恐怖を刻め
【未来視】による痛みの名残に苛つきながらも、高速移動で魔法使いが固まっている場所に移動する。
「【共鳴】」
魔法使いに刺さっている黒百合を引き寄せる。
「【焔血】」
【血液武装】の二段階強化を施した黒百合に炎を灯して、少し離れた杖持ちプレイヤーに投げつける。炎上ダメージで苦しんでいるのを横目に近くの魔法使いに接近する。
私が短剣を持っているからか、杖を構えて攻撃に備えようとしていた。今から魔法だと自分も巻き込むかもしれないと判断したのかも。それに、【杖】のスキルがあれば、ある程度近接戦も出来るからね。
まぁ、どちらにせよ、短剣だと思い込むのは間違いだったね。
さっきの大鎌と同じ要領で、白百合を変形させて、両手斧に変化させる。
「えっ!? 斧っ!?」
横降りで振られた両手斧を、杖で防ごうとしていたけど、威力が強く杖が飛んでいった。がら空きになったところに、思いっきり斧を振ろうとするのと同時に、嫌な予感がして、その場から飛び退く。すると、私がいた場所に、水の槍が突き刺さった。
「視野が狭くなってる。ちょっと前のめり過ぎたかな。もっと、周囲の動きを感じ取らないと。【共鳴】」
黒百合を呼び戻して、双剣の状態に戻す。そして、後ろから襲い掛かってきた大剣持ちを【操影】で縛り、一瞬動きを阻害して、攻撃のテンポを一歩遅らせる。脇腹を蹴って、振り下ろされる前に、吹っ飛ばした。
その後ろから迫ってきた槍持ちが、長槍を突き出してくる。双剣で軌道をずらしつつ、【血液武装】で刃を操作して、槍を絡める。
「んなっ!?」
思いっきり引っ張って、私の方に来させる。そして、足を跳ね上げさせて、顎を蹴り上げた。
「「【雷霆の怒り】」」
二人の魔法使いが、雷霆魔法を放ってくる。さすがに、【未来視】を使わずに反応する事は出来ないので、右肩と脇腹に命中した。【貯蓄】のHPが一気に五割削れた。
「無傷!?」
相手からは、HPが削れていないように見えるらしく、滅茶苦茶驚いていた。まぁ、魔法を食らっておいて無傷なのは、さすがに驚くか。魔法を食らった事で、【吸収】が発動して、MPは大きく回復していた。追加効果の【修復】で、MPを消費し続けるから、こういう細かいところでの回復は有り難い。
MPは良いとして、HPの方は、回復が必要なので、顎を蹴り上げた事で気絶状態になっていた槍持ちの身体を【操影】で動かし、首に噛み付く。【牙】により噛み付きのダメージ量も増えているので、血を吸うダメージと噛み付く継続ダメージが入る。
槍持ちの人は、獣人族の女性だった。獣人族からは、初めて血を飲むけど、かなり不味い。アプデの影響もあるのかもしれないけど、強い獣臭に加えて汗とかの香りも鼻を抜けてくる。強い吐き気に襲われつつも、一気に飲み込み続ける。
「こいつ……【吸血】持ちだ!」
敵の一人が叫ぶ。散々血を使っていたのに、何を今更って思ったけど、【吸血】は不人気すぎて、育てている人がほぼいない事を思い出した。血を使っていても、ただそんなスキルがある程度しか思わなかったのだろう。
異様な光景に、周囲を取り囲む敵は攻撃出来ないでいた。人によっては、トラウマになる光景かもしれない。
【貯蓄】分のHPも回復しきったところで、思いっきり噛んで喉を噛み千切って倒す。
「ふぅ……不味い」
舌舐めずりをしながら、周囲を見回すと、全員が一歩後ろに下がった。【狂気】を使っている訳でも無いのに、狂気を感じ取られているかのようだ。全くもって失礼なと思いつつ、これも利用出来るのではと思い、敵達に向かって微笑んでみた。
「逃がすと思う?」
敵は、絶望を感じたような表情になった。それでも、私は容赦しない。【血液武装】にも制限時間はあるので、早く片付けないと。
高速移動で魔法使いに接近して、心臓に白百合、首に黒百合を突き刺して、二重でクリティカル判定の攻撃を入れて倒す。
直後に、大鎌に変化させて、心臓に向かって刃を振い、身体をそのまま持ち上げて地面に叩きつける。
「がはっ……」
それでもHPを削りきるまでいかなかったので、その頭を踏み潰す。【神脚】が伴った踏みつけは、魔法使いの後ろにある地面に罅が入る程の力だった。
その攻撃の直後に、【未来視】を発動して、魔法使い達を見る。魔法が放たれるのを視た。
「【烈火烈日】」
「【雷霆の怒り】」
「【暴風の裁き】」
まず地面を抉る勢いで、鎌を回転させて、下から噴き出そうとする炎を打ち消し、正面から飛んでくる稲妻を下から振り上げる刃で打ち消し、私を包み込もうとする暴風を大鎌を振り回す事で打ち消す。
「いい加減うざいんだよ!!」
頭痛による苛つきと大人数による攻撃による苛つきもあって、思わずそう叫んでしまった。まぁ、後悔はしてない。実際うざいし。
さっきもやった黒百合飛ばしを使って、一人の顔面に黒百合が突き刺さる。そこに高速移動で近づいて、大槌に変えた白百合を黒百合の柄に叩きつける。魔法使いの頭を凄い勢いで黒百合が貫通して、後ろにいたもう一人の魔法使いの首に突き刺さった。その魔法使いの首を両手斧で刎ねて倒し、黒百合を回収して双剣に戻す。
そのまま次の魔法使いを倒してやろうとしたけど、近接武器持ちが盾になるため道を塞いでくる。残りは、近接持ちが六人に魔法使いが一人。【血液武装】の効果時間は、後三分前後。スキルレベルが上がったおかげで、十二分くらい持つようになった事を考えると、もう九分も戦っている事になる。いや、まだ九分と言った方が精神的な疲労的に正しいかも。
でも、これくらいなら、すぐに片付くだろう。そう思っていると、全く予想外の事が起こった。
「【大地割裂】」
魔法使いが放った大地魔法により、私の足元が大きく割れる。それは、他のプレイヤーも巻き込むような一撃だった。これまでは他を巻き込まないようにしていたけど、もう形振り構っていられなくなったみたい。
「馬鹿やろっ……!?」
他のプレイヤー達の声が聞こえる。六人の近接武器持ちが、全員落ちたみたいだ。
私は、【血液武装】で鎖鎌のようなものを作って、近くの街灯に巻き付けて、落下を止める。そして、亀裂の壁に足を着けて、すぐに斜め上方向、対岸の崖上に着地した。
「嘘だろ……何で、これで倒せないんだ!!」
嘆いている魔法使いのプレイヤーに向かって、高速移動を使い、その腹を蹴り飛ばす。多少手加減したから、壁にめり込んでも、ギリギリ生き残っていた。
「ぐえっ……」
蝙蝠からの超音波はないし、周囲に他のプレイヤーの姿はない。集まってきた集団は、これで正真正銘最後の一人だろう。
「一つお願いがあるんだけど。もう二度と私に絡んでくるなって伝えておいて。後、他人の成果を都合良くぶんどれると思うなともね」
「ひっ……」
伝えないといけない事は、全部伝えたので、怯えきっているその人に対して、両手斧に変えた白百合を振り下ろして、トドメを刺した。最後に、周辺の状況を確認して、私を狙っている他のプレイヤーがいないという事が分かってから、ようやく気を抜いた。
これで、変な奴等が減ると良いけど、そう都合良くはいかないかもしれない。一応、イベントでの出来事だけど、後で運営に報告だけしておこうとは思う。
まぁ、イベントで協調する事なんて、普通にある事だから、何かしらの措置がされる事はないと思うけど。




