第三回イベント開始!
転移した場所は、どこかのビル上だった。少し壁が出来ていて、周囲を見る事が出来ない。でも、天井はないので上を見る事はでき、夜である事が分かる。身体は、まだ動かない。これは、前のイベントと同じだ。目の前にウィンドウが現れて、十カウントが始まる。
「不意打ち……建物内に潜んでいる人からの不意打ちって事か。魔法とか弓の人だと、そこから撃てたりするかもだし」
十カウントが終わり、身体が動くようになる。同時に、蝙蝠を出して、周辺の索敵をさせる。【感知】と違って、蝙蝠はプレイヤーにも反応して位置を知らせてくれるので、こういうときにも使える。これと同時に、マップを開いて全体図を確認する。
「う~ん……本当にエリア全部が都市か……どう行動するかな」
小さな広場など開けた場所もあるみたいだけど、基本的に建物が並ぶ都市が広がっているようだ。
「取り敢えず、積極的に狩らないと、優勝は目指せない。よし!」
屋上の端の方に移動して、このビルの高さを確認する。大体、三階くらいの高さだ。
「これくらいなら行ける。最初に目指すのは、あの高いビルかな」
ここから見える高いビルは、他のビルよりも抜きん出て高い。東京の高い電波塔よりも高いかもしれない。一番目立つから、プレイヤーが集まる可能性がある。デタラメに動くよりも、当たりを付けて行く方が良いはず。
「よいしょっと」
ビルの屋上から飛び降りる。壁すれすれを落ちて、途中で壁に足を押し付けてブレーキを掛ける。壁を削りながら減速して、着地する。
そして、さっき決めた目印のビルに向かって走ろうとすると、蝙蝠の超音波が聞こえてきた。距離は、少し遠い。多分限界距離の四十メートルくらいの距離だろう。超音波の回数は二回。つまり、二人いる。
戦っている可能性もあるので、漁夫の利狙いだ。戦闘音が聞こえてくる。金属同士がぶつかり合う音なので、近接武器同士の戦いかな。
この考えは合っていて、片手剣で戦っている男二人がいた。距離を取った瞬間に、高速移動を使って、片方の男の脇腹に拳をめり込ませる。金属鎧じゃなかったから、思いっきり拳がめり込んでいった。
「うごっ……」
錐揉みしながら吹っ飛んでいく男を横目に、もう一人の男の方に高速移動で突っ込み、ドロップキックを打ち込む。
「がぁっ!?」
さっきまでの戦いでHPが減っていたからか、この一撃で倒れた。拳を打ち込んだ方は、削りきる事が出来ていなかったみたいで、剣を構えて、こっちに向けていた。
私も黒百合を抜いて、高速移動で突っ込む。
「なっ!?」
私の姿を見られる程、目が養われているわけじゃないらしく、斜め後ろに現れた私を完全に見失っていた。
「【バックスタブ】」
背中に黒百合を突き刺して、完全にHPを削りきった。
「あっ……少しでも血が欲しかったのに……プレイヤー相手に戦った事がなさすぎて、ダメージの感覚が分からないからなぁ……しばらくは、白百合にして、吸収しよ」
本当は、出血状態にして血を抜き取り、【貯蓄】にHPを溜めておこうと思ったのだけど、その前に倒してしまった。技が余計だったという線もありそうだから、そこら辺はしっかりと考えて行動しておく必要がありそうだ。
「それにしても、ここに来て、改めて【神脚】のヤバさを思い知る事になるとは……」
HPの差があったとはいえ、拳と蹴りでのダメージ量の違いは大きかった。でも、【腕力強化】や【握力強化】などによって、拳での一撃も威力は上がっている。【神脚】の腕バージョンが早く欲しいところだ。
「【双天眼】の方も調子良し!」
【双天眼】の検証もある程度済んでいる。これのおかげで、高速移動の安定度が増した。結果、全体的な戦闘速度が、更に増すことになった。
「【操砂】と【操泥】は……」
イベント直前の夜に手に入れた二つは、まだちゃんとした検証が出来ていない。ここで、二つのスキルを使おうとするけど、【操砂】の方しか反応しなかった。ただ、反応したって言っても、周囲にまばらにある砂がちょっことだけ集まっただけで、何かに使えそうな感じはしない。
「もう少し砂の量がある場所じゃないと、有効活用は無理そうかな。何かしらに使えれば良いけど」
取り敢えず、蝙蝠の超音波は聞こえないので、このまま高いビルの方に向かっていく事にした。蝙蝠を先行させつつ、全力で駆けていく。
高いビルまでは、大分距離があって、何度か戦闘になったけど、高速移動と【神脚】による蹴りや白百合での弱点攻撃で、次々に倒す事が出来た。まぁ、装備から判断するに、まだ始めたばかりのプレイヤーだったから、簡単に倒せただけだと思うけど。
【貯蓄】には、三分の一くらい補給出来たけど、フレ姉と戦うなら、もう少し補給しておきたいところ。血を使うという選択肢もあるけど、回復手段は残しておきたい。
目的地に着いて、すぐに蝙蝠を周回させる。この大きなビルの周囲は、結構開けていて、広場の中央に聳え立っているみたいな感じになっている。
「おぉ……イベントじゃなかったら、このビルの中も隅々まで探索したいんだけどなぁ……」
そう呟くのと同時に、蝙蝠の超音波が聞こえてくる。それも何回も。
「よし。予定通り。やっぱり、目立つ場所に人は集まるよね」
でも、予想外な事もあった、蝙蝠の超音波が、全然止まない。次々にプレイヤーを発見している。今の時点で二十人はいる。しかも、ある程度固まっていた。
それでも戦闘音は聞こえてこない。つまり、戦闘をせずに、ただ一緒にいるのだ。
「バトルロイヤルイベントなのに、それだけの人数で協力するって、最後はどうするつもりなんだか」
結局のところ、勝者は一人だ。最多キルか生き残るか。協力しても、最後には争うことになるに決まっている。取り決めがしっかりしていなければ、こんな事はしないと思うから、考えてはいると思うのだけど、ちょっと気になる。
「まぁ、協力している事に文句は言わないけど、女の子一人に対して挑んでくる数じゃないよね?」
プレイヤーの集まりは、まっすぐ私の方に来ていた。雰囲気的に、私にも協力の提案をしてきたようには見えない。
「まさか、こんなに早く見つかるとは思わなかったぜ」
戦闘を歩いている斧持ちがそう言ってニヤリと笑った。
「…………誰?」
知り合い風に言われても、見覚えがない。全く知らない人だ。だけど、向こうはそうじゃないみたい。一方的に知られているのって気分悪いな。
「てめぇ……! 舐めてんじゃねぇぞ! ここで死にたくなかったら、あの地下道の情報を渡しな。お前が独占して良いもんじゃねぇんだよ」
思い出した。地下道でジャングル方面に向かう時に、後ろで叫んでいた人だ。その時のお仲間は一緒にいないみたいだけど、見限られたのかな。それとも、単純に合流出来なかったか。まぁ、どちらでもいいや。
「自発出来ないからって、集ってこないでくれます? 自分でフラグを探してください。ゲームの醍醐味でしょ?」
私がそう言うと、歯が割れんばかりに食いしばってこちらを睨んでくる。他の面々も、私を睨んでいるところを見ると、この人に同調した人達って事だろう。
全員が武器を抜いて構えてくる。
「はぁ……めんど……」
私も双血剣を抜く。そして、高速移動で一気に件の男に接近し、がら空きの首に黒百合を突き立てる。
口を大きく開けて、声を吐き出そうとしているけど、沈黙状態になったからか、何も声になっていなかった。同時に、黒百合の効果で出血状態になったので、【血液武装】を使って黒百合に血を纏わせる。そして、その血を操作して、剣山のようにし、内側から貫いた。
色々なモンスターとの戦いから、内側からの攻撃は防御を貫通出来るという事が分かった。そして、それはプレイヤーも例外じゃないみたい。クリティカルに加えて、内側からの多重攻撃でHPが一気に削れる。最後に思いっきり蹴り飛ばして後ろにいるプレイヤーにぶつけて、ボウリングのように吹っ飛ばした。
それによって、その男は、HPを全損し倒れた。周囲のプレイヤー達は、唖然としている。戦闘中に呑気なものだ。
すぐ隣にいる片手剣を持つ女性プレイヤーの脇腹に左脚で回し蹴り放ちつつ、右脚に力を込めて、反対側に突っ込む。布装備の槍持ち男性プレイヤーの腹に黒百合を突き刺して、出血状態にしてから、さらに【血液武装】を発動して、白百合の方に血を纏わせる。
「【焔血】」
「あああああああああ!?」
突き刺した黒百合が纏っていた血が燃え、その炎がそのまま男の身体を燃やす。炎上ダメージを受けて、叫んでいる。見た目程ダメージ量はないけど、身体が燃えている事でパニックになっているみたいだ。
うるさいので、黒百合を引き抜いて、プレイヤー達が固まっている場所に蹴り飛ばす。ようやく最初のショックから立ち直ったのか、今度は皆避けたので、ボウリングみたいに吹っ飛ばす事は出来なかった。
「クソが!! 【兜割り】!」
斧持ちの全身鎧男が、真上から振り下ろしてくる。【双天眼】で、その攻撃の道筋は見抜けたので、一歩右にずれて避けつつ、脇の下に素早く黒百合を突き刺して、出血状態にし、また血を抜き取って、黒百合に纏わせる。そして、最初の男と同じように内側から小さな槍状にした血で貫いた。最初よりも纏っている血の量が多いので、その分ダメージも多くなる。
これでもHPは三割くらい残った。タンク的な役割を担うスキル構成にしているのかもしれない。それでも、白百合で首を突き刺して、もう一度血を抜き取る事で倒しきる事は出来た。
ここまで二分くらいの出来事。戦闘であれば、短いようで長い時間だ。他の面々の意識が戦闘に完全に移行するには、十分過ぎる。
「あなた達を扇動していたであろう人は倒れたけど、まだやるつもり? 今すぐに、ここから離れるなら、また仕切り直しにしても良いんだけど?」
これで、少しくらいいなくなってくれないかなと思っていたのだけど、誰も退かなかった。まぁ、バトルロイヤルイベントだし、ここで退く理由なんてないだろうから仕方ないか。
「それじゃあ、せっかくだから、長く耐えてよね。今の戦法が、どのくらい通用するか知りたいからさ!」




