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【第一章完結】元FPSプロゲーマーのデスゲーム攻略(ただし肉体は幼女とする)  作者: 彗星無視
第一章 黎明を喚ぶもの

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第三十八話 『黎明を喚ぶもの』

「一件落着かな……まさか朝になるまで動き続けることになるとは」

「あの、アレンさん。こんな時に訊くのも、なんですけど——」

「ん?」


 もったいぶった問いかけに、アレンはそばに立つ少女の方を振り向く。彼女の横顔は暖かな光に優しく濡らされており、きっと彼女から見たアレンの横顔も同じだっただろう。


「——アレンさんの名前、実は気になってて」

「名前? そりゃあアレン……あ、本名のことか?」

「は、はい。い、いえあの、言いたくなかったらもちろん大丈夫なんですけどっ」

「別にいいよ。そもそもネットじゃバレてるしな」

「え? そうなんですか? 公開してたんですね、本名」

「いや……そういうわけじゃないんだけど……なんかバレるんだよな、大会とか出ると……」

「……?」


 大会にエントリーするとき、選手の情報を登録しなければならない。ゲーム公式の大きな大会等だと、プレイヤーネームのみならず本名も必要となる。そうした選手情報が漏れたり、大会側が掲載したりして、公開するつもりがなくともバレてしまう事態がたびたびあるのだった。

 ミカンのIDは本名そのままであり、稲美蜜柑(いなみみかん)と言うことをアレンは出会った日に聞いている。だから今は、一方的に名前を知ってしまっている状態であることを、今さらアレンも意識した。


(れん)……赤梁連(あかはりれん)。まあ、ちょっと名字は珍しいかもだけど、ふつうの名前だよ」

「あかはり、れん……さん?」


 インターネットでは別の名前を名乗っていようが、それだけが、アレンが両親からもらった大切な名だ。

 名を告げるアレンに、ミカンはなにかを考え込むように小首をかしげる。


「なんだ? 漢字が気になるのか? ええと、赤色の赤に、建築で使う梁に……連続の連だよ」

「あ、えと、そうではなくって。赤梁連……ってことは、もしかしてアレンさんって、本名を縮めてアレンさんなんですか?」

「え——」

「その顔……! やっぱりそうなんですねっ。ふふ……アレンさん、本名をIDにしたわたしのこと笑ってたわりに、自分だって似たようなものじゃないですか」


 くすくすと笑うミカン。彼女にしては珍しく、からかっているようだった。

 出会ったあの夜のささやかな仕返しだったのかもしれない。ともかくそれを受け、アレンは弁解のためにあわてて詰め寄った。


「ど、どこがだよ。アレンの名前から本名はわかんないだろ!? ミカンみたいに本名をそのままIDにするのとはわけが違うっ」

「ええー? そんなに変わんないですって。だって本名を縮めただけじゃないですか、なんのひねりもないし……」

「中学の時につけたからあんまり深く考えてなかったんだよ!!」


 赤梁連を縮めてアレン。ただそれだけの安直なハンドルネームを今さら小馬鹿にされ、アレンは赤面する。長年使ってきた名前だけに馴染んでおり、そんな風に言われるとはまさしく青天の霹靂(へきれき)だった。

 ひとしきり笑ったあと、わずかに真剣みを帯びた顔で、ミカンはアレンの(あお)い目を見る。


「でも、アレンさんのことが知れてよかったです。連さんって呼んだ方がいいですか?」

「いいよ、今まで通りで」

「そ、そうですよね。周りに本名バレしちゃいますし。……わたし、昨日も少し言いましたけど、この世界(キメラ)は間違ってるって思います。誰かが不幸にならなくちゃいけないなんて、おかしいです」

「そうだな。俺も……本当にそう思うよ。誰も彼も、キメラがなければ、プレイヤーキラーになんてならずに済んだんだ」


 アレンも、この手を血で——もとい、輝く粒子で染めることもなかった。

 アレンがプレイヤーキラーキラーとなったのは自らの意思だ。

 だが、その被害者のすべてが、自ら望んでプレイヤーキラーになったわけではない。

 マツたちのように。ジークたちのように。


(マグナさんは……あの人は俺のキャリアを壊し、この世界でも自分からプレイヤーキラーとなった悪人だ)


 マグナという男は悪人だ。それは擁護のしようがない。PKギルドの<エカルラート>を創立し、多くの人間を糧とし、武力によるキメラの支配を目論んだ。

 ノマとフラクチャがどうしているか、ミカンは今も心配に違いない。サブギルドの<アーミン>を罠として利用し、ジークを殺したマグナは言い逃れのできない大悪だ。


(でも。キメラさえなければ、マグナさんも人殺しになんてならなかったはずだ。そして……俺に殺されることだって)


 そんな悪人でも——アレンのことさえ陥れた宿敵であったとしても。

 ずっとそうだったわけではない。電子の戦場で背中を預け、同じ目標に向けて、心を通わせた瞬間は確かにあった。


「アレンさんと出会えたのはキメラのおかげですけど……やっぱり直接会ってみたいです。こんな箱庭の世界じゃなくって、現実でアレンさんと」

「直接か。ああ、いつの日か、現実に戻ったらそうしよう。俺もミカンと会って話したい」

「はい! いっしょに女子会といきましょうっ」

「いや……現実に戻れば俺は男だから女子会にはならないが」

「はっ、そうでした」


 男の体に戻っても、ミカンは同じように接してくれるだろうか。そんな甘酸っぱい不安が胸に湧くも、まだまだキメラを出るには遠い今、とんだ杞憂だ。

 アレンは苦笑し、依託射撃に使った手すりにもたれかかる。ボスモンスターの粒子も消え、平野の転移者(プレイヤー)たちは町へぞろぞろと戻りつつあるようだ。

 レーヴンをはじめとする<和平の会>の面々もじき、このギルドハウスに戻ってくるだろう。

 転移者(プレイヤー)の列をぼんやりと見つめながら、アレンは胸中の決意を告げた。


「俺はこれから、キメラをクリアしようと思う」

「……はい」

「驚かないんだな。俺も決意が固まったのはさっき……マグナさんに言われてからなんだが」


 マグナを倒し、ボスモンスターを討伐し——

 けれども、視界の端に表示された保有SPはようやく24059。ゲームクリア条件である100万など、頂きすら見えぬはるか先。


「いつかクリアを目指すんじゃないかって、実はずっと思ってました。だって、アレンさんはすっごく強くて……すっごくいい人ですから」

「そうか。俺もミカンに、そう言われ続ける俺でいたいよ」

「わたしはアレンさんみたいに強くありませんし、プロゲーマーでもなんでもない、ただの高校生です。だから……わたしの願いも、アレンさんに託していいですか?」


 ゲームクリアによる転移者(プレイヤー)の解放。

 不幸の連鎖を食い止めるには、キメラを終わらせるしかない。それを行える可能性があるのは、ただ純粋に、他の転移者(プレイヤー)を圧倒できる強さを持つ者のみだ。

 プロゲーマーのような。


「ああ。これは俺たちの願いだ。もう誰も不幸になったり、犠牲にならなくてもいいように……このデスゲームを終わらせよう」

「——、はい……! わたしもアレンさんを支える盾として、できる限りの力になります!」

「頼りにしてる」

「任せてくださいっ。ユニークスキルの新しい使い方も身に着けましたから!」

「……さっきの壁で押しつぶすやつか? あれはちょっと……あんまりしてほしくないなぁ……」


 襲撃イベントは無事終わり、転移者(プレイヤー)たちは束の間の安息に浸る。

 しかし忘れてはならない。彼らは皆、依然としてこの箱庭の世界に囚われたままであり、死と隣り合わせのゲームは続いている。


「ところで、そろそろ帰りますか?」

「それもそうだな……長居してレーヴンと鉢合わせても説明が面倒だ。宿に戻ろう、俺も早く休みたい」

「はいっ。全部が終わって現実に戻れたら、女子会にはならないですけど、祝勝会しましょうね」

「その時は俺が奢るよ。年上だからな」

「今はこんなにちっちゃな女の子ですけど」

「それを言うなよ。元の体に戻った俺を見たら、きっと年上だって実感するはずだ」


 狩り場は限られ、SPを満足に得られない者も多く。

 懐を潤すため、はたまたゲームクリアを目指すため、プレイヤーキラーとなって他者を害する者もいる。

 襲撃イベントが終わろうが、そんな暗澹(あんたん)たる現状はなんら変わりない。


「それに奢りって……本当に大丈夫なんですか? アレンさん」

「え? なにが?」

「だって、チート疑惑でプロチームを追放になった……ってことは。プロゲーマーじゃなくなって無職、つまりは収入のないただのニート——」

「やめろっ、言うな! 妙なとこで気を回さなくていい……!」


 迷路のような町を一望する、朝のバルコニーを後にする。

 真の黎明はまだ遠く。

 それでも二人は、暗雲立ち込める未来の先に待つ、輝かしい夜明けを喚ぶだろう。

 親愛なる少女にいつの日か、本当の意味で出会うことを願って。

第一章『黎明を喚ぶもの』 了

第二章『矛盾楽園』(仮) へ続く



*ご愛読ありがとうございました。一章はこれにて完結になります。

二章はしばし休載を頂いたのち、更新していく予定です。

最後になりましたが、いいね・ブックマーク・評価等々ありがとうございます。いつも励みになっております。

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