53 ーユキの暇潰しー
とはいえユキのやる気が無いのなら3対2… 流石に可哀想になるな。
まあ、恨むなら俺のチームメイトになった彼らと同じように、ユキと同じチームになった自分たちのクジ運を恨むんだな。
などと黒い感情を抱いているシズク。
…だが、ユキは俺と違って公平な勝負を好む。
激戦を繰り広げている彼らに目を向けると、相手チームの1人だけ一切の魔法が使えないようだ。それも1分程度の間隔で、魔法が使えない奴が切り替わっている。
「おっと、次は私ですか!一旦下がりますよ!」
急に魔法が使えなくなった事は驚くことでも無いらしい。流れるような動きで1人が下がり、魔法が使えるようになったらしいもう1人が入れ替わりで前に出る。
魔力を視ていないので詳しいことはわからないが、どうやらユキが何かしているらしい。
「おい、あの様子じゃまだかかりそうだぞ。お前は戦わないのか?」
勝手に帰ったら恨まれそうだと思いユキに聞くが、戦いに参加する気はなさそうだ。
「えー… だって僕が参加するとフェアじゃないじゃん。僕の攻撃は掠っただけでも致命傷だし、向こうの攻撃は全員で全力出しても擦り傷ひとつ付けられないでしょ?だからこうやって…」
そう言いながらユキがくるりと指を回す。
「おっ… もう私の番ですか! ウィンタエア君!少し早いのでは!?」
「ごめーん!」
魔法が使えなくなった貴族の1人がユキに対して不満を漏らすと、ユキはそちらに向き直り、手を合わせて形ばかりの謝罪を行う。
「…とまあ、こんな感じ。僕が参加しない代わりに、一定時間ごとに1人魔法を封じてるんだよ。発動するはずの魔法を読み取って、その魔法の制御を魔導力に物言わせて強引に奪い取っちゃうんだ!」
得意げに胸を逸らしているせいで軽く見えるが、魔法を使えない俺でもそれがどんなに難しい事か分かる。
…ユキは、俺が魔力を操作して魔法を打ち消す時と同じような事を行なっているのだ。俺の場合は魔法の構築に使われた魔力を支配する事で魔法自体を霧散させている。
魔力が見えない者が、俺が魔力を用いてやっと行える技を苦もなく実戦で使う。理論を説明されても簡単にできるものではない。大魔法師と呼ばれる強者達でさえ、同じ事ができる者はそう居ないだろう。
「ふーん… なんでもいいけど時間がかかるなら先に帰るぞ。昼飯も食えなかったから腹が減った」
「えー… じゃあ僕も帰る」
ユキはそう言うや否や、パチンと指を鳴らす。
一瞬でエリア内に巨大な氷柱が出現し、一拍置いてエリアを覆っていた結界が解除される。
相手チームの全員が戦闘不能になったと言う事だ。どうやら一瞬で全身を凍らされ、致命傷判定を受けたらしい。
転送されてエリア外で座り込む3人と、一瞬前まで魔法を交えていた相手が巨大な氷柱と入れ替わった2人が、口々にユキ対し抗議の声を上げる。
「ウィンタエア君… 自分が戦うのはフェアじゃないからと言ったのは君だったと思うのだが?」
「これじゃあ訓練にならないではないか」
「このような勝ち方では我が家名にも傷が付く。再戦を要求したい」
ユキはそんな彼らに手を合わせ、ペコペコと頭を下げる。
「ごめんなさい!でも、あの調子じゃいつまで掛かるか分からなかったし…」
そんな様子に毒気を抜かれたのか、相手の1人が頬を掻きつつ応じる。
「む… まあ、あの攻撃を避けられないようではどの道私達の勝ちは無かった。君の相手に選ばれただけでも光栄だったと思うとしよう」
チームは実力が近い者同士が組む事になる。ユキの相手に選ばれただけでも、そしてユキのチームに組み込まれただけでも相応の実力があったということだ。
「いやー、まあ、あの程度避けたところでお話にすらならないと思いますけどね?そもそも… あいたっ!?」
余計な事を言い出したユキの頭を小突く。
ここにいるのは揃いも揃ってユキよりも遥か上の権力を持つ貴族達だ。たとえ実力では足元にも及ばないとしても、無闇に喧嘩を売っていいものではない。
とはいえ、ユキの無礼にも慣れたものと言わんばかりの彼らは特に気にした風もない。むしろユキの頭を小突いた俺に対して敵意を向けているようだ。何故だ。
…と思ったが、よく考えればユキも貴族だ。平民の俺が気安く頭を小突けば良い気はしないだろう。
ここは退散するに限るな。
「ユキ、俺は先に校門まで行ってるぞ。帰るならさっさと来いよ」
そういうと、ユキの返事も待たずさっさと歩き出す。後ろからユキの声が聞こえるが無視しよう。
…急に背中が重くなる。が、きっと気のせいだろう。




