉に抱き上げて貰って、首元に噛み付く。でも、全然血が出てこない。ただただアク姉の首に噛み付いているだけだ。街と一緒で魔力の牙も生えていない。
「無理」
「そうか。そのままアクアが倒れたら面白かったんだが」
「面白くない! ハクちゃんの感触を楽しめたから良いけど!!」
「そんなどうでも良い事はさておき、もうボスエリアだな」
フレ姉がそう言った瞬間に、ボスエリアへのウィンドウが出て来た。
「準備は良いか?」
「私は、大丈夫。ハクちゃんは?」
「大丈夫だよ」
「そんじゃあ行くか」
湿地帯のボスを倒すために、私達はボスエリアへと転移する。




