表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ  作者: 月輪林檎
真祖となった吸血少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/793

西のコンセプト

 豪雨エリアを探索し始めて一時間が経った。何度も狂乱桜が襲ってきて、その度に【真祖】で返り討ちにしていたら、【狂気】のスキルを手に入れた。


────────────────────────


【狂気】:意識を失い、五分間目の前のモンスターやプレイヤーに無差別攻撃を繰り返す。発動後、技は使えなくなり、物理攻撃力がかなり上昇する。


────────────────────────


 この五分間に何が起こるか分からないので、おいそれとは使えない。下手すると、近くにきたプレイヤーにも襲いかねないし。


「ソロで、ボス戦をする時には使えるかな。まぁ、しばらくは封印っと」


 通常攻撃だけでも勝てるボス相手に使用すれば、物理戦闘に関するスキルが軒並み上がるはずなので、そういう時にだけは使えると思う。


「てか、ここのモンスターって、狂乱桜だけじゃないよね……? さすがに、精神的にキツいんだけど……」


 ずぶ濡れの女性が、気が狂ったように凶器を振り回して、叫びながら突っ込んでくる。それも、画面越しじゃなくて、本当に迫ってくるので、そこらのホラーゲームよりも怖い。あれを見ていると、【狂気】がヤバいスキルなのだと認識しても仕方ないと思う。

 もう少し精神的にも安堵出来るようなモンスターが欲しい。そんな願いに応えたかのように、それは現れた。【感知】に反応があって、向こうが近づいてこないから、狂乱桜じゃないなって思って近づいたら、思わず立ち尽くす事になった。

 そこにいたのは、ものすごく見慣れたモンスターだったからだ。ただ、ちょっとだけ、たった一つだけ違う部分がある。大きさだ。普通にそこら辺にありそうな二階建ての一軒家のような大きさをしたスライムだった。名前はジャイアントスライム。


「でか……」


 ジャイアントスライムは、ゆっくりと私に近づいてきたかと思いきや、触手みたいなものが伸びてきて、私を絡め取った。


「はぁ!?」


 移動速度と拘束速度の差に反応が遅れてしまった。そのまま持ち上げられてしまい、傘も落としてしまう。頭から雨を浴びたからか、混乱の状態異常にもなってしまう。混乱の検証も出来たと喜ぶ余裕など無く、ジャイアントスライムに飲み込まれる。

 身体中でスライムを掴んだ時のようなピリピリ感を味わう。身体を動かしてジャイアントスライムの外に出ようにも、上手く動けなくて中々外に出る事が出来ない。

 平原のスライムは可愛らしいモンスターだけど、こっちのジャイアントスライムは、下手に近づいたら、確殺される恐ろしいモンスターみたいだ。まぁ、普通のプレイヤーからしたらだけど。

 私は、ジャイアントスライムの中で、【真祖】を使う。口の中に、どんどんとジャイアントスライムの身体が吸い込まれていく。段々とジャイアントスライムの身体が小さくなっていって、最終的にジャイアントスライムの核だけが残った。


「ふぅ……飲み応えがあるスライムだったなぁ。それにしても、あれだけ大きい身体に、この小さい核って、ジャイアントスライムも本当に厄介なモンスターみたいだね」


 ジャイアントスライムの核は、通常スライムよりも一回り大きいくらいなので、あの大きさに見合ってはいないと思う。その核を正確に破壊しないと、あの身体を少しずつ削っていかないといけない。それも、あの触手攻撃を避けながら。

 逆に、それを利用して、ジャイアントスライムの中を泳いで核を破壊するというのも有りなのかな。


「あっ、【水泳】って、ここでも使えるって事!?」


 川を泳ぐ以外に、【水泳】の使い道があったのかもしれない。そう思うと、ただの趣味スキルに見える他のスキルも、色々な場面で使えるのかもしれない。それこそ、本を読むしか出来ない【言語学】にも他に使える場所があるのかも。まぁ、【言語学】に関しては、色々と面白い事に繋がってはいたけど。

 ファーストタウンの地下道も調べないといけない事を思い出したところで、今の自分の状況を確認する。


「混乱の状態異常は掛かったまま。このまま傘を差しても、変わらな……いや、状態異常の継続時間は減り始めているから、傘を差せば時間で解除する事が出来るって感じかな。この感じなら、傘よりも合羽の方が便利そうだけど……アカリに相談してみよう」


 アイテムを節約するためとスキルレベルを上げるために、混乱の状態異常は、そのままにして、探索を進める。アカリやアク姉が言っていたように、【感知】は働かない。マップも見えないし、自分が進んでいる方向も分からなくなってくる。


「これは……想像以上に厄介かも……」


 前は、雨の混乱がなかったみたいだから、今よりも遙かに攻略しやすかった事だろう。それでも、攻略が進まないといった事例が多かったのは、ジャイアントスライムや狂乱桜にやられたって感じかな。

 ジャイアントスライムは、豪雨の背景に溶け込んでいて近づかないと見えにくいし、狂乱桜に関しては、突然走ってくる。二種類とも、奇襲に近い事をしてくるので、苦戦はすると思う。


「でも、この雨の混乱って、アップデートがあったからなんだよね。それ以前の混乱って、どこから発生していたんだろう?」


 アップデート前から、混乱が厄介と言っていた。それがどこから来たものなのか、私には分からない。そんな事を考えていると、蝙蝠の超音波が聞こえてきた。それは、私の正面方向。

 私は、一度その場で止まる。現状【感知】は使えないので、相手がジャイアントスライムか狂乱桜かの区別が付かない。見極め方法としては、このまましばらく待って、突っ込んできたら、狂乱桜。何も変化がなければ、ジャイアントスライムという感じで見極められるはず。これまでの経験から、そう判断出来る。

 少し待っていると、正面から長い髪を振り回して、狂乱桜が走ってきた。その姿は、走るゾンビを彷彿とさせる。

 【血液武装】で短剣を作った私は、思いっきり狂乱桜に投げつける。血の短剣は、狂乱桜が振り回す包丁にぶつかり、その包丁を落とさせた。

 武器を失った狂乱桜は、霊峰の洞窟にいたシャドウ達と違って、武器を取りにいくことはなかった。そのまま両手を前に出して突っ込んでくる。手の形から、私の首を絞めようとしているようにも見えた。


「怖っ……」


 拳を固く握った私は、狂乱桜の動きに合わせてカウンターを打ち込もうとする。でも、その前に、狂乱桜が叫んだ。これは、何度か受けているので、もう驚くこともない。そう思っていた。


「えっ、混乱の時間が延びた?」


 アイコンが点滅して、そろそろ消えるはずだった混乱の状態異常マークが、またくっきりと表示された。つまり、混乱の継続時間が延びた事を示している。雨は浴びていない。だから、考えられるのは、狂乱桜の叫びに混乱の状態異常が付加されていたという事。これまで受けなかった理由は、ただ単純に運が良かっただけみたいだ。

 その一瞬の戸惑いの内に、狂乱桜が目の前に来ていた。その手が私の首を掴んで、押し倒されてしまう。思いっきり首を絞められるけど、あまり苦しさはない。ここでリアルを追求していないあたり、ゲーム制作者の良心が見られる。

 私は、すぐに【操影】を使って、狂乱桜の身体を縛る。狂乱桜の身体を引き離して、軽く空間を作る。その空間を使って、思いっきり脇腹を殴った。狂乱桜の身体は、影を千切りながら吹き飛んでいった。


「おぉ……そういえば、【腕力強化】があるんだった……」


 いつもよりも威力が出て、ちょっと驚いたけど、自分の腕が脚と同じように強化され始めた事を、しっかりと意識出来たので良かった。

 吹き飛んだ狂乱桜は、昔の祓魔師の映画に出て来そうな感じで、ブリッジしながら起き上がると、ほぼほぼ四足歩行のような低い姿勢で突っ込んできた。


「怖っ!?」


 狂乱桜の動きに合わせて、思いっきり顔面を蹴り飛ばすと、ダメージエフェクトを散らせながら、狂乱桜の首が飛んでいった。さっきの拳とこのクリティカル攻撃によって、狂乱桜は倒れた。


「危なかった……もしかして、西のコンセプトって、悪天候とかじゃなくてホラー? そこまで好きでもないんだけどなぁ……」


 これまでのエリアから、東は水関係、南は高温関係、フレ姉達の話から北は低温関係とコンセプトを決めていると思っていた。西は豪雨と聞いた時から、私は悪天候がコンセプトになっているのではと思っていたのだけど、このモンスターを見ていたら、ホラーがコンセプトなんじゃないかと思ってしまう。まぁ、ホラーにしては、残りのモンスターがジャイアントスライムというのは、拍子抜けって感じだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ