畑作りの勉強
翌日。学校に行くまでの道のりで、光にクエストの件を共有した。【聖気】の件まで話すと、光は若干引いたような目で、こっちを見てきた。
「うわぁ……何で茨の道を行くの?」
「好き好んで茨の道を選択していると思う? 有無を言わせずに、収得させられたものが、悉く茨なんだよ」
【吸血】も【聖気】も自分の意思で手に入れたものじゃない。強制的に手に入れさせられたものだ。その後に【吸血】を育てる選択をしたのは、私だけど。
「【霊視】で見つけたクエストだよね?」
「うん。あっ、そうか。売られてきた素材で」
「正解。私も霊視鏡を作ったんだ。ただの霊視鏡だったけど」
「霊峰じゃないんだ?」
光が作ったものは、霊峰の支配竜の素材から作った私の霊峰の霊視鏡とは違うものになっているらしい。
「うん。素材の違いかな。何かが変わっているかもだけど、今のところよく分からないかな。白ちゃんの方を使っていたわけじゃないから」
「へぇ~、なるほどね」
霊峰の霊視鏡である事が、何かプラスに働くみたいな事があるのかな。光と一緒に行動して比べる必要がありそう。
「そうだ。そのクエストで、種も見つけたんだよね」
「そうなんだ。鍬は、もう作って、屋敷の前に立てかけておいたから、それを使ってね」
「オッケー。それで、その種なんだけど、白炎花って知ってる?
「白炎花? 聞いた事ないかな。花系の素材は、【調合】の方で使うからね。私は、まだ詳しくは知らないかな」
「そうなんだ。でも、【調合】も取ったんでしょ?」
「一応、取ったけど、まだ使ってないんだよね。器具を揃えないといけないからさ」
「そういえば、別に家を建てるとか言ってたっけ」
ギルドエリアで話した時の事を思い出す。確かに、そんな事を言っていた。
「うん。設計図は作ったけど、今のレベルじゃあ作れなさそうなんだよね。だから、店の仕事をしながら、レベル上げ中。それまでは、器具を買って集めて、小さな規模でやろうかなって思っているところ」
「ふ~ん、生産系スキルって大変だね」
「白ちゃんのスキル程じゃないと思うけどね」
私は私で、【真祖】と【聖気】のコンボは大変だから、光の言い分も分かると言えば分かる。
「でも、結局のところどうするの? 【真祖】外す?」
「ううん。耐性が付くまで耐える。どうせ付くだろうし。付かなかったら、運営を恨む」
「まぁ、そうだよね。控えでも発動するから、【真祖】を装備出来ないってなりかねないもんね。私の血を吸う?」
「吸わないよ。エルフの血は、完全に克服しちゃってるし。それよりも、霊峰の颪を克服出来たような血瓶があれば良いんだけどね」
問題の共有も出来たところで、学校に着いたので、この話はここで終わりになった。
その日の夜。ログインした私は、ギルドエリアで目を覚ました。HPを確認すると、じわじわと減っている事が分かる。
「街中でも、しっかりと減る……これで、一生HPが減るとかなったら、本気で運営に要望出して、スキルの調整をして貰わないと」
『グル?』
私の近くに来て首を傾げているスノウの頭を撫でてあげる。
「さてと、今日は、外に出ないから、ここで自由にしててね。お腹は空いてる?」
私が訊くと、スノウは首を横に振る。お腹は空いていないらしい。
「それじゃあ、寝る前に、また顔を見に来るね」
スノウにそう声を掛けてから、ファーストタウンに転移する。厄介な人に見つかる前に、さっさと図書館に移動した。そこで、科学系の論文から、畑に関するものを探す。確か、植物に関するものもあった気がするから。
「あった。畑に関する論文……というより、肥料が与える植物への影響って感じかな。肥料は、大事だから、ここは調べておいた方が良さそう」
そうして調べていくと、肥料にはいくつか種類がある事が分かった。
液体肥料は、速効性で成長を促進させるもの。効果が長続きしないけど、成長が早まるから、そこまで気にしなくて良さそう。
固形肥料は、遅効性で植物に栄養を与えるもの。植物の状態がよくなるので、レアな植物に進化する可能性が上がるらしい。進化がどういうものなのか分からないけど、一つの種から同じものが育つとは限らないって感じかな。
骨から作られる石灰は、種族によって効力の高さが変わるけど、土の状態を変えるのに使うらしい。植物によって使う石灰を変えないといけないみたいで、使い方が難しいかもしれない。
最後は、堆肥だけど、これはテイムモンスターの糞から作るらしくて、専用の場所を設置しないといけないみたい。スノウの厩舎にあったか分からないから、後で調べてアカリに相談しておく事にする。
「取り敢えず、肥料はなくても育ちはする。でも、あった方が良いと。ただ使いすぎには注意が必要。最初は無しでやってみて、様子を見た方が良いかな。後は、他にも種が欲しいけど、花屋がなぁ……ファーストタウンにあるかな?」
自分に関係のない店には、とことん興味がないから、そこら辺を調べるとか全くしない。最近は、【霊視】の事もあって、軽く見るくらいはしているけど、ファーストタウンは、結構早く高いところに登って見つけたから、店を調べるとかは、あまりしていなかった。なので、ファーストタウンにあってもおかしくはない。
「鐘を調べるついでに、花屋とかを探しても良いかな」
そこを考えながら、他に気になる本がないかを探してみる。すると、植物図鑑的なものを見つけた。パラパラと捲って、中身を見ていくけど、白炎花に関する記述は、どこにもなかった。結構レアな花なのかもしれない。
他には、そこまで重要な本はなさそうだったので、そのまま図書館を出る。その際に、何気なくHPを確認してみたら、半分近くになっていた。
「うわぁ……大体三十分くらいいたから、一分で一パーセント減るって事か……HPに注目してなかったら、急に死んでもおかしくないかも。夢中になって作業するのは、危険かな」
念のため、血を飲みまくって、【貯蓄】にもHPを蓄えておく。これで、通常の二倍は耐えられる。マップを変えたら、意味ないから街中でのみだけど。
私は、まず鐘を調べに向かう。【空力】も使って、鐘の元まで登る。【空力】による二段ジャンプは、こういう時に使える。あの物語から、この鐘に秘密が残っているという予想を付けたけど、それは正しかったかもしれない。
鐘のあちこちに細かい傷が付いている時点で、そこまで新しいものではないと推測出来る。でも、問題は、刻まれているはずのあったとされる争いに関する何かだ。
「う~ん……ん? これか」
鐘の内側に、何かの絵と文字が彫られていた。絵の方は、燃え盛る街と争い合う人々のように見える。そして、下の縁に彫られている文字には、こう書かれていた。
『かつて繁栄した砂海の都市に静かなる眠りを』
書かれているのは、これだけだった。私が行った砂漠エリアに都市なんてものはなかったし、その跡地も見当たらなかった。それを考えると、新しく増えた砂漠エリアにあるのだと思われる。
「砂漠かぁ……気乗りしない……」
戦いやすい環境とは言えないので、今すぐ行きたいとは思えなかった。
「でも、これで一つ進展したかもしれない。まぁ、これで終わりって可能性も、普通にあるけど」
物語に関するクエストなので、都市を見つける事がクエストの一環であるかどうかは怪しい。そこら辺の考察は、後々にするとして、今度はファーストタウンを走り回って、花屋を探した。
すると、小さなお店だけど花屋を見つける事が出来た。そこで、種をいくつか買って、今日はログアウトした。普通に月曜日だから、明日も学校があるので、夜更かしは出来ない。フレ姉達のショートスリーパーが羨ましい。
 




