土蜘蛛討伐
ボスエリアは、これまでの通路同様に天井や壁が蜘蛛の巣で覆われた広い空間だった。その中央に、私の身長の四倍くらいの大きさがある蜘蛛がいた。大きすぎて、最早気持ち悪さすら感じない。どちらかと言うと恐怖寄りだ。名前は、やっぱり土蜘蛛だった。
【血液収納】から双血剣を取り出す。直後、土蜘蛛が真上に跳んで、糸を飛ばしてきた。糸は、途中で広がり、私を捉える網のようになる。相手が蜘蛛という事もあって、私も対策は講じた。それは、【竜息吹】だ。炎で糸を燃やし尽くす。更に【炎装術】で双血剣に炎を纏わせる。【炎装術】の特徴は、火属性の付与と攻撃力の増加、自傷だ。自傷の理由は、炎を纏うからだ。自分の近くに炎があれば、熱いと感じるのが自然だろう。ただ、これは【HP継続回復】で耐えられる。
【竜息吹】で周囲の蜘蛛の巣も全て燃やし尽くす。自分の吐く炎で、土蜘蛛の姿が見えないけど、【索敵】と【第六感】で土蜘蛛の動きは読める。
土蜘蛛は炎を避けて、私の死角から突進してきた。【大地操作】で土蜘蛛の顎を打ち上げる。でも、土蜘蛛はそれを砕いて突っ込んできた。割と硬くしたつもりだけど、土蜘蛛の方が頑丈みたいだ。それともスキルのせいかな。これは風でも捕らえられないだろう。それに、この突っ込み方だと炎でも構わずに突っ込んでくるはず。
【電光石火】と【空歩】【走壁】で天井まで移動して貼り付く。私の視界内で、土蜘蛛が壁に突っ込んだ。土蜘蛛がダメージを負うと思ったけど、壁が壊れただけだった。
「硬そう……夜霧の執行者みたいになるかな。でも、初心に戻るって意味では良いかも」
天井で逆さまになっていると、土蜘蛛が空中を走ってきた。
「【空歩】持ちかい……怠っ……」
馬鹿正直に壁を走ってくれれば、作戦を考える時間稼ぎとかが出来たっていうのに。
【走壁】を解除して、天井から落ちる。そこに、土蜘蛛が突っ込んできた。
「【震転脚】」
【炎装術】を脚に移して、更に【武闘気】で闘気を溜めて打ち込む。土蜘蛛は、前脚二本を交差させて受け止めた。でも、落下のエネルギーと闘気も合わさって、土蜘蛛を地面に叩きつける事が出来た。でも、上手く防御されたみたいで、一割も削れなかった。
「炎上状態になっているはずだけど、継続ダメージがない。消されたか」
土蜘蛛が体勢を整える間に、【疾風迅雷】で溜めた雷を武器に纏わせる。さらに、【風装術】で風を、【影装術】で影を纏わせた。属性の欲張りセットみたいになっている。
地面に埋まっていた土蜘蛛が、周囲の土を飛ばしながら出て来る。
「さてと、まずはいくつか試してみないと」
私に向かって突進してくる土蜘蛛に向かって、白百合で風の刃を飛ばす。【風装術】の特徴によって、炎、雷、影が伴って飛んでいく。土蜘蛛は、それを空中に跳んで避けた。だから、黒百合でも風の刃を飛ばす。でも、それすらも避けられた。【空歩】があるせいで、空中でも回避行動が取れるというのが面倒くさい。
「これで脚を落とせたら、かなり楽になると思ったんだけど……仕方ない。直接斬り落とす方法でいくか」
【雷足】を使って走りながら、自分の手を噛んで【血液武装】を発動する。双血剣に血を纏わせて、さらに形状を大斧に変化させる。脚を落とすなら、重量のある一撃が良いと考えたからだ。土蜘蛛は、走っている私に向かって糸を出してくる。最初の捕縛する網のような糸ではなく、一本の糸が出されている。狙いが読めないけど、【炎装術】で炎を纏わせているので、普通に焼き切る事が出来る。
それを見た土蜘蛛は、地団駄を踏む。八本の脚でするものだから、若干地面が揺れる。
そして、身体を屈めたかと思うと、こっちに跳んできた。八本の槍のような脚が、こっちに突き出される。攻撃が命中する前に、高速移動でその場から逃げる。すると、私がいた場所を土蜘蛛の脚が抉っていた。あれが直撃していたら、確実に【防影】が壊れていた。
「攻撃は当たらないようにしないと」
土蜘蛛の攻撃力は、全く馬鹿に出来ない。下手したら、【貯蔵】分のHPの半分くらいを削られると思う。だとしたら、大して凄くないように思えてきた。【貯蔵】分のHPを半分削れられても、普通のHPの倍くらいはあるし。
攻撃を外した土蜘蛛は、さらに怒りを抱いたのか、再び地団駄を踏んでいた。そして、急に近くの壁を思いっきり叩き始めた。
「何……?」
行動の意図が読めない。でも、すぐにどういう事なのか分かった。その理由は、【索敵】に次々とケイブスパイダー、ポイズンスパイダー、シルキースパイダーの反応がしたからだ。
「仲間を呼んだのか……面倒だなぁ」
部屋のあちらこちらから、どんどんとモンスターが溢れてくる。全部で百匹近くいると思われる。蜘蛛達は、次々に糸を出して、巣を作ろうとしている。自分達に有利な場を作ろうとしているらしい。蜘蛛の巣に捕らえられると面倒くさくなるのは、容易に想像出来るので、【竜息吹】で燃やす。そこに、土蜘蛛が飛び掛かってきた。
炎を止め、高速移動を使い、こっちからも近づく。そして、すれ違い様に脚を斬る。大斧での一撃を左の前脚で防いだ土蜘蛛だったけど、その前脚は半ばから先がなくなった。
「直接なら斬れる。これなら……!」
私は、地面に着地するのではなく【空歩】で空中に着地し、【雷足】を使った高速移動でピンボールのように跳ねて、背後から土蜘蛛の脚を狙う。土蜘蛛は、こっちの動き自体は認識出来ているみたいだけど、反射が追いついていないみたいで、次々と脚を落とすことが出来た。
半分の脚を落とすと、土蜘蛛は地面に転がった。それを見た同時に、部屋の全体が蜘蛛の巣で覆われている事に気付いた。地面にも漏れなく巣が張られている。私と土蜘蛛が戦っている間に、張り終えたらしい。
「これじゃあ、地面に降りられない……っ!」
【第六感】で背後から攻撃が来る事に気付いて、その場から前に向かって避ける。その攻撃は、ポイズンスパイダーの糸だった。恐らく毒の糸だと思う。さらに、周囲から毒液やら糸やらが飛んでくる。逃げ場は見つけられるので、攻撃を避けつつ、【竜息吹】で周囲を燃やす。所詮は蜘蛛の巣なので、どんどんと燃えていく。炎上ダメージと直接燃やされたダメージで、土蜘蛛が呼び寄せた蜘蛛達が燃え尽きていく。
「これなら、火魔法が使える仲間がいたら、余裕っぽいかな」
そう思っていると、【第六感】が反応する前に背筋が寒くなるような嫌な予感がした。その正体は、地面から跳ねて来た土蜘蛛の牙だった。今までの速度よりも速い。【電光石火】で避けようにも、周囲は火の海だ。
土蜘蛛の牙と火の海。どっちの方が危険なのか即座に判断して、【電光石火】で退避する。天井に【走壁】で貼り付くと、【防影】が反応して、炎のダメージから防御してくれる。そんな私に対して、周囲の巣から燃えた蜘蛛達が襲い掛かってきた。これも【防影】が守ってくれるだろうけど、ここで消耗するのは得策と思えない。
【風装術】で自分の周囲に向かって突風を吹かせる。全てを吹き飛ばせるようなものじゃないけど、空中に飛びだして踏ん張りの利かない状態の相手なら飛ばせる。
そこに、地上から勢いよく跳んできた土蜘蛛が迫る。タイミング良く【空歩】で加速しているので、かなり速い。ここで逃げても、もう何も始まらない。もう土蜘蛛のHPも半分近くにはなっているので、少し強引にでも倒す。
【電光石火】で突っ込み、【疾風迅雷】の雷を纏いながら靴底を顔面にめり込ませる。こっちの勢いと向こうの勢いも相まって、土蜘蛛のHPが一割近く削れる。そして、そのまま一緒に地面に向かって落ちた。地面にめり込んでいる土蜘蛛の背中に乗り、身体を影と血で土蜘蛛に縛り付ける。
ここまでしたら、後はいつもどおり吸血をする。血を吸い始める。土蜘蛛は大きく暴れる。でも、身体を縛り付けているので、そう簡単には振りほどかれない。次に、土蜘蛛は近くの壁に私ごと背中を叩きつける。【防影】に小さく罅が入る。これを連続でやられると、さすがに【防影】も保たないだろう。だから、【大地操作】を利用する。
私が叩きつけられるタイミングで、壁を良い感じで凹ませる。その凹みに、自分が入り、その周りの壁に土蜘蛛が叩きつけられるという状況にした。ただ、土蜘蛛は自分を壁に叩きつけたくらいではダメージを負わないので、互いに無傷でいるという事になる。
寧ろ、吸血をしている私の方が有利な状況だ。このまま吸血し続ければ終わりかなと思っていると、周囲から燃えた蜘蛛達が群がってきた。まだHPが残っているらしい。割としぶとい。私に牙を突き立てようとしてくるけど、【防影】で防げるので問題ない。
後は、私の【防影】が崩されるか土蜘蛛が力尽きるかの持久戦だ。そして、この勝負に勝ったのは私だった。
土蜘蛛がポリゴンになり、周囲の蜘蛛達も次々にポリゴンになっていった。炎上ダメージで力尽きたらしい。
『【始祖の吸血鬼】により、土蜘蛛から【捕縛糸】を獲得』
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【捕縛糸】:網状に広がる糸を出す事が出来るようになる。
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最初とかに使ってきた糸を出せるようになったらしい。そして、ドロップアイテムもケイブスパイダーやポイズンスパイダー、シルキースパイダーの他に、土蜘蛛の糸、土蜘蛛の猛毒牙、土蜘蛛の脚×8、土蜘蛛の核を手に入れた。さらに、称号として【蜘蛛斬り】を手に入れた。
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【蜘蛛斬り】:蜘蛛系モンスターと戦闘時、攻撃力が一・五倍になる
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ケイブスパイダーにも使えるから、割と使える称号だ。
「【竜息吹】も割と使えるなぁ。火傷する事さえ抜けば」
取り敢えず、これで土蜘蛛の巣は攻略完了だ。今回は色々と試していたけど、次からは、もっと早く倒せると思う。脚を落とせる事も分かったしね。




