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52 ー勝利ー

「うぐっ… 痛てて」

戦闘の後、身体についた泥を払っていると、シズクの背後でノビていた2人が目を覚ます。

相手の『爆破』魔法は致命傷には至らなかったが、衝撃により今の今まで仲良く気絶していたようだ。


「お、起きたか。おはようさん」

シズクが声を掛けると、2人は顔を見合わせ怪訝な表情を浮かべる。

「お前… 模擬戦はどうなった?」

状況が掴めず、1人がシズクに問いかける。

「とっくに終わったぞ。ほら、エリア区切ってた結界も解けてるだろ」

結界が解け、既になんの痕跡も残っていない辺縁を指差しながら答える。

「チッ… 負けちまったか。ここ最近負けが込んでて実技の点が足りねぇし、勝ちたかったんだがな」

「は?いや、勝ったぞ」


舌打ちをするチームメイトに対し、シズクが間違いを訂正する。

「何言ってんだ。魔法を使える俺たちが居ないのにどうやって勝つんだよ。頭でも打ったか?」

「打ってねーよ。全身丸焼きにされそうだっただけだ。お前らに」

皮肉を返すが通じなかったようだ。皮肉どころか直球だったはずだが。

「まあいい。お前みたいな無能と同じチームじゃなけりゃ勝てるんだ。次勝てば取り返せる」

…違うな。皮肉が通じてないんじゃなくて気にも止めていないだけだった。


「だから勝ったっつってんのに…」

まあいい。どの道、後で学生証の実技の得点欄を見れば勝ったことに気付くだろう。

今更感謝されようとも思っていないし、さっさと戻るとしよう。

模擬戦などの実習系講義は、勝負が終わった者から各自帰宅して良いことになっている。

闘技場を見渡すといつのまにか結構な数の模擬戦が終わっていたらしく、結界で区切られたエリアも疎らとなっている。

そのうちの一つに向かって歩いていくと、エリアの内側に立つ人影が振り返る。

「あ!シズクー!」

…ユキが結界の内から手を振っている。

結構な距離があったと思うんだが、なぜ気付かれたんだろう。探知魔法の類も結界の外には効果が無いはずなんだが。

エリア内では未だ戦闘が続いている。

…が、ユキはそちらに一瞥もくれず、俺の元に歩み寄ってきた。

どうせいつも通り、戦闘には一切手を出さず傍観していたんだろう。汚れ一つ付いていない服を見てそう判断する。


…まあ、仮に戦闘に参加していたとしても、ユキの服に汚れを付ける程戦える奴が何人いるかって話だが。

「あれ?シズクの所はもう終わったの?」

結界越しに話しかけてくるユキ。

「ああ、俺はもう帰るぞ」

そう言い残して踵を返そうとするが、慌てた様子のユキに呼び止められる。

「ちょっ…!?待ってよシズク! 僕シズクの模擬戦が終わるまでの暇つぶしでここに居ただけなのに!」

暇つぶしって… その言い方はチームメイトと相手に失礼じゃないか?


結界の中に目を向けると、どちらも前衛2人に後衛1人… まあ、その後衛はユキなのだが。

最も、彼らにとって前衛も後衛もさしたる違いは無い。

なんせ結界内にいるのは全員貴族。それもユキの実力に合わせた中級・上級貴族達だ。平民が時間をかけてやっと構築する程度の魔法など、彼らは息をするのと同じくらい簡単に放つ。

俺が全身を焼かれかけた『熱風』魔法など、彼らが常時展開する結界魔法に阻まれ小さな火傷すらつける事はできないだろう。

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