導入3
「あれれ〜?
元気が無いな〜
もう一回イックヨー!!
こんにっちわー!!」
ここにいる28人が固唾を飲む。
中には子供も含まれていたが、その子供でさえも目の前の状況に、騒ぐ事を忘れ、小さな拳を握り締め小刻みに震えていた。
あの年齢の子供がこの状況で泣かないというのは相当強い気持ちを持っているのか、ただ単に泣ける状況では無いと言う事を幼心にわかっているのか、どちらにせよ、不憫過ぎる。
そんな事も気にせずに、嫌、気にもかけずに、部屋の天井に出現した女は神々しいというとはこういう事だというのを体現していた。
長い艶やかな黒髪。
すらっと伸びた手足、絹のような白肌。
そして、見る者全てを魅了する美しい目鼻立ちの通った容姿。
映画のワンシーンの様に、フワフワと浮遊しながら彼女はゆっくりと下降を開始する。
それに合わせてこの空間にいる28人の視線の角度も緩くなっていく。
彼女は印象的な肢体を天女の羽衣の如き薄い透き通る様な衣装で覆っていた。
「・・・・」
気付けば、何の花だったか忘れてしまったが、彼女が出現した辺りから、この空間には良い香りが漂っている。
心なしか、その芳しい香りに、俺の枯れかけていた男の部分が反応してしまいそうになった。
「よーいしょ」
彼女がストンと地上に舞い降りる。
女の足が地面に触れると、まるで最初からそこにあったかのように、座り心地の良さげな豪華な装飾が施されたソファが出現した。
女も女で位置を確かめる事も無く腰を下ろす。
「あああああ、、駄目、この登場の仕方、肩が凝るわぁ〜。
想像できるかなぁ?
こんな事もう、4274回もやってるって件、、、。
さっきのもさ、マンネリ解消でやってみたけど、皆んなの反応もあんまり良くないし、うーーん。
・・・・これってやり損じゃない?」
絶世の美人が、その神々しさとは程遠い口調で独言りながら、首を左右にコキコキする。
しまいには腕を首の後ろに回し、そこにあるツボを押す様な仕草を見せた。
それもご丁寧に左右。
・・・・何処の親父だ。
だいなしこの上無しだな。
ツボ押しの器具が手元にあったら人前でも躊躇なく使うタイプだ。
そんな俺のどうでもいい考えはお構いなしに更に女は姿勢を崩すと、片肘を肘掛けに置き、ソファに涅槃図の様に横になった。
「さーて、今回はどうかなぁ、もうそろそろ当たり引いてもいいと思うんだけど。
はぁ〜い、皆んな〜、ステータスオープンって言ってみてぇ〜、さんはぁ〜い」
あっけに取られていた28人に声が掛かった。
人間達はまるで操られた無機質のロボットの様に口々にステータスオープンと口にする。
かくいう俺も乾いた唇がビリビリと剥げる様な感覚を覚えながらステータスオープンと呟いた。