ギルドについて
ポートタウンの中央に来た私は、そこの人の多さに、少し驚いた。広場あるだろうから、そこで地図を見ようと思っただけなのだけど、まさか広場を埋め尽くす程に人がいるとは思わなかった。
ここも勧誘をしているプレイヤーが多くいるみたい。でも、大通りよりも盛んじゃない。というか、勧誘っぽくない。寧ろ、その人達に向けてアピールしている人が多い気がする。
「大手ギルドのスカウトって感じか。さっきより面倒くさそう」
でも、一つだけ分かった事がある。広場に面しているデカい建物に、プレイヤーが出入りしているのと、そのスカウト達が集中している事から、それがギルドに関係する建物だ。あそこに行けば、ギルドとギルドエリアについて知りたい事が分かるかもしれない。
「まぁ、防寒着だし、私の印象もがらりと変わってるから大丈夫でしょ」
一応、第三回イベント優勝者だけど、私の事を知っている人は、そこまでいないはず。かなり暴れたし、色々と目立つような事ばかりしているけど……
若干心配になりつつも、建物に近づいていく。でも、誰も私を注目しない。いつもだったら、もう少し見られていた気がする。
「あっ、【擬態】か」
これだけの人の多さだと、【擬態】が働いて周囲の人達に溶け込んでいるのかもしれない。見つかりづらいくらいのものだったけど、人が多ければ多い程効果が高かったとなれば、これまでがあまり効果がない事も納得がいく。
それくらいに人が集まっている。中々前に行けない。ここにいる人達を、全員吹っ飛ばしたいと思ってしまう。満員電車とか通勤通学ラッシュの駅みたいだ。
人と人の隙間を、頑張って縫っていって、建物の中に入る。建物の中は、そこまで人はいなかった。やっぱりあそこでアピールしている人達が多いだけだったみたい。はた迷惑過ぎる。
「えっと……」
「ようこそ。ギルド会館へ。初めてのご利用ですか?」
「!?」
突然話し掛けられたので、ちょっと驚いちゃった。ギルド会館の職員NPCかな。
「あ、はい。ちょっとギルドに関して、話を聞きたくて来たんですけど、そういう場所ってありますか?」
「こちらをどうぞ。ギルドの詳細が書かれています。他に質問があれば、私と同じ服を着ている職員にお訊き下さい。あちらの席は、ご自由にお使い下さい」
冊子を渡されて、端っこにあるベンチを手で指される。そのベンチに座って、冊子に目をやると、それが日本語で書かれている事が分かった。
「誰にでも分かるようにかな。冊子の理由は、しっかりと読み込む人が増えるようにかな。口頭の説明だと分かりにくいし、よくあるお知らせとかチュートリアルだと読み飛ばす人もいうからとか? まぁ、冊子でも同じな気がするけど」
早速冊子を読んで、知りたい情報を探す。ギルドは、二人以上のプレイヤーからなる組織で、この建物で設立申請をして、出される課題をクリアすることで設立される。
ギルドのメリットとしては、ギルドチャットの開放とギルドエリアの開放だった。ギルドチャットは、ギルドに所属しているプレイヤーのグループチャットの事だった。
ギルドエリアに関しては、直径一キロのエリアを自由にカスタマイズ出来るって感じみたい。屋敷を用意したり、畑を作ったり、牧場みたいなものも出来るみたい。
「牧場……これがテイムモンスターを置いておけるとかなのかな? そこの部分は記述……されてない。これは、直接訊くとして、他は……」
他には、ギルドエリアに置けるもののリスト的な感じで、他に何かあるわけじゃなかった。でも、態々ギルドを作るメリットが薄い気がする。
「その内、ギルド戦みたいなのも追加する予定なのかな。まぁ、作ったとしても、アカリと二人だけだろうし、私には関係ないかな」
ギルド戦が追加されたとしても、私が参加する事はない。二人で何十人と戦うのは、現実的じゃない。イベントで私が集団と戦えたのは、あれが連携も何も出来ない集まりだった事が大きい。それが、ギルドとなれば、ほぼ完璧な連携をしてくると思うので、絶対に勝てない。
「まぁ、そこら辺はいいや。取り敢えず、ギルドエリアについて訊きに行こ」
冊子を持って、受付カウンター的な場所にいる職員NPCの元に向かう。
「すみません。ちょっと良いですか?」
「はい。何でしょうか?」
「ギルドエリアに関して何ですけど、テイムモンスターを、その中で管理する事って出来ますか?」
「可能です。ギルドエリアに預ける事で、【召喚】【送還】の対象とする事が出来ます。牧場という施設を作れば、さらに世話がしやすくなると思います。テイムモンスターの種類は何でしょうか?」
「えっ?」
ここは正直に言った方が良いのか。さすがに、隠した方が良いのか。ちょっと迷ったけど、しっかりと情報を得るためにも本当の事を言った方が良いかな。
「竜です」
「……なるほど」
職員NPCは、一瞬表情が固まったけど、すぐに笑顔に戻った。
「竜も牧場でお世話する事が出来るはずです。こちらでも、竜の情報はありませんので、何も言えず申し訳ありません」
「いえ、手探りで頑張ります。後、ギルド設立には、最低でも二人必要なんですよね?」
「はい。最初のギルドメンバーをお決めになりましたら、サブマスターとなる方と一緒にこちらに来て頂き、申請書を出して頂く事になります。申請書と交換で、ランダムに選ばれた課題をクリアして頂ければ、ギルド設立という運びになります。もう一方いらっしゃれば、申請書をお渡し出来ますが」
私が一人だという事に気付いて、職員NPCが確認してくる。
「あっ、今は大丈夫です。教えて頂きありがとうございました。この冊子は……」
「良ければ差し上げます」
「あっ、じゃあ、貰っていきますね。それじゃあ、失礼します」
「はい。またのご利用をお待ちしております」
取り敢えず、知りたい事は知れたので、ギルド会館を出る。外は相変わらずのごった返しだった。邪魔だなって思いながら歩いていると、急に辺りが静まりかえった。
何だろうかと思って、辺りを見回すと、人の壁が割れて、何人かのプレイヤーがこっちに歩いてきていた。凄く嫌な予感がする。
こっちに来ていたプレイヤーは、女性が二人と男性が四人だった。他のプレイヤー達が壁を形成して逃れる事が出来ない。結果、その人達は、私の元まで辿り着いてしまった。
「前回のイベント優勝したハクさんで合ってるかい」
何かサラサラヘアーの男性が話し掛けてきた。これは、絶対に勧誘だ。
「いえ、人違いです」
仮に私だと分かっていても、こう言えば無理な勧誘はしてこないと思う。ほぼほぼ拒否の言葉と同意義だろうし。
「私達のギルドに入らない? 全員女性だから、気兼ねなく過ごせると思うよ」
ちょっと活発そうな女性から直球で勧誘が来た。拒否とかは、全く関係なかった。取り敢えず、当たって砕けろスタイルみたいだ。
「いや、こっちのギルドに入れよ。強い奴は歓迎だぜ」
筋骨隆々の男性がそう言ってくる。入りたいなんて一言も言ってない。
「こんにちは。ここじゃあ、落ち着かないから、近くの喫茶店でお話出来ませんか? 色々とあなたに興味がありますの」
さっきの女性とは逆に、かなり落ち着いた女性が声を掛けてきた。私に視線を合わせるために、ちょっと腰を屈めていた。気遣ってくれるのは嬉しいけど、目が怖い。
他の男性二人も勧誘の言葉を投げかけてくるけど、正直入る気がないから、聞き流した。
「あの……誰かのギルドに入る気はないので」
そう言って去ろうとしたけど、他の多数プレイヤーの壁が邪魔になっている。そして、あの六人の勧誘を皮切りに、他の人達も勧誘して来始めた。さっき全部断ったつもりだったのに、何も聞いていなかったのか。
最初に勧誘してきた六人が、何やら声を掛けていたけど、その声もかき消されて聞こえない。もの凄く面倒くさい。一度認識されてしまったら、【擬態】も意味を成さなくなるみたい。
ちょっと苛々してくる。あの六人は、大手のギルドだからなのか、事態の収拾を試みてくれている。でも、人の数が多すぎた。
「うざい。スノウ、おいで」
そう呟いた直後に、思いっきり地面を蹴って跳び上がる。そして、【空力】を使い、もう一回跳び上がる。【神脚】の脚力もあって、かなり高く跳べた。そこに、空から飛んできたスノウが、私をキャッチしてくれる。
そして、【矮小化】を解いて、元の大きさに戻った。私から指示したわけじゃないけど、私を連れて飛ぶには、この方が良いと判断してくれたみたい。私は、スノウの背中に乗っている。
「このまま飛んで街から離れて」
『ガァァ!!』
元気の良い返事で、スノウが飛んでいく。
「はぁ~……これで、スノウの事も全部知れ渡るなぁ……めんどくさ……でも、最初に声を掛けてきた人達は、ちょっとだけ常識ある人だったかな。こっちが、完全に拒否したら、諦めてくれたし、最後には事態の収拾も試みてくれてたし。取り敢えず、フレ姉とゲルダさんに報告しておこ」
『グル?』
「大丈夫だよ。空は気持ちよかった?」
『ガァ!』
取り敢えず、スノウが喜んでくれたなら良いかな。面倒くさいのも最初だけだと期待しておく。




