50 ー一撃ー
「…お前、結構エゲツないことするな」
目の前で行われた所業に対し、呆れと怯えの入り混じった表情を浮かべる生徒。
そんな彼に対し、シズクは肩を軽く竦める。
「そう言うなよ。必死なだけだ」
「ハッ! どうだかな。…さっき、間違いなく俺を殺れただろ。なんでわざわざアイツを狙った?」
シズクの目を睨み、先程の不可解な行動を問いただす。
「…ナイフ一本じゃアンタを倒せるかどうか不安だったからな。確実に倒せる方を先に狙っただけだ」
シズクのもっともらしい言い分を聞くが、納得はしていないようだ。
「…そうかよ。俺には魔法師が憎くて仕方ないとでも言いたげに見えたが… ま、どうでもいいわ」
担いだ斧を一振りして、再び構え直す。
「んで、アイツ倒したはいいがどうすんだ?今度は武器がねぇぞ」
致命傷の要因となったナイフは、彼がエリア外に強制転移された際、一緒に弾き出されてしまったようだ。
「あー…」
何も握っていない右手をプラプラと振り、仕方なさそうに頭を掻く。
その姿を見て、もはや打つ手なしと取ったのか、ニヤリと笑みを浮かべる生徒。
「いや、正直驚いたわ。魔法は使えなくてもそこそこ強かったんだな。お前」
勝利を確信したのか、余裕の表情でシズクに話しかける。
「そうだなぁ… 別に負けてもいいんだが、ここまで来たら…」
一方は自信に満ちた顔を、もう一方は散歩にでも出かけるような気の抜けた顔をしている。共通しているのは、両者ともに自分が敗北するとは露ほども考えていないことだろう。
「じゃあ、始めようぜ。素手でどこまでできるか見せてみろよ」
武器も持たない相手に負ける訳がない。だが、武器がなくとも魔法による一発逆転は十分に考えられるので、油断などしないだろう。
しかし、それはあくまで相手が魔法師であればの話だ。自分と対峙するのは無能… 一切の魔導力を持たず、魔法を全く使えない。それを知っているからこそ、武器の有無は絶対的なアドバンテージだ。敗北の可能性は万に一つも無い。
そう、相手がどんな手段を用いようと負ける事はない。万全の体勢で迎え撃ち、返り討ちにするだけだ。
「ーは?」
数瞬の後、腹部に走る凄まじい衝撃と共に、それが誤算だったと思い知った。
痛みは一切無い。感じるのは衝撃だけだ。だがそれこそが、自らが避けようの無い致命傷を喰らった証であった。




