スノウの力の一端
店員NPCに挨拶して、裏に行くと、作業をしているアカリがいた。釜の前で、腕を組んでいる。釜がカタカタと震えているから、錬金釜の反応待ちって感じかな。
集中しているから、こっちに気付いていない。そんなアカリの後ろから覗き見る。私の目からだと、何も分からないけど、アカリには何か分かるのかな。
「ん? わっ!? ハクちゃん!?」
「ハクちゃんです。これが錬金?」
「あ、うん。そうだよ。今は、実験中……あっ」
錬金釜から黒い煙が出始めた。煙が出るのが正解なのか分からないけど、黒は不吉な感じがする。
「失敗かぁ……」
「やっぱり、失敗なんだ」
「うん。レシピ外の組み合わせとかを試してるんだ。どこかしらで、心を手に入れられるかなって思ってるんだけど、失敗続き」
心っていうのは、アカリが作ろうとしている錬金生物に必要なものだけど、まだそれを発見出来ていないらしい。
「ふ~ん、私も今のところ手に入れてないな」
「まだまだ先なのかな。ところで、何か用? それとも息抜き?」
アカリは、作業を中断して、私の方を振り向く。ボスに行くって言っておいたから、防具の修理とかかもって思われているのかもしれない。まぁ、ただの伝言なのだけど。
「あ、そうそう。フレ姉から、アク姉でもゲルダさんでも良いけど、何かあったら連絡しろってさ」
「?」
唐突な伝言にアカリは、ちょっと戸惑っていた。なので、フレ姉達にもした説明をアカリにもする。
「なるほど? 大分理解が追いつかないけど、ボスモンスターをテイムしたって事なんだよね?」
「そういう事。他にも色々とあったけどね」
「そのクエストが、テイムに関係しているのかな?」
「さぁ? でも、私の【竜血】関係だと思うよ。他に、皆との違いが分からないし」
「ふ~ん……じゃあ、次は海に行くって感じだね。ギルドは?」
説明の他に、スノウを預ける場所の話をしていたので、庭付きの家とギルドエリアの話もしていたから、ギルドに関して訊かれる。それを受けて、私は、渋い顔をしてしまう。それは、ゲルダさんからの補足を思いだしたからだ。
「だって、最低二人からだって言うから、無理じゃんって」
私がそう言うと、アカリが自分の事を指さす。
「アカリだって、ギルドに入る気はないんじゃなかった?」
「自由に動けなくなるかもだから嫌だけど、ハクちゃんと二人きりなら、全然有りだよ」
「アカリと二人きりのギルドかぁ……でも、ギルドエリアを作るのには一億G掛かるんだよ?」
「一億かぁ……どうせなら、十億貯めて屋敷を買いたいってなりそうな値段だね」
「いや、一億と十億だったら、まだ一億で何かする方を選ぶと思うけど……」
さすがに、十倍の違いでは貯めようって意識よりも、一億でどこか買おうになる気がする。だって、一億貯めた苦労の十倍って事だし。
「とにかく、ギルドエリアの方にするってなったら、私に言ってね。ギルドメンバーになるから」
「え~……ギルドマスターになって」
「それは嫌だ。ハクちゃんのギルドなんだから、ギルドマスターは、ハクちゃんで決まり。ギルドエリアの開発は、私がやるから。生産職の仕事だし」
「へぇ~、そういうものなんだ。まぁ、その時になったら、アカリに頼むよ。多分、ないと思うけど」
アカリがギルドメンバーになってくれるのは助かるけど、ギルドを作ろうっていう気には、あまりならないので、海エリアの家を見てから決める事にする。
「それじゃあ、私は、海に行って来る」
「うん。あっ、多分、海に入る事はないと思うけど、水着持ってく?」
アカリがキラキラと目を輝かせながら訊いてくる。せっかく作ったから着ているところを見てみたいみたいな感じだと思う。
「ううん。入る気はないから、今はいいや。また今度ね」
「えぇ~、まぁ、無理強いはしないよ」
いつもだったら、もう少し食い下がっていたかもしれないけど、私がまた今度って言ったから、着る事は確定している。だから、大人しく引き下がってくれた。
「今度、スノウを紹介するね」
「うん。楽しみにしてる」
アカリへの伝言なども終えたので、アカリエを出て、ウェットタウンに転移する。ウェットタウンから出て東側に歩き、周囲にいるプレイヤーがいない事を確認してから空を見る。
「スノウ、おいで」
呼び掛けると、すぐにスノウが降りてきた。かなり高いところにいるはずなのに、私の小さな声でも聞こえているのは凄い。テイムモンスターとの繋がりが、遠くでも声を届かせてくれているって感じなのかな。
「プレイヤーに攻撃しちゃ駄目だよ。攻撃して良いのは、モンスターだけ。良いね?」
『ガァ』
スノウが頷いたので、これでプレイヤーには攻撃しないはず。無用なトラブルを避けるために、これは重要な事だ。街中にスノウが降りてこないようにするのも、トラブルを防ぐため。下手に一緒に歩いていたら、他のプレイヤーに当たったりするかもだし、邪魔になってしまう。それに、小さくなっているとはいえ、ボスモンスターの雪原の氷炎竜の姿なので、私だけでなくスノウを囲んでくる可能性もあった。
外であれば、プレイヤーの密度も低くなる。スノウが見つかったとしても、囲まれる確率も低くなるはずだ。
「それじゃあ、行こうか」
『ガァ!』
良い返事をするスノウの一撫でしてあげてから、ボスエリアの方に向かっていく。途中で出て来るモンスターは、スノウが倒してくれる。真っ先に飛んでいって、爪で切り裂いたり、ブレスで凍らせていった。スノウのブレスは、口から炎を出すものだ。でも、その炎に触れた瞬間、相手や地面は凍り付く。
「炎なのに凍らせるって、色々と凄いなぁ」
そう呟くと、スノウは褒められたと思ったのか、一層張り切ってモンスターを倒していった。まぁ、今の私のスキルだと、ここのモンスターから入るスキルの経験値は少ないから良いのだけど。張り切ったスノウのおかげで、私は何もせずにボスエリアに着いた。
ボスのジャイアントトードに対しては、【矮小化】を解いた状態で踏み潰していた。普通にジャイアントトードよりもでかいので、上から乗れば潰れるのも当然だった。
「おぅ……」
正直、私も惨い倒し方をした事はあるけど、スノウのこれも結構惨い。
「まぁ、倒せるから良いか。スノウ、おいで」
【矮小化】で小さくなったスノウが、私の前で着地した。そのスノウに、取り出したホワイトラビットの肉をあげる。スノウは、美味しそうに肉を食べる。
「スノウって、肉食?」
『グル?』
スノウは、首を傾げてこっちを見る。肉食っていうのが、伝わっていないのかな。
「お肉好き?」
スノウは、縦に頷く。
「じゃあ、果物は好き?」
これには、首を傾げる。もしかしたら、そもそも食べた事がないのかもしれない。
「今度、色々なものを食べて好きな食べ物を探そうか」
『ガァ!』
これは分かったらしく、勢いよく頷いた。何に反応したのか分からないけど、食べるとかに反応してくれたのかな。
「それじゃあ、海に行こうか。さすがに、海は、ここと同じようにはいかないだろうから、あまり無理はしないようにね?」
『ガァ』
元気に頷いているので、取り敢えず大丈夫なはず。スノウがピンチになったら、いつでも駆けつけられるようにしないと。まぁ、元ボスモンスターだけあって、普通に強いから、助けが必要かも分からないけど。




