不吉の森
レイドエリアに挑む日がやってきた。『不吉な森』と『死霊術士の墓場』の二ヶ所だけど、今日は不吉の森に向かう。不吉の森がある場所は、ジャングルだ。身近なレイドエリアという事で有名らしい。
アク姉達が挑戦してこなかったのは、レイドエリアという事もあって警戒していたからだそうだ。私は、存在すら知らなかったけど。
「ハ~ク~ちゃ~ん!」
ログインした先にいたアク姉に捕まる。そのまま集会場まで連れて行かれて、膝の上で頭を撫でられる。
「おはよう、アク姉」
「おはよう。今日はよろしくね」
「うん。皆は?」
「もうそろそろ来るよ。アカリちゃんの方は?」
「さぁ? アク姉達みたいに、一緒に住んでいるわけじゃないから。でも、すぐに来ると思う。約束の時間は守る子だし」
そう言った直後に、私達の屋敷からアカリが出て来た。
「お待たせしました」
「ううん。メイティ達の方が遅いから気にしないで良いよ」
アク姉はそう言いながら、私の事を撫でる手を止めて、前に回していた手も離した。いつもなら、全員揃うまで無限に撫でてくるか抱きしめ続けるのに。
もしかしたら、アカリに遠慮しているのかもしれない。アク姉自身もお祝いしてくれたから、私とアカリが付き合っている事は知っている。それくらいしか、アク姉が手を止める理由が思い付かない。
アク姉から降りて、隣に座る。そして、私のもう片方の隣にアカリが座った。ぴったりと身体がくっつくくらいに近い。アカリの方も、少し嫉妬していたって事かな。ちょっと嬉しいかも。
三人で少し話していると、メイティさん達もやってきた。
「お待たせ」
「よし。じゃあ、全員揃ったから行こうか。ハクちゃんとアカリちゃんは、二人でパーティーを組んでね」
「オッケー」
アカリとパーティーを組んで、アク姉達一緒にジャングルへと移動する。道中は、召喚しておいたエアリーが近づいてくるモンスターを倒してくれる。そのまますんなりと不吉の森の入口に着いた。
「エアリーちゃんがいると、移動が楽になるわね」
『お褒め頂き光栄です』
エアリーは、ニコッと笑ってそう返していた。そんなエアリーの頭を撫でてあげつつ、アク姉の方を見る。
「ここからどうするの?」
「今から、ハクちゃんにレイド申請するから受け入れて」
「は~い」
アク姉の申請を受け入れて、レイドメンバーとなる。一応、レイドリーダーはアク姉だ。そっちの方が、私が楽だから。
「それじゃあ、入るよ」
「うん」
不吉の森へと転移する。転移した先は、ジャングルと同じような高い木が生えている。その木々が、太陽の光を阻み、辺りは薄暗い。不吉って部分は、この薄暗さにあるのかな。
今回は、【竜王息吹】と【蒼天】を外して、【光装術】と【闇装術】を装備する。皆を巻き込む可能性が高いものだったからだ。
「【召喚・マシロ】【召喚・ライ】」
この環境なら、灯りを出せるマシロとピンポイントで点攻撃が出来るライが良いと判断して、二人を喚んだ。
「【召喚・ラッキー】」
アク姉もラッキーを喚ぶ。ラッキーは、アク姉の肩に乗っかるという結構器用な事をしていた。
『にゃ~』
ラッキーが鳴くと、私達全員にバフが掛かった。掛かっているバフは、運の上昇らしい。幸運猫という名前は伊達じゃないらしい。
「それで、ここってどんなモンスターが出て来るの?」
「虫」
「虫?」
「虫。芋虫だったり、蜂だったり」
虫系モンスターかと思ったのと同時に、皆の前で噛み付くのかと考えて嫌だなとも思った。
「はぁ……私、吸血するから、しばらくは倒さないでね」
「どのくらい吸えば良いの?」
「う~ん……それぞれ十体くらいかな。ランダムで獲れるから、それで終わりではないかもだけど。あっ、拘束はエアリー達がしてくれるから」
「了解。倒して良くなったら言ってね」
「うん」
アク姉達に私のしたい事を伝えておく。私としては重要な事だからね。そんな話をしていると、【索敵】にモンスターの反応があった。
『お姉様』
「うん。お願い」
エアリーが風でモンスターの動きを止める。形的には、芋虫型のモンスターだ。
「マシロは照らして。ライは、アカリをお願い」
『分かったわ』
『……』こくり
エアリーが拘束してくれているモンスターの元に走る。アク姉達も私の後を追ってきた。皆で固まった方が安全だからね。モンスターの姿が見える。本当に芋虫型のモンスターだ。大きさは大人一人分というでかさだけど。名前は、ローリングキャタピラー。どう考えても転がってくる芋虫だ。エアリーの風で拘束されているので、今は転がる事も出来ないみたいだけど。
その芋虫に近づいて噛み付く。後ろから小さく悲鳴みたいなのが聞こえたけど、気にしないでおく。既に何でも飲みまくっている私に、抵抗なんてないのだ。そんな事を気にしていたら、吸血鬼なんて出来ない。
そのまま吸っていくと、既に持っている【回転】のスキルが手に入った。
「これは……期待出来ないかな」
そのまま近くに拘束されているローリングキャラピラーを四体程吸血したけど、全て私が持っているスキルだったので倒して良い事になった。
転がってくるローリングキャラピラーをトモエさんが盾で空中に弾いて、浮き上がったところにアメスさんの連続魔法が突き刺さった。見事な連携でさすがだなと思った。
そこからシルキーワームっていう巨大な蚕と腹に付いている針を飛ばしてくるミサイルホーネットと戦った。基本的にライが麻痺させたり、エアリーとマシロが拘束したりしたのを吸血して【繭】と【虫翅】を手に入れた。
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【繭】:絹の糸で身体を覆う事が出来る。
【虫翅】:魔力によって出来た虫の羽を生やす事が出来る。羽の展開時のみMPを消費して飛ぶ事が出来る。控えでも効果を発揮する。
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「見て見てアク姉」
「うわっ!? キモっ!?」
【虫翅】の挙動を見たアク姉が驚きながらそう言った。ちなみに、私も同意見だ。
「あまり使わないでおこっと」
「私もそれが良いと思うわ」
アメスさんも封印に賛成した。実際、本当に虫の翅っぽいから、嫌な人は嫌だと思う。
「取り敢えず、もう獲れるスキルはないから全部倒して大丈夫」
『では』
エアリーが感知出来る範囲のモンスターを斬り刻む。
「おぉ……凄いな……」
エアリーの殲滅力にサツキさんも唸っていた。今回の虫モンスター達は、皆柔らかい部類だったからっていうのもあるのだけどね。
「あっ、あそこに宝箱がありますよ」
アカリが宝箱を見つけた。でも、アク姉達はすぐに飛びついたりはしなかった。アク姉達が動かないので、私も動かない。
「取りに行かないの?」
「う~ん……あれ、モンスターの可能性があるんだよね。出て来るまで分からないし……」
「後は、鍵が掛かっている可能性もありますの。解錠に失敗すると、状態異常になったりしますわ」
「へぇ~、じゃあ開けますね」
念のため、【解錠】を取ってから、宝箱に近づく。特に動き出す事はないので、そのまま宝箱に手を掛ける。
「開かない。これが鍵が掛かってる状態ですか?」
「うん。そうだよ。本当に開けるの? 結構危ないけど……」
メイティさんが心配そうにそう言う。本当に宝箱の罠は危険みたい。
「う~ん……まぁ、大丈夫だと思います」
いつも通り影を操って鍵穴に影を入れる。影から伝わる感覚で、鍵の構造を確認する。
「う~ん……ん? こうかな」
錠を弄っていたら、宝箱の鍵穴から針が飛びだしてきた。私の目の前で針は止まる。
『お姉様……』
「……てへっ!」
思いっきり罠に引っ掛かったから、エアリーからジト目で見られる。廃城下町エリアで色々と心配させるような事になっていたから、またですかって感じだと思う。
「多分、ここを無理矢理やれば開く。ほら!」
今度は鍵を開ける事が出来た。宝箱を開くと、中にはスキルの書が三つ入っていた。
「おぉ……本当にレアだ」
入っているスキルは、【操水】【聖気】【魔気】というラインナップだった。開けたのが、私だからこそのラインナップなのかな。
「いらなっ!」
全部持っているスキルなだけに、そう言わざるを得なかった。
「アク姉にあげる」
「ありがとう。アカリちゃんは、欲しいスキルある?」
「う~ん……特にはないですね」
「じゃあ、私は【操水】を貰おうかな」
「じゃあ、私は【聖気】で。回復に合うかもだから」
そこまで言って【魔気】が欲しいという声は出てこなかった。名前的に、自分に合うかどうかで悩んでいるって感じかな。
「【魔気】を育てると、【魔王】になりますよ。闇と暗黒属性に適性を持って、攻撃でHP吸収とMP吸収が常時発動します」
「なら、サツキじゃない?」
「アタッカーが持つべきか。なら、私が貰おう」
しっかりと話し合いで分配が決まった。私が要らないって言ったのも大きいかな。基本的に最初に見つけた人に決定権を与える人達だからだ。
それから何度か宝箱を見つけたけど、スキルの書は入っておらず、木の苗や絹糸などが入っているだけだった。それでも、私やアカリは嬉しいものなので無駄ではない。
モンスター達に関しては、エアリー、ライによって次々に倒される。マシロの灯りもあるから、周囲の探索もやりやすい。
「これがハクちゃんのいつもの探索ですか?」
「はい。エリアの調査とかは、いつもこんな感じです。廃城下町とか古城は、特に調べる場所が多いですし、モンスターも多いので」
「調べる事に集中したい時には良いかもしれないですね」
「はい。滅茶苦茶助かってます」
トモエさんも精霊がいる事の強みを改めて感じたみたいだ。レイドエリアだけど、ここら辺は全然余裕だ。精霊が居るという事もあるけど、それ以上にモンスターが弱い。結構初心者達用のレイドエリアなのかも。
問題はボスモンスターがどんな相手かってところかな。




