最強パーティー?
激戦区になるかもしれない中央に向かう途中で、ソルさんが制止した。
「どうしました?」
「敵……なのかな。まぁ、プレイヤーがいる」
ソルさんに言われて周囲を見回すと、建物の影に誰かがいるのが分かった。服の端っこだけが見えているレベルなので、走りながら見つけたのは、本当に凄い。私だったら、気付かないで通り過ぎて奇襲をされていたかもしれない。まぁ、【第六感】が反応するだろうけど。
【天眼通】で視界を作り、隠れている人を見る。あまり自分から離した場所に視界を置くと、自分が今どういう状況かが把握出来なくなるので、自分用の視点も用意しないと怖い。ただ、複数の視点を作ると情報処理が追いつかなくなるので、基本的にやらない。今回は、ソルさんがいるので、遠慮無く遠くに視点を置ける。
「あれ? フレ姉とゲルダさんだ」
「お姉さん達?」
「一人は姉で、もう一人は姉の幼馴染みです。フレ姉! ゲルダさん!」
取り敢えず、声を掛ける。向こうも仕掛けてこなかったという事は、普通に戦いたいというわけじゃないのだと思うからだ。
声が聞こえたからか、二人が出て来た。
「ハクは、二人だけか?」
「うん。ソルさんと二人だよ」
「なら、大丈夫そうね。ここで消耗するのも嫌だから、一緒に組まない?」
「私は良いけど……」
そう言って、ソルさんを見上げる。私の視線に気付いたソルさんは、私に微笑んだ。
「私も大丈夫だよ。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
今回はソルさんがリーダーとなる形でパーティーを組んでいたので、ゲルダさんとソルさんがパーティーのやり取りをする。
「前々回優勝者と前回優勝者のパーティーってのは、ほぼ優勝間違いなしかもしれねぇな」
「フレ姉とゲルダさんもいたら、余計にね。でも、何で隠れてたの?」
「プレイヤーが来る事は分かったからな。誰か確認してたんだ。ハクが見えたんで、残りのパーティーメンバーを調べておこうってな」
「ふ~ん」
確かに、今回のイベントでは相手のパーティーが何人なのか先に知っておく方が有利に運べる可能性が高くなる。そうなるとフレ姉の行動は、何も違和感ない。寧ろ、そんな風に動いた方が良かったかと反省する。動き回る方が良いとは限らない。
「終わったわ。よろしくね、ハク」
「よろしくお願いします。これからは、どうやって動きますか?」
「そうね……」
「このまま中央に行って、適当に倒せば良いだろ。このメンバーなら、それくらいいけるはずだ」
「それは無しよ。そんなに無謀な事は出来ないわ。例え、やろうと思えば出来る事でもね」
「ったく、慎重になりすぎるのも考えものだろ」
「遠距離攻撃を持っているのは、恐らくハクだけなのよ? 魔法で集中攻撃されたらどうするの?」
「【退魔】があるから平気だろ」
「楽観的過ぎるわ」
「あっ、私、操作系のスキルを持っているから、大体の属性は操れるよ」
「ほれ、見ろ」
「知らなかったでしょう。ハク、魔法攻撃は、どのくらい操れるものなの?」
「軌道を少し変える程度です。あまり量が多いと操りきれない可能性もありますけど」
「使えそうではあるわね」
「それじゃあ、突撃だな」
「だから、待ちなさいって」
そんな風にやり取りをしていると、ソルさんが声を殺しながら笑っていた。
「どうしたんですか?」
「ん? ううん。会社の同僚に似ているなぁって。こうやって言い合いながら最良の道を探しているんだって。私は、部署が違うから、遠目に見た事があるくらいなんだけどね」
「へぇ~、もしかしたら、本当に同僚だったりして」
「……」
「……」
私がそう言うと、三人が顔を見合わせる。そして、私には聞こえないくらいの声で、話始めた。一分ぐらいすると、三人で笑い始める。
「どうしたの?」
「ああ、本当に同僚だった。まぁ、部署が違ぇから、会話もした事なかったんだけどな」
「新入社員が多かったから、歓迎会とかでも話す機会がなかったのよ」
「びっくり。社内でも有名な二人だったから」
「いや、ソルさんの方が有名だけどな」
「あっ、さん付けしないで良いよ。同い年だし」
「そうか。なら、そうさせてもらうか」
「そうね。改めてよろしく、ソル」
「うん。よろしくね。フレイちゃん、ゲルダちゃん」
一気に皆の距離が縮まった。まさか、この三人が本当に同じ会社の同僚だったとは。てか、同い年って事にも驚きだ。
「まぁ、皆が同僚とかは良いんだけど、結局どうするの?」
「ああ、そうだったわね。ハクの操作を頼りにしていきたいところだけど、魔法使いが一人欲しいところね」
「二人は要らない?」
その声に振り返ると、後ろにアク姉とメイティさんがいた。
「アクアとメイティか。これなら、ゲルダも文句ねぇよな」
「そうね。アクアとメイティなら、不測の事態でも対処出来るでしょうし、良いわよ」
「ソルも良いよな?」
「大丈夫。楽しそうだし」
アク姉とゲルダさんがパーティー申請のやり取りをする。
「この面子……私だけ場違いな感じが凄いなぁ」
メイティさんが遠い目をしながら呟いていた。ソルさんの事は知らない気がしたけど、どこかで見た事があるのかな。
「あっ、そうだ。メイティさん、私、多分回復魔法でダメージを受けないようになったので、普通に回復してくれて大丈夫です」
「そうなの? ん? ダメージを受けないって、回復は出来るか分からない感じ?」
「はい。メイティさんに頼もうとして忘れてました。でも、多分回復して貰う事は少ないと思いますから、あまり意識しないでも良いですよ。私、普通の人の倍くらいのHPがありますから」
「……可愛かったハクちゃんが、化物に……」
メイティさんが顔を両手で覆いながら、そんな事を言う。完全に巫山戯ている。てか、それ以前に、私は吸血鬼なのだけど。
「いや、【吸血鬼】に進化した時点で化物ではあるのでは……?」
「それもそうだね」
滅茶苦茶ケロッとそう言った。やっぱり巫山戯ていただけだ。
「ハク、メイティ、行くわよ。正面はフレイに任せて、ハクと私で遊撃。ソルとアクアはアタッカー、メイティは援護の形で行くわ。もしかしたら、複数のパーティーと戦闘になる可能性もあるから、周辺警戒を怠らないように。良いわね」
「「はい」」
ゲルダさんの指示に、私とメイティさんは声を揃えて返事をする。こういうとき、即座に仕切ってくれるのは助かる。
それに、このパーティーは結構バランスの良いパーティーになった気がする。タンクがいないのは厳しいけど、フレ姉が代わりを務めるし、魔法使いも攻撃と回復が一人ずつ。物理で言えば、ソルさんがいるからフレ姉の代わりの攻撃力は十分にある。問題は、私とゲルダさんが、どこまで遊撃として動けるか。私の役割的には、操作系スキルで相手の魔法を妨害しつつ、浮いた駒を取るか駒を浮かせるかって感じかな。これなら、優勝も夢じゃない。そこで一つ思い出した。
「そういえば、アメスさん達は良かったの?」
「うん。大丈夫。結局は、生き残らないと意味ないから、知り合いとあってパーティーを組んでも良いって話もしてあるから。まぁ、姉さん達がいるとは思わないだろうけど」
合流は理想的な考えで、実際にはその場の判断で動いていいって事にしていたみたい。まぁ、中央までソロで来いって言われても、メイティさんみたいな回復役は厳しいだろうしね。
「本当は、皆でパーティー組んで、姉さんを倒すつもりだったんだけどなぁ」
「なんなら、イベントが終わった後、やってやろうか?」
「一対六なら良いよ」
「私は、構わねぇぞ」
フレ姉がそう言うと、アク姉は驚いた表情をした。メイティさんもびっくりしている。フレ姉の後ろでは、ゲルダさんが呆れていて、隣でソルさんも苦笑いをしている。
「うぇ!? マジ?」
「マジだ。てか、お前はメールの返信をしっかりしろ。私のところにも、母さんからメールが来たぞ」
「それ今言う? イベント始まる前にハクちゃんから刺されたばかりなんだけど」
「明後日が楽しみだな」
「うわぁ~ん……ゲルちゃ~ん」
「アクアが悪い」
「メイティ! 皆が虐める!」
「私もアクアが悪いと思う」
アク姉の返信忘れを、皆が責めていた。これでアク姉も反省するだろう。まぁ、私が言った時点で反省はしていたと思うけど。
私は、この間にソルさんの隣に移動する。ソルさん以外は、全員近しい関係の状況で入り込めるわけがないからだ。
「すみません。内輪ノリが凄くて」
「ううん。気にしてないよ。寧ろ、楽しそうで懐かしいなって思ってたから」
「懐かしい?」
「うん。昔、このくらいの人数でパーティーを組んでたから、その時の事を思い出してた。最近は、ずっとソロが多かったけど、やっぱりパーティーを組むのも楽しいね」
「そうですね。偶には楽しいです」
そんな話をしていて、私は一つ気付いた事があった。ここまで一回の戦闘だけで、普通にのんびりと会話が出来るような状況になっている事だ。フレ姉達やアク姉達が倒していたにしても、数が少ない。広場の人数からすると、もう少し接敵してもおかしくないだろうに。
もしかしたら、皆六人パーティーを作って、まとまって行動するから、その分遭遇率が下がっているのかな。
それでも中央に寄れば、戦闘は増えるはず。このイベントに参加している人なら、基本的には中央に移動しようって考えになるだろうから。




