乱戦の中へ
夜霧の執行者を倒せたので、アカリと改めて合流する。
「ふぅ……一体だけで良かった。アカリもありがとう」
アカリは、私が夜霧の執行者に大槌を叩きつけている間、他のモンスターからの攻撃を防いで倒してくれていた。だから、ちゃんとお礼を言っておかないと。
「私がお礼を言う方だと思うけど……ありがとうね。助けに来てくれて」
「どういたしまして。まぁ、助けに来られたのは、偶々だけどね。てか、何で夜霧の執行者と戦ってたの? 相性最悪でしょ?」
「そうも言っていられなかったからね。一応、足止めの方法がないわけじゃないし」
よく見ると、アカリはいつもの細剣の他に小さな短剣みたいなものも持っていた。
「何それ?」
「これ? パリングダガー。パリィの成功率を重視した武器……かな? こっちでパリィして動きが止まったところを突き刺すって戦法かな」
「ふ~ん、なるほどね。取り敢えず、一緒に動こう。二人の方が、効率が良い。幸い、上はエアリーとスノウがどうにかしてくれるから」
「うん。足手纏いにならないように頑張るね」
ここからは、アカリと一緒に動く事にする。
蒼天竜は、さっき倒してから、新しく現れていない。そこから分かる事は、蒼天竜の援軍を気にしないで良いということだ。だから、スノウとエアリーに空を任せて大丈夫のはず。
なので、アカリと連携を取って、アク姉達がコーラルタートルに集中出来るように、モンスターを殲滅する。その足掛かりとして、まずはレインを自由にする。取り敢えず、それが、最善策のはずだ。
「雨男を倒す。レインがいれば、雨男の姿が見えないとかはないから倒しやすい」
「それは、ハクちゃんだからじゃないかな……」
「そんな事ないよ。一度は倒してるでしょ?」
「それは、そうだけど……」
アカリは自信なさげだけど、相手がショットガンとナイフだけなら、そこまでの脅威ではない。私もいるし、レインもいるわけだからね。
「レイン!」
『お姉さん。ごめん。数が多くて……』
「そこは気にしなくて良い! 雨を止めておいて!」
『うん!』
レインが雨の全てを止めておいてくれる。これが重要だ。【雨隠れ】が一番厄介だから、これがない方が助かる。隠密双刀を刀に変えて、【影武装】を使う。
「私がショットガンを破壊する。それなら、アカリにとって雑魚になるでしょ?」
「ボスだから、雑魚とはいかないけど……倒せると思う」
「ならオッケー」
私は【雷脚】を使って駆ける。雨男達がショットガンを向けてくる。高速移動で移動しながら、ショットガンを攻撃していく。【電光石火】を使った移動では、正確な攻撃は厳しいけど、この高速移動なら移動中でも、正確に攻撃を命中させる事が出来る。そうして、全ての雨男の後ろに抜けていった。
直後、アカリが先頭の雨男と戦闘になる。ナイフによる攻撃を正確に弾いて、急所を連続で突いていく。攻撃の正確さが上がっていた。目に見えてHPが減っていき、最初の雨男が倒れる。
その間に、私も背後から雨男を倒していく。【二刀流】で攻撃のリーチ回数を増やし、雨男を倒していく。レインも氷の槍を飛ばして攻撃に参加してくれるから、どんどんと雨男の数を減らす事が出来ていた。
ただ、この戦闘中も雨男が増えていた。レインが苦戦するわけだ。さすがに無限に出て来るという事はないだろうけど、この数は厳しい。【竜王息吹】や武装系スキルを駆使して、新しく出て来た雨男の方を倒していく。そっちは、ショットガンを持っているからだ。【影武装】の武器破壊で事故を減らせるからだ。でも、数の増え方が不味い。こっちが一体倒しても二体出て来るのでは、向こうの黒字だ。
「この増え方は不味いな。アカリ、【蒼天】を撃つ!」
「えっ!? ここで!?」
アカリの驚きは無理も無い。【蒼天】の威力を見た以上、乱戦状態での使用は厳禁だと馬鹿でも分かるからだ。
「この場を制するなら、これが早い! それに、ここの地面に撃てば、周囲への被害は減らせる!」
そう言って、【蒼天】のチャージを始める。それを見て、アカリは、レインと一緒にこの場を離れていった。レインは、ギリギリまで雨の制御をしてくれる。これは、本当に有り難い。
レインに心の中で感謝しつつ、空を飛んで地上を見る。そして、最低限チャージの【蒼天】を地面に向かって放った。命中した地面から大きな衝撃波が広がる。熱を伴ったその衝撃波は、雨男達を焼いていき、そのHPを大きく削っていった。
着弾地点付近にいた雨男は、即座にHPを失い。少し離れた場所にいた雨男は、じわじわとHPを削られて倒れていった。
【蒼天】が終わったのと同時くらいに、新しい雨男が一体出て来たけど、それは【電光石火】を駆使した速攻で倒した。
そして、すぐにアカリとレインの元に戻る。【蒼天】の反動で声が出ないので、手振りでレインに指示を出す。レインには、ソイルの援護をして貰う。これでサンドワームとジャイアントサンドマンの方は大丈夫。アカリに手振りでアク姉達の周りにいるモンスターの排除を伝える。
「了解」
フォレストリザード、ジャイアントトード、黒帝ゴリラ、ヴェノムアナコンダ、ラストナイト、白鴉、赤兎、黒蝕スライムを倒しに向かう。私が担当するのは、黒蝕スライム、白鴉、ラストナイトだ。黒蝕スライムなら、一気に身体を吸い取って核だけにする事で倒せるし、白鴉は私が噛み付けば動けないから血を吸う事で倒せる。ラストナイトは、アカリの武器だと武器の耐久値を減少させちゃうから、血の刃で武器そのものの耐久値を減らさないで戦えるから、適任というわけだ。
本当は、アク姉とかカティさんとかの遠距離持ちに担当して貰いたいけど、コーラルタートルの攻略をしないといけないので、そうもいかない。サツキさんとトモエさんで、アク姉達を守りながら戦っているけど、ラストナイトと黒蝕スライムには、武器では無く素手で攻撃しているように見えた。
それだけで、耐久値の減少を避けようとしているのが分かる。だから、私が適任という判断が出来た。
アカリは、他のモンスターを的確に倒していった。赤兎の速さにもギリギリ反応して、その頭を正確に貫いている。
私も黒蝕スライムを飲みながら、ラストナイトを連撃で倒し、突っ込んでくる白鴉を斬り落とす。その中で、アカリの背後から攻撃しようとしていたヴェノムアナコンダの頭を【暴風武装】で強化した弓矢で射貫く。そこで怯んだヴェノムアナコンダは、アカリがトドメを刺した。
「ごめん、ハクちゃん!」
血液で手を作って大丈夫という意味を込めて振りながら、ラストナイトに突っ込む。
モンスターの増え方は、雨男よりもこっちの方が多い。さっきでさえ、雨男に専念出来たレインでも、すぐに倒しきれない量が出て来ていた。いくらサツキさんが強いと言っても、この多種に渡るモンスター達をレインと同じように倒していくのは難しい。
だからこそ、手が空いている私とアカリが奮戦しなければならない。ずっと【二刀流】で戦っていたけど、様々な状況に対応出来るように双血剣に入れ替える。思わぬところで、師匠から言われた事を思い出す事になった。色々な武器に慣れる。今回の乱戦は、それを実践する良い機会となった。




