何もかもが大団円とか限らない
洞窟の探索を続けていくと、奥にある大きな空間に出た。その大きな空間の中央には、大きな円形のテーブルが置かれている。円卓って言うのかな。椅子がないから、どういう風に座っていたのかとかは分からない。
「会議室か何か?」
そんな事を言っていると、急に【索敵】が反応した。反応したモンスターの数は、全部で十体。それらは全て亡霊の姿をしていた。
『貴様、何者だ。ここは、我ら邪聖教の隠れ家。貴様のような者が来て良い場などではない』
「一つだけ確認するけど、あんた達の生き残りっているの?」
相手の言う事は無視して、確認しておかないといけない事を訊いておく。
『我らは、我らの遺志を継ぎし者を待ち続けている。貴様は、我らの遺志を継ぐ意志はあるか?』
「ない。寧ろ、あんた達の息の根を止めに来た。ここにいるのを倒せば、全部終わりって事でしょ」
私がそう言うと、邪聖教の亡霊達は一気に臨戦態勢になった。でも、すぐにその身体を拘束される。拘束しているのは、メアの闇だ。
『なっ!? 闇精霊だと!?』
『くっ……こうなれば……我が秘術を使う!』
一番豪華な服を着ていた亡霊がそう言うと、他の亡霊達が狼狽えていた。秘術というのが何か分からないけど、ちょっとやばそうだ。
「メア!」
闇の槍で亡霊達を次々に貫いていく。亡霊達は苦しそうな表情をしていたけど、まだ消えなかった。
『ふっ……これで終わりだ!!』
豪華な服の亡霊がそういった瞬間、亡霊達の身体が霧になっていった。
『うあああああああああああ!!』
『おおおおおおおおおおおお!!』
苦しむ亡霊の声が響く。それ自体はうるさいなとしか思わないけど、何かヤバい感じがする。
「メア、どうなってる?」
『闇は関係してるけど、操作出来ない。外界からの干渉を全て受け付けないみたい』
メアでも干渉出来ない何からしい。何だか嫌な感じが凄い。
「何か嫌な感じだね。エアリー、マシロと交代させるね」
『はい。お気を付けて』
エアリーとマシロを交代させる。相手が亡霊である以上、エアリーよりもマシロの方が適任と考えられるからだ。
その間に向こうの何かも終わった。出て来たのは、歪な身体をした人型の何かだった。背中から蝙蝠のような羽が生えているところだけを見たら、悪魔みたいな感じがある。
この時点でモンスター名が出て来た。名前は、レッサーデビル。劣化した悪魔って感じかな。
『コレガ我ガ秘術! 我自身ガ悪魔トナル!』
「悪魔は、もっと怖いよ」
実際の悪魔と会っている私からすると、見た目だけ悪魔っぽいというだけで、悪魔が持つ不気味さなどは全く無かった。
『ウルサイ!! 貴様ニ何ガ分カル!!』
滅茶苦茶キレてくるので、【大悪魔翼】を使う。すると、レッサーデビルの表情が固まった。一応、これでも【大悪魔】持ちなので、正真正銘悪魔ではある。多分、【大天使】やら【始祖の吸血鬼】やら混じっているから、レッサーデビルには見抜けないだけみたい。闇霧の始祖には、一発でお見通しだったから、所詮は邪聖教の人間というところかな。
『貴様ダケハ生カシテオケン!!』
「こっちの台詞だよ!」
【電光石火】で背後に移動して、思いっきり蹴り飛ばす。元々が霊体だから、レッサーデビルになっても霊体の可能性があったけど、蹴りの感触的に実体だ。これなら、エアリーでも問題なかったかな。
吹っ飛んでいったレッサーデビルに何本もの光線が注がれた。一本の大きな攻撃はなく、小さく強力な一撃を撃ち込み続けて、レッサーデビルにノックバックを与え、動きを完全に封じるつもりだ。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
レッサーデビルの叫び声が聞こえてくる。連続ノックバックで壁に叩きつけられたレッサーデビルは、ソイルによって磔にされる。それでも尚、マシロの光線は止まない。鬼のような連続攻撃だ。それでもHPがあまり減っていないのは、マシロが手加減しているのか、レッサーデビル硬いのか。
ここで魔法を使われても面倒くさいので、【呪いの魔眼】と【吸魔の魔眼】でMPを減らす。
『ナ、何ダ!? チ、力ガ抜ケル!?』
私がMPを抜いているからかと思ったけど、そうじゃないみたい。メアが手を伸ばして、ニコニコと笑っている。ソイルの拘束も解けないみたいだし、レッサーデビルを見ながら、メアの隣に移動する。
「何をしてるの?」
『あいつから、闇を抜いてるの♪ さっきは干渉出来なかったけど、あの姿になったら干渉出来るようになるみたい。中途半端な変身だし、抵抗力もないよ♪』
「闇を抜くとどうなるの?」
『多分、あの姿でいられなくなるんじゃない? 中途半端だし』
中途半端な事を強調しているからか、レッサーデビルの表情が屈辱で歪んでいた。
「そのまま続けて」
『了解♪』
メアにレッサーデビルの弱体化を続けて貰いつつ、人斬りを取り出す。人斬りに血を纏わせると、刃が血を吸い取って、ひび割れのような赤い部分が光り出す。これが、人斬りと竜狩りを血液で強化した時の現象だ。強化は血液以外に要らない。
【電光石火】で突っ込み、一気にその首を斬る。このタイミングで、マシロの攻撃も止んでいる。私の動きに合わせてくれたみたいだ。
レッサーデビルの首は、あっさりと斬り飛ばせた。【致命斬首】の効果で、レッサーデビルのHPが一気になくなる。
『ハハハハハ!! 我ガソンナモノデ死ヌモノカ!! ン? 何故再生シナイ……ワ、我ハ、悪魔ダゾ!!』
「だから、あんたは悪魔じゃないって。それじゃあ、永遠に消えて」
地面に転がるレッサーデビルの頭を人斬りで貫く。レッサーデビルになった邪聖教の亡霊は、そのままポリゴンになって消えていった。
「弱いなぁ。どうして永正さんが負けたんだろう?」
ここまで弱いとそこに疑問が出て来る。永正さんの強さなら、このくらい相手にもならないと思う。まぁ、そこは何かあったのだろうと考えるしかない。
「皆、お疲れ様」
『ふふん♪ 上質な闇を手に入れたよ! 食べる?』
「えっ? あ~……そうだね。食べてみようか」
『どうぞ♪』
メアから差し出される闇を食べる。上質な闇と言われたけど、本当に苦い何かだった。さすがに、吐き出す程ではないので、そのまま飲み込む。これがきっかけで、何か起これば良いと思ったけど、そう都合良くいくわけものなく、ただ食べただけで終わった。
『美味しい?』
「苦い……」
『えぇ~……良い感じに濃いのに』
『メア、姉様の主食は血なんだから、闇が口に合うとは限らないでしょ』
『むぅ……』
むくれているメアをマシロが慰めていた。ぽつんと残ったソイルの頭を撫でてあげながら、周囲を見回すと円卓の上に靄が生まれていた。どうやら、さっきのレッサーデビルを倒す事が条件だったみたい。
靄を固めると、一枚の紙に変わった。その紙を手に取って中を読む。
『我らが指導者が討たれた。不意打ちをしたにも関わらず、相討ちにまで持ち込まれたのだ。指導者の一人を失った事は、我々に取って大きな痛手となる。何故なら、ここに来てから、他の指導者達も次々に討たれているからだ。さらに、里を共に襲った傘下の組織が、一人の人間に全滅まで追い込まれた。恐らく、里の生き残りの仕業だろう。こちらまで逃れていて正解だった。だが、新大陸に我らの同志はおらず、さらに同志となる者もいなかった。同志達には、既に新大陸に渡るよう伝えている。しかし、その同志も集まりが悪い。邪聖教狩りが行われている事は知っていたが、ここまでとは思わなかった。このままでは、我らの望みは潰える。それはなんとしても避けたい。そのために、亡霊として生きる道を選ぼう。我らの足跡を辿りし同志が遺志を継いで悪魔を……邪神を蘇らせてくれる事を祈り続けよう』
これで書かれている事は全部だった。永正さんとは一番強い人が相討ちになったらしい。いや、不意打ちをしたのに相討ちにまでした永正さんの勝利というべきか。
『クエスト『邪聖教の謎』をクリアしました。報酬として、闇神官の杖を獲得』
邪聖教の最期まで知る事が出来たからか、『邪聖教の謎』をクリアした。しかし、報酬は魅力的じゃない。そもそも邪聖教が持っていたものを貰えても何も嬉しくない。捨てようか迷ったけど、アカリにあげて何かの材料にしてもらう事にする。
『お姉ちゃん……奥に……道がある……』
「ん? 本当だ。まだ続いてるみたいだね」
皆と一緒に、その奥の通路を行くと、そこは墓場だった。ここで死んだ人達を弔ったのだと思う。表向きに弔えもしない人達。それだけでも哀愁が漂うけど、それに同情出来る程人間として出来ていなかった。ここすらも破壊しておいた方が良いかとか思ったくらいだし。
この墓場の中央に靄があった。その靄を固めると、また一枚の紙になった。
『これまでの全てを謝罪したい。我々は間違っていた。それを認められない者は亡霊となる事を選んだ。死を選んだが、私が許されるとは思っていない。一生の業として、死後も背負おう。本当に申し訳ありませんでした』
誰か分からないけど、邪聖教の誰かの謝罪だった。これは、ここで燃やして良いものじゃない。当事者である師匠に見せないといけない。
「はぁ……帰るかな。皆、お疲れ様。手伝ってくれてありがとうね」
『ううん……』
『役に立てて良かったわ』
『また喚んでね♪』
皆をギルドエリアに帰して、レインを喚び、再び湖から湖畔の古都に戻る。そして、刀刃の隠れ里へと向かった。師匠の元に向かうと、すぐに家の中に通された。
「今日もお話かしら?」
「はい。というより、報告です。これをどうぞ」
師匠に見つけた謝罪文を見せる。それを読んだ師匠は、ずっと無表情だった。
「……なるほどね。まぁ、すっきりしない終わり方ではあるわね」
「まぁ、ある程度予想は出来た結末ではあるかと。その場にいた亡霊は消しましたし」
「そう。ありがとう。少し胸が軽くなったわ。本当にありがとうね」
師匠は小さく笑ってそう言った。少しでも、心が晴れてくれたのなら、私も嬉しい。
「まぁ、それだけだとお礼にならないわね。せっかくだから、これもあげるわ」
師匠はそう言って、自分の手に着けていた指輪を私に放ってきた。急に投げられたので、慌ててキャッチする。
「何かあったら、今度は私が力になるわ。まぁ、それでも人目の付かない場所に限定されるけどね」
『クエスト『因縁と怨念の相手』をクリアしました。報酬として妖命霊鬼ミカゲを召喚出来るようになりました。召喚用アクセサリー『妖命霊鬼の指輪』を使用して召喚出来ます。召喚条件は、ソロかつボスエリア限定となります』
何か凄いアクセサリーを手に入れてしまった。てか、それよりも気になる部分があった。
「師匠の名前って……」
「ん? ああ、ミカゲよ。でも、師匠って呼ぶこと」
「あ、はい」
本当にミカゲという名前みたい。意外と可愛い名前だった。
この後は、師匠からの稽古を受けてからログアウトした。ようやく師匠の因縁に決着をつける事が出来た。相手は既に死んでいたし、組織自体も完全に終わっていたけど、その亡霊を始末出来たのは良かったと思う。それに破格の報酬も貰えた事だし。




