予想外の収穫
南側の扉から外に出ると、まず初めに、廃城下町エリアからも見えていた城壁が目に付いた。ちょっと気になったので、その場で飛んで城壁の向こうを見てみる。城壁の向こう側は、深い霧に覆われていて、何も見えない。
「霧か……レインなら動かせるかな」
『いえ、厳しいと思います』
いつの間にか隣に飛んできたエアリーがそう言った。
メアとマシロは、下で追いかけっこをして遊んでいる。いや、多分、メアが余計な事を言って、怒ったマシロが追い掛けているっていうのが正しいかも。いつもそんな感じだし。そんなになっていても、特に何とも思わないのは、アク姉とフレ姉の喧嘩と同じ感じだからかな。
「どういう事?」
『あの城壁より向こうにある風に干渉出来ません。なので、レインでも霧に干渉は出来ないでしょう』
「なるほどね」
エリアの端よりも向こうだから、精霊でも干渉は出来ないって事かな。多分、私でも無理だと思う。念のため、城壁より向こう側に行こうとすると、見えない壁に邪魔された。ちゃんと行けないようになっているらしい。
「う~ん……まぁ、良いか。エアリー、ここから行ける場所ってある?」
『いえ、先程の入口以外に繋がっている場所はありません』
「オッケー」
ひとまず、この庭を隈無く探索する。ずっと手入れがされていなかったからだと思うけど、雑草がすごい。木々も全く整えられていないから伸び放題だし、蔓が壁に張り付いたりしている。木々の植え方や錆び付いたテーブルと椅子の配置やガゼボなどを見ると、元は綺麗な場所だったのかなって思う。
そんな中、追いかけっこをしていたメアが転んだ。
「メア!?」
浮ける大丈夫という風に考えられるけど、それでも転んだところを見ちゃったら心配になる。
『大丈夫♪』
雑草の中からピョンと跳びだしてきたメアは笑いながらそう言う。直後にマシロに捕まって、また転んでいたけど。
そんな二人の傍に来ると、メアが転んだ理由が分かった。メア達が居た場所は、周囲よりも二段程低く凹んでいたからだ。
『どうやら、池の跡のようですね。水が入らなくなって久しいようです』
「どこから水を引いてたの?」
『それが、この場所に繋がる水道などはないようです。湧き水だったか、魔法で入れていた可能性が高いですね』
「魔法かぁ……まぁ、そっちの方が楽だったのかな」
魔法のある世界ならではの池の作り方と言えるかもしれない。もし仮に、魔法で作った池だったとしたら、その中に生き物とかは棲めたのかな。
「取り敢えず、二人とも気を付けてね」
『は~い♪』
『はい』
二人に注意してから、探索を再開するけど、雑草が邪魔すぎて全然捗らない。
「エアリー、雑草を刈り取る事は出来る?」
『はい。お任せ下さい』
エアリーに頼んで雑草を一気に刈り取って貰う。刈り取られた雑草はアイテム化したので、全部回収しておく。これは、ソイルに上げて肥料にしてもらう。
「これで見やすくなった」
『見つかりやすくなっちゃった!?』
『メ~ア~!! 待ちなさい!!』
思わぬところにも影響したけど、二人が楽しそうなので良いとしよう。
雑草がなくなった事で、池の跡も分かりやすくなっている。地面に穴でも開いていたら、そこから水が湧いて出ていたのだなと思えるのだけど、そんな跡すらない。エアリーが言っていた魔法で池を形成していた可能性が高くなった。
「ん?」
雑草に埋もれて分からなかったけど、池の跡の中央にキラリと光るものが落ちていた。それは、ロケットペンダントが付いたネックレスだった。ただ、長年野ざらしにされていたからか、池の中に落ちていたからか、錆び付きが酷かった。
「アカリに錆を落として貰おうかな……あっ」
アカリに直してもらうのが、一番適している方法だと思った矢先、蓋が外れて中身が見えるようになった。既にボロボロだったので仕方ないと割り切り、中身を見る。すると、そこには、何かの宝石が入っていた。
その宝石を取った瞬間、ネックレスは音もなく崩れた。取れた宝石は、ティアドロップという名前で、その名の通りに涙の雫のような形をしていた。
城にあったものだし、闇霧の始祖に見せた方が良いかな。知り合いの持ち物かもしれないし。
他に何かないか調べてみたけど、特に気になるものはなかった。次に、北側の外に向かった。こっちは、庭の中央に噴水が置いてあって、今も水を出していた。その噴水から水が溢れて池を形成している。
雑草の方は、こっちも変わらずなので、エアリーに刈って貰う。
「こっちは噴水なんだ」
『姉々、この水、澄んでるよ』
「だね。でも、飲んじゃ駄目だよ」
『うん♪』
メアの言う通り、噴水から出ている水は澄んでいる。池の中も隅々まで見通せる程だ。正直、ここで澄んでいると、逆に怖い。
「ちょっと気になるな。マシロ、一旦レインと交代して貰って良い?」
『うん。良いわよ』
「ありがとう」
マシロの頭を撫でてから、レインと交代する。
「この水、どういう水か分かる?」
『う~ん……私の水と似てるかも。でも、物足りたりないって感じ』
「物足りない? 神力がない感じ?」
『あ、うん。それ。魔力が満ちてるから、良い水だけど、神聖さはないよ。魔力の元は、あの噴水だと思う。【無限水】的な印象』
「なるほどね」
『後、変な水の通り道がある途中で詰まってるけど』
「それって、南に続いてる?」
『うん』
多分、ここから南の池に通じる道があるのだと思う。でも、向こうの出口が塞がっているから、水が出ていかないらしい。それとは別に排水溝があるから、池が容量以上に達する事もないみたいだ。
「その詰まりって取り除ける?」
『難しいかも。思いっきり押しだそうしてるけど、ビクともしない。もしかしたら、詰まりじゃなくて、意図的に塞がれているのかも』
「ならいいや。他に水の中で変わった事はある?」
『う~ん……特になし』
「そっか」
レインの言う通り池の中は何もない。
さっきみたいに、落とし物はないかと庭中を探したけど、それもなかった。【心眼開放】でも何も見つからない。
「う~ん……何かあっても良さそうなのになぁ」
『その何かが噴水なんじゃないかな?』
レインの言う事はもっともだ。あっちになくて、こっちにあるものは、中央にある噴水だ。
「……確かに。噴水を調べよう」
『うん』
レインと一緒に噴水に近づいていく。【浮遊】で浮きながら、噴水に何かないかを見ていくと、見えにくい場所に凹みがある事に気付いた。その凹みは、涙の雫のような形をしている。
『変な凹みだね』
「うん。でも、これが填まりそう」
さっき見つけたティアドロップを填めてみる。すると、噴水の勢いが急に強まった。水が高く上がり、雨のように降り注ぐ。
そして、その勢いで噴水に罅が入り始める。年季の入ったものだし、水の勢いに耐えられるだけの強度がなくなっていたらしい。
「うげっ!? ヤバっ!!」
ティアドロップを外そうとしたけど、全然外れず、罅が噴水全体に達する。完全に耐えきれなくなった噴水が吹き飛んだ。破片が、私達に襲い掛かってくるけど、その全てをエアリーが弾く。
『無事ですか、お姉様』
「うん。ありがとう」
噴水が壊れた事で水が止まった。どこから引き上げていたのではなく、噴水自体が水を作り出していたという事が分かる。
「うわぁ……どうしよう……」
『素直に謝るのが一番だと思う』
「だよね……」
闇霧の始祖に会うのが億劫になりそう。そう思いながらも、噴水の跡を調べてみると、恐らく噴水を構成したものではないものが落ちていた。
「これって、血瓶?」
出て来たのは、よく見た事のある血瓶だった。名前は、水精霊の血瓶らしい。つまり、レインの血と同じだ。
『これから噴水と同じ感じがする。これが核だったんじゃない?』
「精霊の血が?」
『うん。私と同じ血なら、水の……因子だっけ? そういうのを持っていてもおかしくないと思う』
「つまり、これを触媒にして無限に水を出していたと」
『そうじゃないかな。でも、どこで血を手に入れたんだろう?』
「さぁ? 闇霧の始祖に訊いてみるよ」
『うん。ところで、飲まないの?』
レインは、ジッと私を見ながらそう言った。
「いや、レインと同じ精霊の血だしなぁって思ったけど、精霊女王の血を飲んでいるから今更か」
『うん。飲んで』
何故か飲んで欲しそうにしているのが気になるけど、取り敢えず水精霊の血瓶を飲む。
『条件を達成しました。【無限水】の収得が可能になります』
まさかのスキルが収得可能になった。それぞれの属性の精霊の血を飲む事が条件の一つらしい。多分、それだけではないと思うけど。すぐに収得する。
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【無限水】:無限に水を蓄えて、自由に出し入れ出来るようになる。控えでも効果を発揮する。(【給水タンク】から特殊条件で進化)
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「【無限水】が収得出来た」
『お揃いだね』
嬉しそうに言うレインの頭を撫でてあげる。
「だね。これで、【水氷武装】も使いやすいし。他に血瓶みたいなのはあるかな?」
『ないと思う。水の中にも、噴水の破片しかないみたい』
『地面に落ちたものの中にも、破片以外の形をしたものはありませんでした』
二人がそう言っているから、まず間違いない。後は、もう一度庭を一周して調べて何も無ければ、一階の探索は終わりだ。




