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07 ーこいつがモテない訳がないー

「…おっと、このような話をしにきたのではない。」

文句を言いたげなユキを気にすることなく、カリダムは本題を切り出した。

「ウィンタエア君、今夜、中級貴族が集うパーティが開かれる。君は下級貴族だが、私の口利きがあれば特別に招待を受けることができるだろう。予定を開けておきなさい。」


…どうやらパーティのお誘いに来たようだ。

断られるとは微塵も思わないのか、参加が決定事項のように一方的に告げる。


「…えー、えっと、誘っていただけるのは大変ありがたいんですけど、そのー、今日はちょっと都合が…」

ユキは乗り気ではないのか、言葉を選びつつ辞退する。

「…本来であれば下級貴族風情が参加できるものではない。それをこの私が特別に招待してやろうというのだぞ?…上位の貴族と縁を結ぶことができるのだ。君の家にとっても悪い話ではないだろう。」

食い下がるカリダム。あくまで尊大な態度を崩さないが、中級貴族の立場からすると、下級貴族をパーティに招待した挙句断られるなどプライドが許さないのだろう。


「都合が悪いとは一体何事かね?私の誘いを断るなど、余程の大事なのだろうね。」

まさか断られると思っていなかったようで、苛立ちを隠そうともせずユキに詰め寄る。


…彼はどれほど自分を高く見積もっているのであろうか?最も、貴族らしいといえばらしいのだろう。

少なくとも俺のような無能とは家柄も能力も比べ物にならないほど高いので特に何も思わない。

「えっと、今日はその…」

ユキが逡巡しつつ返答を探す。

…なぜこちらをチラチラ見ているのだろう。面倒ごとに巻き込まれそうな気がするからやめて欲しい。


「どうしたんだ?はっきり言いたまえ。」

「シズクのレポート終わらせなきゃいけないんですよ。それに、明日までの課題も3つあるから…。ほら王国史に実用魔法論、あと錬金術実習の素材もまとめないとだし」

レポートだけじゃなくて他の課題もあったのか。そして当然のようにやってないと思われている。

まあ、実際やっていないので何もいえないのだが。


…違う。そうじゃない。なぜ断る理由が俺絡みなんだ。これじゃ否応なく巻き込まれてしまうじゃないか。

「…き、君はまさか、私よりもその平民を優先するというのか?このフェーゴ・ルーア・アル・カリダムを差し置いて… 平民の無能を?」

あまりのショックからか、拳が震えている。

…いや、あの震えはショックではなく怒りからだろうか?

「いやー、だって放っておいたら絶対やらないだろうし… シズクってばそもそも課題があることすら忘れてるでしょ?僕がついてないとやらないもんねぇ」

微妙にズレた返答をするユキ。


「…聞いて損したな。下級貴族など、大人しく私に従っていれば良いのだ!」

カリダムは声を荒げるとユキの肩を掴む。

身長差もあり、半ば抑え込むような形だ。

「ちょっ… カリダム様!痛っ…」

カリダムの勢いに押されたのか、ユキは怯えた瞳を忙しなく動かし…俺と目が合った。


俺は内心溜息をつく。昔からあの目には弱いんだ。

実力を発揮すれば、あの程度の相手なんとでもなるだろうに… あの時だって。


「さあ、大人しく私と来い!君にとってもそれが… ぐあっ!?」

カリダムは突如、何かに引っ張られるように倒れ込んだ。

ユキから手を離したことを確認すると、俺は彼を諭すように話しかける。

「…カリダム様、その辺にしておいた方が宜しいかと存じます。相手が格下とはいえ、女性に手をあげるのは貴族の矜持に悖るのでは?」

ああ、やめておけばいいのについ口に出してしまった。

あのまま空気になっていれば、面倒事は避けられたかもしれないのに。


…だが、これから起こるであろう面倒事も、あの輝くような笑顔だけでお釣りが来るだろう。そう思わなければやってられない。

「ぐっ…なんだ?今、何かに引かれたような… それに今、君か?君が私の行いに意見したのか?…平民であり、奴隷以下の無能である貴様が…!」

やっちまった。前半はともかく、後半は余計だったかもしれない。

とはいえ今更無かったことにもできそうにない。仕方ないな…。

「…はい。あー、こほん… 引き際を見誤ることほど情けないものはありませんよ?嫉妬に狂う男は見苦しいものです」


ボンッ!!!

突如、なんの前触れも無く座っていた机が発火し、炭と化した。顔を上げると、カリダムが射殺さんばかりに睨みつけ、俺を…正しくは机のあった場所を指差している。


いや、前触れはあった。誰に気付けずとも俺には分かっていた。彼が魔導力3程度の発火魔法を使う事は。

その証拠に、俺は書きかけのレポートを掲げ、机と共に炭化することを防いだのだ。…机に突っ込んでいた教科書類は灰と化したが仕方ない。どうせ読まないからいいだろう。


「シズク!だいじょう…ぶ、みたいだね。よかった…」

ユキが慌ててカリダムの元を離れ、こちらに駆け寄る。俺の無事を確認すると、怒りを露わにしてカリダムを睨みつける。

「…ちょっとカリダム様!講堂内で許可なく魔導力3以上の攻撃魔法を使うのは禁止されている筈です!」

抗議の声を無視し、カリダムは今日初めて、俺を真っ直ぐ見つめていた。

「…ふむ、こういう時、平民は確かこう言うのだったな?…表に出なさい。貴様の無礼、その命を持って償ってもらおう」

「随分と平民の文化に造詣が深いようで…。断ると言ったら?」


「君は断れんさ。…この私、フェーゴ・ルーア・アル・カリダムの名を賭けて、君に魔導戦を申し込む」

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