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58 ー宿屋『マルク』ー

「さてと… とりあえず『マルク』に向かうか」

ウィンタエア邸を後にしたシズクだが、直接標的の元に向かうことはしないし、セッターも『仕事場』がどこか伝えていない。


シズクのもう一つの… いや、本来の仕事である「暗殺」

この国に存在する、表に出ることはない仕事の一つだが、無秩序には無秩序なりにルールというものがある。


十数年程前、戦争の終結と政変が重なった折、自らの地位を盤石のものとするため貴族間での暗殺が横行したらしい。

もはや家族すらも信用できないー そんな疑心暗鬼に駆られた貴族達は身を守るためという大義名分を振りかざし、敵対、あるいは中立ー 時には味方であった筈の貴族すらも暗殺の対象としたらしい。

貴族の減少は国力の減少そのものだ。…そんな現状を危惧した王族の1人が苦肉の策を講じたらしい。

すなわち『裏ギルド』の創設である。

ギルドとはいうが、冒険者ギルドや工房ギルド等のように国が運営しているわけではない。あくまで非合法の裏ギルドである。だが、国が関与していないだけで中身は厳格に管理された立派なギルドだ。最も、所属条件は他のギルドとは一線を画す厳しいものだが。

通常のギルドでは依頼すらできない非合法な仕事を一元に管理し、適切に振り分ける。当然その中には、暗殺依頼も含まれている。そして、ギルド会員、依頼人について一定のルールを設け、遵守させる。

王族の力を持って創設されたそのギルドは、ルールに背いた会員… そしてルールに背く依頼を行った貴族を排除していき、無秩序の中に秩序を創り出した…らしい。

…さっきから「らしい」が多いのは、シズクにとってはギルドの成り立ちなどなんの意味もない事だからだ。

重要なのは『裏ギルド』が存在し、ギルドを通して依頼を受け、死にたくなければギルドのルールに従えということだけだ。


そして今、シズクはそのルールに従ってギルドに向かっている。

訪れたのは王国の中央区。

様々な店舗、施設が立ち並ぶこの地区は、昼夜問わず点灯する街灯に照らされ、深夜にも関わらずそれなりの賑わいを見せている。

…この時間だと、所謂夜の店くらいしか開いていない。シズクも情報収集がてらその手の店に入ることはあるが、翌日どんなに念入りに身体を清めても必ずユキにバレるので、最近はめっきり訪れる回数が減った。


雑踏の中を極力目立たない様に進み、ある建物の前で立ち止まる。

その建物は周囲と比較しても一際高く、立派な構えをした入り口には深夜にも関わらず警備員が常駐している。

見た目からして高級感溢れるそこは、他国の重鎮が滞在することもある、マルクヴァニア王国最大の宿屋『マルク』である。

多少仕立ての良い外套を羽織っているとはいえ、上級貴族が日常的に出入りする『マルク』では、シズクは明らかに場違いである。

だが、場違いさを感じさせない堂々とした立居振る舞いで門を潜る。…今のシズクは漆黒の外套を羽織り、フードを目深に被ったどう見ても不審者といった出立ちだが、入り口の警備員に止められることはなかった。


門を潜ったシズクは真っ直ぐ受付に向かう。ギルド内に入るために必要な手続きを済ませなければならないのだ。

…そして、この手順が中々に面倒臭い。公にできない仕事を扱う場であるため、細心の注意を払わなければならないことはわかるが、いい加減顔パスにしてくれても良いだろう。まあ、顔パスも何もフードを被っているので顔は見えないが。


「いらっしゃいませ。宿屋『マルク』へようこそ。ご休憩ですか?それともご宿泊で?」

深夜にも関わらず直立不動でフロントに立つスタッフが、柔らかな声でシズクに問う。

問いかけられたシズクは、黙ってセッターから受け取った金貨をフロントに置いた。金貨には、現在マルクヴァニア王国で流通しているものと異なる図柄が描かれており、金としてはともかく金銭としての価値はない。

「できるだけ静かな、地下の一番奥にある部屋を頼む」

金貨を差し出したシズクは休憩か宿泊かの問いには答えず、部屋だけを指定する。

フロントマンは視線をシズクに合わせたまま、差し出された金銭としての価値を持たない金貨に手を添える。

そして、シズクの目にすら微かにしか映らないほど自然に魔法を発動する。金貨が偽造された物ではないか確かめているのだ。もちろん、金銭としての価値はなくとも偽金貨というわけではない。いや、ある意味本物の金貨よりも偽造が難しい逸品ではあるのだが。


「申し訳ございません。地下のお部屋は現在ご案内しておりません」

一瞬で金貨のチェックを終えると、フロントマンが金貨を俺に返してくる。

…別に帰れと言われている訳ではない。これも必要な手順の一環なのだ。それをわかっているシズクはさらに続ける。


「それなら、最上階の中央にある部屋を。誰も通さないでくれ」

最上階の中央は『マルク』で最も格式高い部屋だ。王城の一室と比べても見劣りしないと言われるその部屋は、1泊するだけでも一般的な平民の稼ぎ10年分が軽く吹き飛ぶ。勿論、学園帰りの買い食いにすら悩むシズクが泊まれる訳もない。


「かしこまりました。それでは、ご案内致します」

…が、フロントマンはその答えに疑問を持つことなく一礼すると、手元のベルを揺する。

振られたベルからはなんの音も響かない。だが、ベルボーイが1人、優雅だが俊敏な動きでこちらに向かってくるのが見える。

ベルには『音響』魔法が掛けられており、特定の人物のみにその音を響かせるのだ。


(実際泊まりに来た訳じゃないけど、一回くらいは入ってみたいな)

そんな事を思いつつ、シズクは最後のサインを行う。指でフロント机の表面を、音がしないよう2回トントンと叩くのだ。

これらのやり取りのどこが欠けても、ギルドに案内される事はない。面倒ではあるが、それだけ管理が行き届いているのだと思うとしよう。

「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」

ベルボーイが一礼し、歩き出す。

後に続いて進み、とある部屋の前で立ち止まる。残念ながら最上階ではない。

扉には「従業員室」と書かれており、丁度中から従業員が出てくるところであった。

「っと、失礼致しました。どうぞ」

俺達に気づくと、中に入りやすいよう扉を押さえる。

奥には従業員用の仮眠室や休憩所があるようだ。こちらからも数人の従業員が確認できる。


「ああ、ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。この方は『あちら』なので」

俺の案内をしていたベルボーイが小声で告げると、従業員はこちらに目を向けてくる。

「えっ、となるとギルドの…」

余計な事を口走りそうになった従業員を、ベルボーイがひと睨みして黙らせる。

その視線を受けた従業員は慌てて口をつぐみ、そそくさといった様子で去っていった。


「…アレは新人か?宿に居るのは俺のような人間だけではないだろう」

不用意にギルドの存在を口に出した従業員に対して俺が苦言を呈すと、ベルボーイが申し訳なさそうに頭を下げる。

「仰る通りにございます。教育が行き届いておらず申し訳ございません。後程、私の方から言い含めておきますので…」

「ああ。そうした方がいい。たまたま通りがかった一般人に余計な事を知られて困るのはあんた方だろう?」

俺なりの意見を述べ、従業員室の扉に向き直る。

「さあ、申し訳ないが俺の方もあまり時間がない。手早く済ませよう」

「かしこまりました。それでは…」

ベルボーイが扉の前に進み出て、懐から薄い金属板を取り出した。

それを扉の鍵穴に挿し込む。どう見ても入る大きさではないが、鍵穴の方がぐにゃりと歪み、金属板を受け入れた。


カチリという音と同時に、扉から微かに魔力の気配を感じる。

きちんと視た事はないので詳しくは知らないが、扉自体が特殊な魔導具らしく、金属板を差し込む事で作動するようだ。


ギィィー


重そうな音を響かせ、ベルボーイが扉を開く。

「大変お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

先程チラリと見えた従業員室はどこにも存在しない。代わりに薄暗がりと、地階へと降る階段が現れていた。

「どうも」

俺はベルボーイに1枚の銀貨を渡す。ー受付で出した金貨とは違い、ちゃんと外でも使用できる金銭だ。心付け(チップ)としては大盤振る舞いだが、経験上こういうところでケチるとろくな事がない。

扉を潜り、階段を降り始めると背後で扉が閉まる。肩越しに振り返ると、扉があったはずの場所にはすでに何もなく、ただレンガ作りの壁が聳えるだけであった。


長い階段を降りると入口と同じような扉に辿り着く。だいぶ面倒な手順を踏んだが、ここを通ればギルドだ。

だが、扉には鍵穴もドアノブも存在しない。一見するとどう開くか不明だが…

シズクは扉横の壁に近寄ると、ひとつだけ不自然に存在する細い穴の空いたレンガを見つける。

「…毎回思うけど、入場料に1枚は高すぎるよなぁ」

ボソリと不満の声を上げつつ、懐から金貨を取り出す。…先程受付で出したものだ。

それをレンガのスリットに差し入れる。


ーチャリン


金貨が落ちる澄んだ音が響く。


ガコンッー


扉から重い音が響き、ゆっくりと開いていく。

面倒な手順を踏んで中に入るが、内部は冒険者ギルドとたいして変わらない。それなりの広さを持つフロアにいくつかのテーブルが置かれ、奥にはカウンターが設置されている。…異なるのは、ギルド内の雰囲気くらいだ。

冒険者ギルドは喧騒や笑い声が絶えず、良くも悪くも賑やかだ。

しかしこのギルドでは、人はいても物音ひとつ聞こえない。扱う仕事が仕事なだけに、可能な限り情報が漏れないように注意を払っているのだ。それぞれのテーブルに掛けられた『静音』魔法、一人一人が使用している『認識阻害』魔法やそれに準ずる機能を持つ魔導具の使用などがそれに当たる。


…最も、魔法を使えないシズクが出来ることといえばフードを目深に被る事くらいだが。魔力を使えば『静音』魔法や『認識阻害』魔法を模倣することもできるが、あくまで模倣であり似て非なるものだ。出来る限り目立たないためにもギルド内で魔力を操る事はしたくない。

「あら? 『黒猫』さんじゃないですか。これからお仕事?」

…カウンターに向かう途中で声を掛けられる。振り返るとギルド職員の女性が立っており、親し気な笑顔を向けている。ーちなみにギルド職員は『認識阻害』魔法等は使用していない。


「ええ、まあ…」

曖昧に返事をしつつ、周囲にそれとなく注意を向ける。

…数人から視線を感じるな。だが、俺から注意を向けられた事を悟ったのか、視線の気配が瞬時に霧散する。

「よう、黒いの。久しぶりじゃないか」

また声を掛けられる。今度は職員じゃなくギルド会員の1人だ。

歴戦の戦士という風貌で、俺よりも頭2つ分ほど背が高い。これまた親し気な笑みを浮かべているが、目に宿る光と佇まいから、どんな状況にも瞬時に対応してみせると言わんばかりの油断のなさを感じる。

俺とは違い顔を隠すような装備をしていないが、全身に纏う魔力を視るに、『認識阻害』の魔法を使っているのだろう。もっとも、シズクに対しては他の魔法と同様、『認識阻害』魔法は効かないが。


「どうも… レイドさんですよね?お久しぶりです」

『認識阻害』が効いているように見せかけるため、若干言葉を濁しておく。

それからも職員、利用者問わず数人に声を掛けられるが、全て曖昧に返事をしておく。

…妙だな。目立たないために魔力を使わずフードを被っているのに、なぜ毎回話しかけられるんだ?

密かに首を傾げるが、魔法も掛かっていないフードで顔を隠し、特徴的な黒い外套、さらにはギルド内では珍しい、年若い少年だ(顔は見えないが)。目立つなという方が難しいだろう。実際、シズクはギルド内でちょっとした人気者なのだ。


(まあいい。さっさと用事を済ませて仕事をしよう)

なぜか話しかけてくる職員や会員をあしらい、ギルド奥のカウンターに向かう。

「いい夜ね黒猫ちゃん。今日はどのようなご用?」

受付に立つと、ギルド職員の女性がにこやかに話しかけてくる。

彼女はカルネ。…本名かは知らないが。ギルド職員は会員とは違い『認識阻害』魔法などを使っていないためそのまま名前を呼んでも問題はない。


ちなみに先程から黒猫だの黒いのだのと呼ばれているが、これは黒尽くめの格好と身振りから付けられたあだ名だ。

元々このギルドでは本名を名乗るような事はせず、本名とは別に偽名を登録し、ギルド内ではその偽名を用いて行動することができるのだが…

「ああ、いい夜だなカルネさん… 今日は仕事だ。俺宛の依頼がある。あと、いい加減黒猫はやめてくれ。名前はちゃんと登録しているだろ」


ちなみにシズクは『レイン』という名前でギルドに登録している。黒猫だの黒いのだの呼ばれ続けているせいでシズクも半ば忘れているが。


「うふふ、ごめんなさいね。えーと… あら、確かに黒猫ちゃん宛に依頼があるわね?お使い?」

カルネさんが手元を見て、シズク宛の依頼がある事を確認する。

…どうでもいいが、なぜ子供扱いされているんだろう。確かに年は若いが、背丈はそこまで低くないし子供に見られる要素はないと思うんだが。

「多分その依頼だ。見せてくれ。…あと、何度も言っているがガキ扱いはやめろ」

魔導力がなく、幼少期から疎まれて育った俺を子供扱いする人間は今まで居なかった事もあり、このギルドに身を置いてから妙に調子が狂う。

…ちなみに子供扱いや黒猫というあだ名を付けられた理由は、スレた空気を纏い人を遠ざけようとするシズクの立居振る舞いが猫っぽく、背伸びした子供のように見えるためなのだが本人は知る由もない。


「それじゃ手続きを… あ、黒猫ちゃんのギルドパスお願いね」

ギルドパスとは、ギルドの会員に発行される会員証のようなものだ。会員証とはいっても、本体は一人一人形の異なる特殊な魔法陣であり、それを物品に刻み込むことでギルドパスとして扱われる。何に刻むかは持ち主によってまちまちだが、一見それと分からない物に刻むのが通例となっている。

依頼の閲覧にはこのギルドパスが必須で、特に個人に宛てられた依頼はこのパスがなければ職員ですら内容を確認する事はできない。


「ああ… それなんだが、俺のギルドパスは先日焼け… いや、溶けちまったんだ」

俺のギルドパスはユキに貰ったペンだったのだが、フェーゴとの一件で溶け落ちてしまった。

そう告げると、カルネさんが困った子供を見るような目で頬に手を当てる。

「あらまあ… 再発行は大変だから無くさないようにって言ったでしょう?」

聞き分けのない子供に言い含めるような口調に若干イラッとするが、仕方なかったとはいえギルドパスを無くしたのは俺だ。

「わかってるよ。クソ… とにかく再発行を頼みたい」

「はいはい、今度は無くさないでね。再発行は… 5枚ね」

しまった、そうか… ギルドパスの再発行には金が掛かるんだった。

手数料は金貨5枚だ。それも普通の金貨ではない。このギルド内でのみ使用することができる特殊な金貨だ。

今日は依頼を受けるだけの予定だったので金貨は1枚しか持ってきていなかった。その1枚もさっきギルドに入る時使ってしまったので、つまりシズクは無一文だ。


ややこしいのでギルドコインと呼ばれるそれは、国で使われている金、銀、銅と存在する通常の硬貨とは異なり、金貨しか存在せず裏ギルドでしか通用しない。さらにこのギルドコインは「信用に対して」支払われる。故に物価などについても外の認識は当てにならず、外の硬貨を両替することもできない。

ただし、外の硬貨“に”両替することは可能で、その割合(レート)はコイン1枚につき金貨10枚…つまり大金貨1枚である。平民であれば普通の金貨1枚もあれば1年以上生活に困らず、大金貨など貴族くらいしかお目にかからない。本来、コインを何枚も所持するシズクが困窮する事もないはずだが、なんとなく換金する気にならずコインは貯まっていく一方であった。


ーしかし、今持っていないものを使う事はできない。

「あー… すまない。今は手持ちがないんだ。ツケとかは…」

「コインのツケができない事は黒猫ちゃんも知っているでしょう?ギルドの中では、コインだけが『信用』なのよ」

一縷の望みに賭けてツケ払いを提案するが断られてしまう。

「まあ、だよな… 仕方ない、一度取りに…」

「で、では彼の代わりに私が、だ、出そう」

踵を返した所に、震えた声が届く。


「あらドクトル。珍しいですね?工房から出てくるなんて…」

いつのまにかカウンターの前に立っていた人物を見て、カルネが少し驚いた顔で尋ねた。

「あ、ああ。か、彼が来ていると、み、耳にして、ね?」

ドクトルと呼ばれた人物はケースに収められたギルドコインを神経質な手付きで取り出し、キッチリとカウンターに積み上げた。

ガリガリの痩躯に長身だがそれを感じさせない猫背、ギョロリとした目付きと片眼鏡(モノクル)、引き攣ったような笑みが不気味さを増長させている。

「ドクトル、申し出は有難いが施しを受ける気はない。大人しく取りに戻る」

このギルド内では、出来る限り借りは作りたくない。

「ヒヒッ、で、では、き、君の時間を、5枚でか、買おう。どうせギルドパスの再発行にはじ、時間がかかる。見せたい物も、あ、あるんだ」

丁重に断るが、ドクトルに食い下がられてしまった。

「あらあら黒猫ちゃん。大人に甘えることも大事よ?」

カルネさんがカウンターに積み上げられたコインを回収し、俺を嗜める。


「だから子供扱いを… いや、もういい。あー、すまないドクトル。恩に着る」

俺としても時間があるわけではない。申し出自体は有難いのでここは甘えておくとしよう。

「き、気にしなくていい。さ、さあ、工房に行こうじゃないか。“アレ”も待っている。カ、カルネ、再発行が終わったら呼びたまえ」

「はーい。それじゃあね黒猫ちゃん。また後で」

ウインクして俺たちを送り出すカルネに軽く手を振り、ドクトルの工房に向けて歩き出した。


「…で、俺に見せたい物ってなんだ?」

歩きながらドクトルに問う。

「ヒヒッ、き、きっと君も驚くよ?わ、我々が今まで見た事もない物だ。こ、ここの連中はど、どいつもこいつもあ、アレの素晴らしさを理解できない馬鹿共だが、君はきっと気にいる筈だ」

吃りながら話すドクトルは実に楽しそうだ。


ードクトル

このギルドでは珍しくはないが本名は不明。そもそもドクトル自身が名前は捨てたと明言している。


こう見えて… いや、見るからに変人だが、それは内面も同様だ。

彼を表す言葉は『狂人』を置いて他にはないだろう。

『認識阻害』の魔法を使っていない彼は一見するとギルド職員だが、実際は単なる1会員に過ぎない。


戦闘能力は皆無だが非常に明晰な頭脳を持ち、その叡智をもって裏ギルドに多大な貢献を果たしたらしい。その見返りに帰る家も身分も存在しないドクトルはギルドの一区画を自らの研究室として明け渡す事を要求。以来住み着き、様々な武具や道具を作り出して生計を立てている。


シズクともそれなりに長い付き合いだ。魔力が扱える事も話しており、用心棒としてドクトルの『趣味』によく付き合わされている。

まあ、色々と便宜を図ってもらっているため文句は無いが。

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