錆び付いた騎士
洞窟の最奥は、洞窟の出口だった。途中の分かれ道のほとんどを無視して一直線に来たので、マッピングは全然済んでいないけど、それはまた今度にする。
出口から外に出ると、開けた広場に出た。どうやら一番奥の山の麓まで来たらしい。その奥にはボスエリアへと続く転移地点があった。
「ボスか……いつもなら、探索を優先するんだけど……このまま行ってみるのも一興かな。【召喚・レイン】【召喚・スノウ】【召喚・エレク】」
他の皆も喚び出す。ボスがどんなモンスターか分からないので、念のため最大戦力で挑む。
『今日は、お休みかと思った』
「それでも良かったんだけどね。ちょっとボスとやり合うから、レイン達もいた方が安心だなぁって」
そう言うと、レインは嬉しそうに笑った。そんなレインの頭を撫でてあげてから、ボスエリアに転移する。今回は、移動せずとも目の前にボスがいた。全身を鎧で覆った騎士だ。でも、普通の鎧じゃない。所々が錆び付いている。随分古いものだし、手入れもされていないように思える。それは、手に持っている大剣も同じだった。全体的に錆に覆われている。切れ味など無いに等しいだろうし、何故折れていないのかも不思議だ。
名前は、ラストナイト。最後の騎士っていう意味かな。私の知らない英語とかだったら、分からないけど。
ラストナイトは、私を睨むと、一気に迫ってきた。スノウがブレスを吐いて牽制する。
「取り敢えず、皆は妨害重視!」
簡単な指示をして、【雷足】を使用した高速移動でラストナイトの背後に着地する。ラストナイトは、背後に来た私を斬るために、錆びた大剣で薙いできた。隠密双刀を抜いて、錆びた大剣を受け流す。
そんなラストナイトの足元の土が動き、脚を拘束する。そこに背後から何かが命中して、ラストナイトが前に倒れる。そこに雷が落ちて、ラストナイトが麻痺状態になり、水が纏わり付き、全体を凍らせて地面に縫い付ける。さらに、ラストナイトの身体の周りに風が纏わり付く。
「ナイス!」
私は鎧の上からラストナイトに噛み付く。いつもの血の味よりも鉄の味が濃い。しっかりと吸血が出来ている証拠だ。まぁ、夜霧の執行者でも吸えていたから、最初から鎧に阻まれる事なく吸えるだろうとは思っていた。
ラストナイトは、拘束から逃れようと身体を動かしているけど、レイン、ソイル、エアリーによる拘束が緩むことはない。そこまで甘い拘束じゃない。
普通のモンスターよりもHPの減りは遅いけど、確実に減らせている。スノウとエレクは、ラストナイトがどんな動きをしても良いように待機してくれている。
皆を信じて、吸血を続ける。その結果、あっさりとラストナイトを倒した。ドロップアイテムは、錆びた大剣、錆びた鎧、彷徨う霊魂だった。
『【始祖の吸血鬼】により、ラストナイトから【武闘気】を獲得。【闘気Lv50】を進化させるため、以上のスキルが収得不可能となります』
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【武闘気】:全身に闘気を漲らせて、身体能力を上昇させる事が出来る。闘気を手脚に偏らせる事で、手脚での攻撃力を上昇させる事が出来る。控えでも効果を発揮する。
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何もさせずに倒したから、【武闘気】がどんな感じのスキルなのか分からない。それだけ圧倒的な戦力差だったという事だろう。
「これは……近い内に制限が掛かるかな」
スノウ達の連携から、テイムモンスターを連れ歩ける数に制限が掛かる気がする。テイム確率の低いこのゲームで、ここまでテイムモンスターを集めたのは、私くらいだと思うから、運営もバランス調整をする機会がなかったと思うし、これからのアップデートは警戒しておかないといけない。
それに加えて、私一人でも戦えるようにしないといけない。これは、師匠との稽古や一人でボスに挑んだりして、感覚を養う事にする。
「さてと、皆、お疲れ様」
皆の頭を撫でて労った後、次のエリアに向かう。ここで一度行っておけば、ボスを素通りしていけるようになるからだ。次のエリアは、廃城下町エリア。ちょっとした高台の上から城下町が見える。ボロボロの家屋が並ぶ広大な城下町が見える。広すぎて、全体が見えない。
「あれを探索しないといけないのか……まぁ、楽しそうではあるか」
山脈エリアに戻って、スノウ以外の皆を帰す。
「スノウは、私の援護をお願いね。空にいるレッサーワイバーンの量は多いから」
レベル上げでは助かるけど、探索をしたい時には邪魔でしかない。なので、スノウに援護を頼みつつ、山の方の探索を進める事にした。マッピングも含めて飛び回る。そこで気付いたけど、このエリアは、全部で四つの山が並んだエリアとなっていた。そして、三つ目と四つ目の間に街があった。街の名前は、バレータウンという名前らしい。転移出来るようにだけして、マッピングの方を優先する。
この探索で洞窟の入口が割と多い事が分かった。特に二番目と三番目の山の間に多く存在する。因みに、一番高い山は、二番目の山だ。
隠れ里の入口的な場所がないかなと思ったけど、そもそも見つけやすい場所にはないので、空から探せる訳もなかった。
「マッピングは終了。後は、洞窟のマッピングだけかな。こっちは今度にしよっと。スノウ、お疲れ様」
『ガァ!!』
レッサーワイバーンを軽く百体以上倒していたので、ご褒美の蟹肉をあげる。美味しそうに食べるスノウの頭を撫でてあげて、ギルドエリアへと帰す。
「さてと、ご飯までは、後一時間はあるかな。師匠のところに顔出しに行こっと」
バレータウンから刀刃の隠れ里に転移する。師匠の家に行って、ノックする。直後に、嫌な予感と【第六感】が反応して、後ろに向かって【電光石火】で退避する。直後、扉が吹き飛んだ。
「取り敢えず、鈍ってはいないようね」
「確認の仕方が物騒すぎますよ……」
私は、自分の手を噛んで、【血液武装】で月影を刀にする。さらに、【圧縮】を発動して刀の刃を、さらに固める。
そこに、赤狐面で師匠が突っ込んでくる。さっきの【電光石火】で、【疾風迅雷】も発動して身体に帯電している。その雷を全部【雷装術】に回して、刀に纏わせた。それを見ても、師匠は止まらない。
平然と刀を振り下ろした。それを受け止めると、師匠に感電する。そのはずなのだけど、師匠は、ダメージを負っているような素振りも何も見せずに、そのまま刀を押し込んでくる。
「ぐっ……」
やっぱり赤狐の力は強すぎる。こっちもステータスが上がっているはずなのに、全く動かせない。
「何だか、前と刀が変わったわね」
「【圧縮】を……使って……ますから……!」
このままだと、力でねじ伏せられるので、【風装術】と【圧縮】で風の球を作って、師匠のお腹にぶつける。それで、少しだけ力が緩んだタイミングを狙い、【電光石火】で逃げる。
そうして逃げた先に、青狐面になった師匠が現れた。相変わらず、速すぎる。でも、久しぶりの師匠との稽古は、ちょっと楽しい。
私は、今出せる全力を師匠にぶつけた。まぁ、基本的に私が師匠から攻撃される事が多かったけど。




