いつもの導入
ギリ・・・ギリ・・・
油がささっていないチャリンコのペダルが重い、重過ぎる。
街灯も少ない道を月と星のあかりのみの暗がりの中、チャリを漕ぎ、コンビニを見つけてはチャリを降りお目当ての商品の有無を確かめる。
もう何キロ漕いだろう、普段運動と程遠い生活をしている俺の太腿はもうパンパンではち切れそうだ。
年齢のせいか腰も痛い。
年齢のせいかか、、免許を持っているんだから車で移動すればいい、と人はそう思うだろう。
ああ、そうさ、俺はペーパードライバーなのさ、車を運転するのが怖いのさ。
自家用車は殆ど嫁が使っている。
では、嫁に運転して貰えばいいじゃない?
は、、はは、今が何時だとおもていやがりますか?
もう午前2時を回ってるんだ、明日もアイツは俺と違って仕事なんだ、あ、今日か。
店の中を一周りしてみたが此処も・・・ハズレか。
「○○○○ カード」
子供向け家庭用ゲームから派生したカードゲーム。
カードゲームとは言うものの最早大人のコレクション品となっており、カード一枚がもう俺の給料をゆうに越える物も多い。
投資の為にカードを購入する人間もいる程だ。
ギリ・・・・ギリ
お恥ずかしい話、俺もその一員である。
ああ、そう、元のゲームにもカードにも興味なんて物は無い。
ぶっちゃけルールすら知らんし。
ただ高いカードが出るのを願って剥くだけ。
それだけだ。
ギギ
コンビニの前でチャリが止まる。
震える足で自動ドアを開け、カードゲームが売っていそうな棚へと、、。
「あ、、。」
あった、棚に吊るされていた新弾の札、ご丁寧にお一人様2パック迄と書かれていた。
パック制限がかかってたから残ってたのか。
ふむ。
まぁ背に腹は変えられん、買えないのより幾百分かはマシだ。
札を手に取りレジに向かう、棚に置かれていた箱を見ると半分位に減ったパックが見える。
この中に数万のカードが、、、ある訳が無い。
俺は会計を済ませパックを受け取ると、折らないように気を付けジャケットのポケットにしまった。
店を出る際に時計を確認すると四時を回っていた、収穫は無いに等しいが、体力も限界だ。
今回の弾もこの2パックで我慢するしかない。
「はぁー」
吐いたため息が白く・・
右からガキンと音がする。
コンビニの駐車場に入って来た車のタイヤの重みにグレーチングが悲鳴を上げた。
ライトが俺を照らす。
気にもしないで俺はチャリンコを置いた場所へと歩く。
帰ったインスタントコーヒーでも淹れて、朝の情報番組でも見ようか。
それとも、家を出る前に見ていたアニメの続きを
ガコン
車どめを越えて車が俺の右腕を潰す。
「あ、、え?
そのまま俺の左半身はガラス張りのコンビニに叩きつけられ、ガラスの壁と、車体にサンドイッチされる。
束の間、バリリという聴いたことのない音と共に割れたガラスが俺に突き刺さり、ぐにゃりと曲がった冊子が俺の脇腹辺りを深く抉った。
ゴン
という音がすると、車体はその場から動かなくなり、ボンネットに張り付いていた俺は店内の床にボトリと落下した。
どうやら壁に引っかかったらしく前輪はゴーっという音をさせたま回転していた。
「・・・・ゲホ」
声が出ない、息の代わりに血が飛び散る。
呼吸も出来なかった。
痛みは一瞬酷かったが今は感じない。
そういう事なんだろう。
まだハッキリしている意識で、クソ野郎の顔でも拝んでやろうかと車を見ようとするが、身体が動かない。
文字通り、指先一つも動かせない。
見えるのは、回転するタイヤ。
まさか、自分がこんな事になるだなんて思っても見なかった。
サイアクだ。
俺の意識はそこで途切れた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ああああああああああ!!!」
?
夢から覚めた感覚。
意識が混濁している。
今のは夢だったのか?
知らない天井。
俺は助かって、病院にでも担ぎ込まれたのだろうか?