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【第一章完結】元FPSプロゲーマーのデスゲーム攻略(ただし肉体は幼女とする)  作者: 彗星無視
第一章 黎明を喚ぶもの

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第二十一話 『悲劇の幕が上がる時』

「アレン君」

「ん」


 少女たちの和やかな風景をぼうっと見ていると、アレンはジークに小さな声で話しかけられた。

 その表情は出会った時と同じ冷徹さをまとってるようで、どこか憑き物が落ちたようでもある。


「奥の部屋にギルドフラッグがある。後で回収しておいてもらえるか」

「いいのか? わからないあんたじゃないだろうが、<アーミン>のギルドメンバーじゃない俺がフラッグに触れれば旗は『強奪』扱いになるんだぞ」

「そうしてくれ、と言っているのだ。これは禊……と言うには大げさか。それに償いと呼ぶにも、おれの行いは償いきれるものでもあるまい」


 すべてのギルドハウスにはギルドフラッグがある。というより、正確には、ギルドフラッグのある場所がギルドハウスとなるのだ。

 ギルドメンバーがフラッグに触れると、一日に一回、10SPを獲得することができる。  これは巷ではログインボーナスと呼ばれ、10SPという少ない値ではあるが、貧困と隣合わせの多くの転移者(プレイヤー)にとってそれなりに大きな救済措置となっていた。


 そして反対に——ギルドメンバー以外がギルドフラッグに触れると、『強奪』のシステムが働く。

 これは、なにも旗を奪うということではない。

 旗を通じて、所属するギルドメンバーすべてのSPを奪うのだ。

 その値は、所持SPの50%。すべてのギルドメンバーから強制的に所持SPの半分を獲得し、さらにギルドは解散状態となる。解散状態になったギルドに所属するギルドメンバーはこれも強制的に脱退させられ、さらに三日の間新たにギルドを創立・加入できなくなる。


 まとめると、ギルドメンバー間の連携や通話機能、ログボといったメリットはあるが、万が一外部にギルドハウスへの侵入を許した際、フラッグの強奪に伴うSPの半減とギルド解散という重いデメリットがギルドには存在するのだった。

 この点において、<エカルラート>が<アーミン>を傘下に入れるような、サブギルドの形態はリスクを軽減させる効果があった。ギルドメンバーでなければ、外部との内通者を引き込んでしまい、裏切られてフラッグを強奪されるといった心配もない。


「ギルドが解散してもいいのかよ? ジーク。どんな形でも、これまでなりふり構わず守ってきたものなのに。SPだって減るんだぞ」

「まあ、おれたちの所持SPの半分など、合算しても大した値にはならないだろうがな。これは対外的にも必要な処置だ。少なくとも<アーミン>というギルドの形態が残っていれば、<和平の会>も納得はしないだろう」

「あ……それもそうか」

「どのみち木っ端のサブギルドだ。解散しただけで見逃してくれることを祈るとも。それに——」


 かすかな微笑を浮かべながら、ジークは妹たちを見る。


「——ギルドという枠組みを失おうとも、おれたちは<アーミン>だ。そのつながりは変わらない」

「そうだな。……そうだ、だったらミカンももう一度ジークたち<アーミン>に受け入れてもらえるか?」

「む。彼女が許してくれるのなら、おれたちにとっては彼女が戻ってきてくれるのならば喜ばしいが……君はいいのか?」

「俺?」

「彼女は見違えた。ミカン君を克己させたのはアレン君なのだろう? なにかしら特別な感情を抱いているものかと思っていたが。彼女が君のもとを離れてもいいのか」

「な……! と、特別な感情ってなんだよ」

「いやなに。君も男だ……いや見た目は可憐な少女そのものだが、精神的には男だ。……男か?」

「男だわ!!」


 己の沽券に関わることだったので、アレンは目を見開いて反論した。

 背も小さく、顔も声もかわいらしくなってしまったアレンだが、精神的にはまだ男だ。

 毎朝鏡を見る時や毎晩の入浴、トイレのたびに複雑な心境になることはあったが、性自認は男性のまま。これが揺らぐことは、すなわちアイデンティティが揺らぐことを意味する。

 自己同一性は大切だ。アレンが望む証明、すなわち自身の実力を知らしめてチーター疑惑を払拭することも、言い換えればアイデンティティの証明と呼べなくもない。


「ならば思うところはあったのではないか? 吊り橋効果という言葉もある。キメラほど非日常な非日常もないだろう」

「い、いや……そっ、そういうのは考えたことないし。だいいち、俺も今こんなだし。幼女の体で誰かに好きだとか、恋愛感情持てねえよ」

「そうか。ふ、特別な感情と言っただけで、おれは別に恋愛に限った話をしたわけではなかったのだがな。友愛に親愛、他者に抱く愛にも種類があろう」

「あ!? あんたからかったのかっ? ふざけんなっ、吊り橋効果を引き合いに出しておいて!」


 思いがけないからかいに、アレンは顔を赤くしてジークを叩いた。筋金入りのゲーマーには慣れていない話題だったため、妙な恥ずかしさをごまかすために何度もぽかぽか殴りつける。


「はは。効かんな、甲冑ゆえ」

「くそっこいつ思ったよりフランクなやつだった……!」


 鎧越しに殴ったとてダメージなど入るはずもない。

 アレンは諦め、火照った顔を冷ますために手で扇いだ。

 そんなアレンに、ジークは変わらず微笑を湛えながら、「そこで」と言葉を紡ぐ。


「おれは君がどうしてプレイヤーキラーキラーをしているのかを知らないが……差し支えなければ、ひとつ提案がある」

「提案? なんだよ、やぶから棒に」

「なにも唐突な話ではない。ミカン君がもし<アーミン>に戻ってきてくれるとしても、やはり彼女も、せっかく心を通わせた相手とはそばにいたいと思うのではないか?」

「……? 話が見えてこない。なにが言いたいんだ」

「ふむ、戦闘以外となると存外に勘が鈍いな? ならばはっきり言うが、これは勧誘だ。君は聡明で強く、なにより信頼に値する。仲間としてこれほど心強い者はいない」


 その意味がすぐに理解できず、アレンはぱちぱちと数度瞬きを繰り返した。

 ジークは誘っているのだ。ミカンとともに、アレンも<アーミン>の一員にならないか、と。


「ギルドは解散状態になるうえ、三日後すぐに設立すると<和平の会>によく思われないかもしれん。よって、しばらくは正式にギルドに迎え入れるという形は取れないが、どうかね?」

「な、仲間って。やっぱり急だぞ」

「無論今すぐ返事を返せとは言わん。ミカン君と相談してもらっても構わない」

「いいのかよ、ジークだって知ってるだろ。俺はチーターの疑惑をかけられて……キメラでもギルドに入れさせてもらえなかった。アレンの名は、インターネットじゃ完全に悪名なんだ」

「市井の噂など、実際に会って確かめた事実に比べれば瑣末に過ぎん。それにおれが思うに、君がギルドに入れなかったのはチート疑惑に加え、その性転換したうえに幼くなった容姿が不信感を抱かせたせいではないか?」

「……それは………やっぱり…………そうかもしれないが…………」


 ただでさえ幼女になっているだけで怪しいのに、転移者(プレイヤー)たちはキメラに飛ばされる直前に顔合わせをする白髪の少女のせいでロリにいいイメージがない。


「それにミカン君は言っていた。君はチートなど使っていないと。なら、おれたちもそれを信じよう」

「……ジーク」


 それはアレンの目指す証明の完遂からは遠い、ごく個人による信頼。かつてFPS界隈におけるArenの名を焼き焦がし、今もなお鎮火しない炎を消し去るにはまだまだ及ばない、小規模な肯定。

 それでもアレンにとっては大切な第一歩とも言える、かけがえない他者からの信頼だった。


(ばか……これじゃ俺もミカンと同じ泣き虫みたいじゃないか)


 不覚にも涙ぐみそうになる。

 威厳にかけて、アレンはなんとか涙を我慢し、なんでもないように振る舞う。


「そうかよ。だったら俺も前向きに検討させてもらおうかな」

「本当か? 嬉しい返事だな。ふ、ギルドを解散させた相手を仲間にするというのも妙な話だが」

「はは、それはそうかもな」


 転移初日に孤立したアレンにとっても、ジークたちといるのは悪い話ではない。

 カズラの話を聞いた時、構造化されていくキメラの情勢を鑑み、プレイヤーキラーキラーとしてやっていける期間はもう長くないのではと考えたばかりだ。

 仲間を作るのは、先のことを思えば必須と言っていい——


(俺がまた……『仲間』を作ろうと思えるなんてな)


 その『仲間』の誰かに裏切られ——チームメイトの誰かにプレイ動画をあたかもチートを使用しているかのように加工され、アレンは所属するチーム、ひいてはFPSの競技シーンを追われた。

 言うまでもなく、あの一件はアレンの中に深い傷を残している。周囲による炎上の火、四方からの批判にも心を痛めたが、なにより辛かったのは、仲間だったはずのチームメイトに貶められたという事実だ。

 だからアレンはもう、仲間など作らないと決めた。そのはずが、なし崩し的にミカンと過ごすようになり、気づけばこうして新たな交友の輪を紡ごうとしている。

 しかし、悪い気はしなかった。

 物思いに耽るアレンに、ふと篭手に覆われた手のひらが差し出される。


「——」


 なんのつもりかとジークを見ると、なにかを促すような目でアレンを見つめ返してくる。

 握手だ。意図に気づいて、アレンは苦笑した。

 改まったようで、どこか気恥ずかしい。

 そんなことを思うものの、断る気にもなれず、アレンはその手を取ろうとする。

 まさに、その瞬間だった。

 狙い澄ましたかのように。細い指先が、ジークの硬い金属の篭手へ触れようかという刹那。

 飛来する一発のライフル弾が、ジークの側頭部を撃ち抜いた。


「————————。え?」


 遅れてアレンは、銃声があったことを理解する。その目の前で、ハンマーに横殴りにされたかのようにジークが地面に倒れ込んだ。


「ジークッ!?」

「兄さん……!?」


 甲冑が無様に音を鳴らす。

 ただならぬ様子に、フラクチャたちもジークに駆け寄る。


「あ……」


 そのジークの手足が——それらを覆う籠手や鉄靴もろとも、細かな輝く粒子となり始めるのをフラクチャたちは見た。

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