湿地帯へ
東の森のボスであるフォレストリザードを速攻で倒して、さらに奥へと進んでいく。すると、次のエリア湿地エリアへ移動するかのウィンドウが現れた。次のエリアに移動する際には、こうしてボスを倒して、さらに先へと進んでいく必要がある。でも、一度でもこうして移動する事が出来れば、ボス戦経由せずとも移動する事が出来るらしい。私は、一度も先に進もうとしなかったので、このショートカットが出来なかった。知ったのもつい最近なので、どうしようもなかったけど。
私は、すぐにYESを選ぶ。すると、光に包まれて、森の出口に出た。
視界に広がるのは、所々に大きな水溜まりがある平原と所々に小さな林がある。
「うわぁ……ねちょねちょしてそう。底なし沼に気を付けよ」
慎重に歩きながら、周囲を見回す。すると、地面の草に実が生っているのが見えた。口直しが出来るものは、私にとって、かなり重要なので採取しておく。名前は、湿原ベリーというみたい。
「ふんふふ~ん」
実の一つを採取して食べる。
「酸っぱっ!? 食べられない酸っぱさじゃないけど、もう少し甘さが欲しいところ……まぁ、贅沢は言ってられないか」
ある程度の実を回収した後は、周囲を見回しながら歩き始める。そこで、少し気になる事があった。それは、モンスターの姿が見えないという事だ。
「怖いなぁ。確実に不意打ち系だろうし……」
開けた視界の中で、ここまでモンスターの姿が見えないとなれば、地面や沼から出て来る可能性が高い。それか、景色に擬態している可能性も考えられる。つまり、常に周辺を厳重に警戒しないといけないという事だ。
先に血染めの短剣を抜いておく。いつ攻撃されても、防御もしくは反撃出来るようにだ。
「何かレーダーがあればなぁ。何かないかな……」
まだスキルの全部を見た訳では無いので、色々探せばレーダーになるスキルも見つかるはず。
森だと姿が見えるから、そこまで重要視していなかったけど、ここまでモンスターが出ない状況だと、ちょっと欲しくなる。
そんな事を思いながら、警戒しつつ歩いていると、沼からピンク色の細長いものが、私に向かって飛び出してきた。
即座に短剣を振って、それを斬り裂く。反応が間に合う速度で助かった。ダメージエフェクトが飛び散って、沼の中からまん丸した身体のカエルが跳びだしてきた。名前は、マッドフロッグというみたい。
マッドフロッグは、私に向かって口を開く。また舌を使った攻撃かと思ったら、口の中から飛び出して来たのは、舌じゃなくて紫色の液体だった。
反射的に飛び退いた事で避ける事が出来た。紫色の液体を吐き出すなんて、毒に決まっているし、ちゃんと避けないとね。
「毒を吐いてくるなら、接近した方が良いかな」
連続で毒を吐いてくるので、それを避けながら近づいて、その身体をサッカーボールのように蹴っ飛ばす。空高く飛んでいったマッドフロッグの着地点に移動する。
「【トリプルピアース】」
三連続の突き刺しを受けて、マッドフロッグのHPがなくなった。舌を斬って二割、蹴り二割、短剣の三連続突き刺しで、残り六割を削る事が出来た。三連続のどこかでクリティカル判定が生じたみたい。【執行者】の効果もあって、大ダメージになるから、これだけでも倒せたって感じだと思う。
ドロップアイテムは、マッドフロッグの舌、マッドフロッグの肉、マッドフロッグの弾性皮、マッドフロッグの毒袋だった。
マッドフロッグは、毒と不意打ちの舌攻撃が厄介だけど、倒せない相手ではない。
「フレ姉が言っていたのは、マッドフロッグじゃないのかな」
私のスキルでは、苦戦するかもって言われていたけど、マッドフロッグはそこまで苦戦しなかった。だから、マッドフロッグとは別のモンスターが、本当に危険なモンスターの可能性がある。
警戒は緩めないようにして歩いていくと、何度かマッドフロッグの襲撃を受けた。基本的に奇襲となる初撃は、舌による攻撃だったので、短剣で斬れば良いので対処は簡単だった。
ここら辺には、マッドフロッグしかいないのかなと思いながら歩いていると、ある泥沼の前で、嫌な予感がした。それを証明するように、泥沼から鋭い杭のようなものが伸びてきた。
「うわっ……!?」
横から来る泥の杭を、上体を反らして避けた私は、すぐにその杭を斬って、後ろに下がる。
すると、泥沼から何かが出て来た。それは、さっきのマッドフロッグとは違う。泥自体が、浮き上がって形を作っていく。マッドパペットという名前のモンスターは、泥で出来た人形だった。常に流動しているので、一定の形を取っていない。
「全身武器って考えた方が良いかな……」
私が呟いたと同時に、マッドパペットが、私に向かって移動してきた。その移動方法は歩行では無く、滑るように移動している。
「【アタックエンチャント】」
MPの一割が消費される。私の支援魔法の一つである【アタックエンチャント】は、物理攻撃を強化する。効果時間は五分強だ。まだ成長途中の支援魔法では、ここら辺の基礎強化しか出来ない。デバフもまだ出来ないので、少しずつ成長させないといけない。
因みに、消費されるMPは、成長する度に少しずつ減っていくみたい。同時に効果時間も少しずつ延びる。目に見えて減ると有り難いけど、さすがに、そこまで都合良くはいかない。
マッドパペットは、手を伸ばして攻撃してくる。この攻撃は、先程の杭と同じだ。それだけなら簡単に避けられる。
でも、少し違う事があった。伸びてきた杭から枝分かれして、避けた私に向かって伸びてきたからだ。
「うぇ!?」
後ろに倒れ込んで、すれすれのところを避ける。そして、バク転の要領で地面に手を付きながら、伸びてきていた杭を蹴る。
すると、泥を蹴って、身体の一部を飛ばしただけで、HPは一ミリも削れなかった。
「泥の身体は、本体じゃない!? なら、どこに……」
マッドパペットの本体を確認しようとするけど、マッドパペットの攻撃が来るので、悠長に観察している暇もない。こちらに伸びてくる杭を短剣と蹴りで、防ぎつつ反撃する。でも、やっぱりHPは減らない。
ただ一つだけ気付いた事がある。
「泥の体積が減った?」
マッドパペットの身体が小さくなっていた。私が少しずつ蹴り飛ばしたり、斬り飛ばしたりしたからだと思う。
マッドパペットは、いきなり攻撃を止めて泥沼に戻ろうとする。それを見て、私は、すぐに身体を補充する為だと気が付いた。
「させないよ!」
一気にマッドパペットに駆け寄る。近づいてくる私を迎撃しようとして、マッドパペットが杭を伸ばしてくる。それを短剣で斬り飛ばしながら進み、その身体に、勢いを載せた回し蹴りを叩き込んだ。
上半身と下半身で分かれるほど、大部分を蹴り飛ばせた。その結果、断面に赤い石を見つけた。私は、それを泥の中から引き抜く。
これが悪さをしていると考えて引き抜いてみたけど、それは間違いだった。私が引き抜いた石を中心に、上半身だった泥が集まってきたからだ。どうやら、石を引き抜いても、身体を構成していた一番大きな泥がすぐに集まってくるようになっているみたい。マッドパペットの核と言ったところだと思う。
でも、これを手に入れる事は出来ないみたい。どうやっても泥が纏わり付いてきて、マッドパペットが倒せないからだ。なので、思いっきり握り潰した。核を砕くと、マッドパペットの泥が全部ポリゴンになって消えた。
そして、ドロップアイテムとして泥人形の泥を手に入れた。
「何に使うんだろう?」
さすがに、泥の使い道は思い付かないので、後でアカリかラングさんに確認してみる事にした。




