ライの住む場所
ギルドエリアに戻ると、エアリーが飛んできた。
『お疲れ様です、お姉様。事の詳細は、レイン達から聞きました』
「エアリーもありがとうね」
エアリーの頭を撫でてあげる。エアリーは、嬉しそうに目を閉じた。十分に撫でてあげたら、エアリーは、私に頭を下げてどこかへと飛んでいく。その入れ替わりで、ライがやって来た。そもそもライにも用事があったから、丁度良い。
「ライは、どういう場所に住みたい?」
そう。ライがどういう場所に住むのかを決めて、用意してあげないといけない。
『……電気』
言葉にしないと伝わらないと考えたからかライが可愛い声で一言そう言った。
「電気のある場所ね……」
さすがに、電気のある場所と言われても思い付かない。強いて言えば、屋敷の中には灯りとかがあるけど、それが電気というのはね。
念のため、ギルドエリアのメニューを見てみる。中々電気関係のものがなく、メニューをスクロールしていくと、落雷発電所というものを見つけた。
「怖……」
落雷で発電するって事で、常に雷が落ちている環境が出来るらしい。これを作ってもいいのだけど、発電した電気の使い道もないので、さすがにぽんっと出す訳にはいかない。まずは、アカリに連絡してみる。すると、アカリが走ってきた。屋敷から来てなかったから、多分自分で作った実験室から来たのかな。
「本当に新しい子を迎え入れたんだね。こんにちは。私は、アカリだよ」
『……』こくり
ライは、頭を下げて私の後ろに引っ込んだ。アカリが来てくれたおかげで分かったけど、話し下手とかじゃなくて、恥ずかしがり屋なのかな。
「ライって名前。恥ずかしがり屋だから、あまり喋らないんだ」
「へぇ~、ソイルちゃんみたいだね。ソイルちゃんよりも話さない感じなのかな?」
「そういう事」
「なるほどね。それで、発電所か……実は、私も作ろうかなって思っていたところなんだよね。次の調合に電気を使ったりするから」
調合に電気が必要というのは、ちょっと気になった。薬品に電気でも流すのだろうか。
「何してるの?」
「器具を使うためだよ。遠心分離機とか魔力で動かすよりも電気で動かす方が強力なんだよね」
「遠心分離機に強力も何も無いんじゃ……」
遠心分離機の知識がないからあれだけど、イメージ的に強力である必要が分からない。
「より沢山の量が出来るとか沢山の種類が出来るとかかな。魔力を使うものだと、MPが足りないからね。後は、回転数を上げるとかね。本当に化学の実験をしている気分だよ」
「ふ~ん、なら、丁度良いか。良かったね、ライ。雷が沢山落ちるところが出来るよ」
『……』コクッ
ライは嬉しそうに笑いながら頷いた。そんなライの頭を撫でてあげていると、アカリが手早くメニューを操作して、発電所が出来上がった。屋敷から結構離れたところに黒い雲が集まって雷が落ちている。
「導線の準備してくる!」
「ああ、うん。いってらっしゃい」
アカリが発電所の方に走って向かった。
「雷対策してないんじゃないのかな……ライ、悪いんだけど」
『……』こくり
私のお願いを察したライが、アカリを追って発電所の方に向かっていった。これで、アカリが雷に打たれる事はないだろう。まぁ、ギルドエリアで落雷を受けても死ぬとは限らないのだけどね。
「ハクちゃ~ん!!」
背後から現れたアク姉の突進抱きつきに捕まる。こういうときにこそ【第六感】や嫌な予感がして欲しいものだ。いきなりは心臓に悪いから。
「アク姉、どうしたの? そろそろご飯なんだけど」
「それは知ってるよ。それより、蒼天竜を倒したんだって?」
「ん? 何で知ってるの?」
私は、蒼天竜の事をギルドチャットでも伝えていない。だから、アク姉が知っている訳がなかった。勿論、アカリも知らないから、その事に触れては来なかった。
「掲示板で大騒ぎになっていたからよ」
そう言って、アメスさんが顔を出す。よく見ると、他の皆も一緒にいた。アク姉のインパクトのせいで見えていなかった。
「やっぱり騒ぎになります?」
「蒼天竜は、未だ誰も討伐出来ていないエンカウントボスだ。掲示板の内容的に、派手な戦闘をしたようだから、しばらくは尾を引く可能性はある」
サツキさんが説明してくれた。やっぱり、雪嶺エリア全域を使った戦闘は人の目を引いてしまったらしい。まぁ、勝つためには仕方のない事だから、嘆きはしない。
「それに加えて、雪嶺エリアで発生した強力な光もあるよ。常に空を覆っていた雲が吹き飛んだって事もあって、色々と騒がれてる。これもハクちゃんでしょ?」
メイティさんの言っているのは、【蒼天】を私が試していた時の事だろう。あれもしっかり騒ぎになっているらしい。話的には、蒼天竜関連と察しは付けられていそうだ。
「はい。蒼天竜を倒して手に入れたスキルです。【始祖の吸血鬼】で手に入れたものじゃないので、誰でも手に入りますよ。ちょっとデメリットもありますけど、ある程度無視出来る範囲ですし」
「どのようなスキルなんですの?」
カティさんに訊かれたので、【蒼天】について説明する。すると、アク姉達は驚いたような表情をしていた。まぁ、私も何も知らずに話を聞いたら驚くと思う。
「確かに、強力なスキルですね。沈黙に関しては、魔法職以外には、そこまで大きなデメリットにはなりませんしね」
「でも、技を使わないでもある程度戦える人に制限はされますわね」
技の発動には声による音声認識が必要になる。でも、技を中心に戦う人は、このゲーム内では少ないと私は思っていた。それだけ、技を使った後の硬直時間が致命的な隙になるからだ。私だって、影で無理矢理身体を飛ばすか、風で吹き飛ばすくらいしか避ける方法を思いつけない。【夜霧の執行者】は、緊急回避方法でどんな状況にでも使えるので省く。
「掲示板の情報を鵜呑みにするのなら、威力に関しては魔法よりも上かもしれないわね……というか、これって蒼天竜の持つ即死技じゃないの?」
「ああ、そういえば、そういう話は聞くね。蒼天竜との戦闘経験がないから、どんなものかはっきりとは分からないけど。ハクちゃんは、見たんでしょ?」
「【蒼天】を? ううん。見てないよ。私達と戦った時、蒼天竜は、【蒼天】を使ってないから」
私の答えを聞いて、アク姉が少し考え込み始める。
「何か特殊な戦い方でもした?」
「インファイト」
「……なるほどね。ハクちゃんが手に入れた【蒼天】を使わなかったのは、距離が開いてなかったからかな。ハクちゃんは、羽で空を飛べるからインファイトが出来るけど、普通のプレイヤーは、【浮遊】や【空歩】で空中戦闘が出来る程のMPを持ち合わせてない。蒼天竜を追い詰めて、一定HPを下回った時、距離が開いたら使う一発逆転の技って感じかな。ハクちゃんは、心当たりない?」
アク姉に訊かれて、私は蒼天竜との戦闘を思い出す。確かに、蒼天竜は距離を取る動作が多かった気がする。
「ある」
「それじゃあ、蒼天竜と戦う時は、距離を取らせず近距離で戦い続ける必要があるってことね。無理ね」
アメスさんは、すぐに諦めた。確かに、私も【飛翔】を持っていなければ諦めていただろう。仮に蒼天竜が【蒼天】を使ってきたとしたら、【夜霧の執行者】でしか避ける事が出来ないからだ。四回回避したら死だ。
「結局、防御方法を模索しないといけないって事ね。私とアクアの防御魔法でも防げない可能性の方が高いわけだし」
アク姉とメイティさんの魔法防御でも防げるかどうか分からないらしい。トモエさんもさすがに防ぎきる事は出来ないだろう。そう考えると、本当に運良く勝てただけみたいだ。
「ファーストタウンでも騒ぎになるかな?」
「かもね。でも、絡んでくる人は少ないと思うよ。この前もBANされた人達がいるから」
直近でBANがあったから、ほとんどの人が慎重になるだろうって考え方かな。
「まぁ、声掛けくらいはあるだろうけどね。オンラインゲームである以上、その点を完全排除は出来ないから」
「う~ん……めんど。街中から飛んで逃げようかな」
「さらに目立つよ」
「うへぇ……」
アク姉達が私と判断出来る程の情報が掲示板に出ているという事は、普通に出て行けば声を掛けられる可能性があるという事だ。いつも通りあしらう感じでいくと変に諍いを生むだけになる。これは、もう学んだ。だからと言って、愛想良くするつもりもない。
絡まれない事を祈って、明日から頑張ろう。まぁ、明日はみず姉達が帰ってくるからログイン出来るかも分からないけど。
 




