表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/60

08 ー魔導戦ー

冗談じゃない。貴族が自らの名を賭けた魔導戦を申し込むというのはつまり、命を賭けるのと同義だ。


…魔導戦とは本来、自らの命を持って魔導力を示し、貴族の矜持を通すという古い慣習である。

時代の流れの中で廃れ、長らく行われていない慣習であるが、王国の法としても定められている。

ー魔導戦を挑む者、自らの名を賭けるものとするー

ー魔導戦を挑まれし者、自らの魔導力を持って矜持を示すべしー


つまり断るための法がない。この法を作った奴は相当の馬鹿であると断言する。

廃れるのも頷けるというものだ。


「ちょっ…!ダメです!だって、こんなフェアじゃない勝負… それに魔導戦って、模擬戦とは違うんですよ!?」

ユキがわーわーと騒いでいる。


ーさて、どうしたもんか? 俺には貴族と違って失う地位も名誉も無い。彼の気がすむ程度にボコられて、適当に敗北宣言すれば終わるだろうか?

「ウィンタエア、これはもはや君が口出しする問題では無い。無能とはいえ、これもこの学園に通う魔法の輩だ。フェアでないというのならさっさと消えておけば良いものを。」

「いや… フェアってそういう意味じゃ…」

反論するユキを黙殺し、こちらを一瞥すると言葉を続ける。

「それに、いい加減うんざりしているのだ。私だけではなくこの学園の全員がな。…なぜ奴のような無能が、我らとともに席を並べているのだ?魔法という神の法を愚弄しているとしか思えん。間引くのがこの王国のためというものだ」


言いたい放題言ってくれる。今更言い返す言葉もないので聞き流す。

これ以上長引いても面倒だし、さっさと…


「いい加減にしてください。」

底冷えするような声が響く。

「黙って聞いていれば勝手なことをぐちぐちと… 貴方がシズクの何を知ってるの?」

…いや、実際に周囲の気温が下がっている。

「口の利き方に気をつけたまえ。君の魔導力は認めているが、身分というものを弁え…」

「黙って」

室内だというのに雪が散らついている。ユキの足元を見るとうっすら霜が降りていた。


ユキを中心に、嵐の如き力の奔流が溢れる。相変わらず視ているだけで呑み込まれそうだ。

…最も、カリダムはそれに気付かない。

ユキ本人でさえ、自らを中心に渦巻くその力に気付いてもいないだろう。


…放っておく訳にもいかないか。

俺はユキの肩にポンと手を置き、耳元に顔を寄せる。

「ユキ、寒いぞ」

そう呟いた瞬間、荒れ狂う力の渦がまるで凪いだように治まる。

「あっ… ごめん… 僕、またスーって…」

ユキは申し訳なさそうに呟き、俺の胸元に身を寄せる。

「いいさ。いつものことだし… それと、喧嘩を売られたのは俺だ」


そう言って俺はカリダムに向き直る。

「お待たせしました。カリダム様。ここは冷えますし… 外に行きましょうか?」

「ふん… そのままウィンタエア君に任せた方が良かったんじゃないか?」

笑みを浮かべて挑発してくるカリダム。

「いえ、売られた喧嘩を女の子に投げるなど男の恥でしょう。それに…」

そこで言葉を切る。

「貴方程度じゃユキに勝てない。いえ、勝負にすらならないと断言しましょう」

「…無能がよく吠える。オーガの威を借るゴブリンといったところか?」

先程の意趣返しのつもりが流されてしまった。すでに負けた気分だ。


密かに敗北感を味わっていると、先を歩くカリダムが足を止める。

「…だが、侮られたままでは私の名誉に差し障る。…ウィンタエア君。この無能を排除したら、私と一戦如何かね?もちろん魔導戦ではない。模擬戦だが」

前言撤回。バッチリ効いているようだ。案外ちょろいなカリダム様。

ユキはもういつもの調子で、人懐っこい笑みを浮かべながら答える。

「あはは、冗談ですよね?シズクも言ってたけど、僕に勝てる訳ないじゃないですか。それに…」

笑みを浮かべたままさらりと毒づき、そのまま一瞥をくれ、当然のように続ける。

「僕に勝てないのに、シズクに勝てるわけありませんよ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ