49 ー1人目ー
足首から先を使い身体を跳ね上げると、僅かに下がった相手の肩を踏み台に空中へ飛び上がり大きく振りかぶる。
そしてー
「…え?」
急に飛び上がったシズクに対し、『炎弾』を発動しようとしたその生徒は呆けたような表情を浮かべて固まる。
身体に走った衝撃と共に腹部に感じる熱。
視線を下げ、自らの腹部を見下ろすとそこには… 折れかけのナイフが深々と突き刺さっていた。
「いっ…! あがっ…!?」
直後、訪れた強烈な痛みに耐えかねて膝をつく。
致命傷であれば、闘技場全体に張られた結界によりダメージが無効化され、エリアの外に弾き出されるはず。つまりこの傷では致命傷に至らなかったという事だ。
しかし、致命傷ではないという事と、戦闘を継続できるかという事は別の問題だ。
蹲ったまま腹部のナイフを引き抜こうと柄を握る。自らの血で滑り、うまく掴むことができない。
苦心していると、前方に何かの気配を感じる。咄嗟に頭を上げるとー
ガコッ!!
いつの間にか目の前に迫っていたシズクに、思い切り顔を蹴り上げられる。
悲鳴すら上げられず後ろに倒れ込み、後頭部を強打する。一瞬遅れて、鼻血が噴水のように溢れ出す。
「いっ… ひぃ…! だ、だずげ」
ボグッ…!
腹部を蹴り上げられ、鈍い音が身体の中で反響する。
…が、痛みは無い。
今の蹴りでナイフを押し込まれ、完全に致命傷だと判断されたようだ。
闘技場の結界と武器に張られた結界が反応して致命傷を打ち消し、エリア外に強制転移させられる。
「はっ…!? あ…」
腹部に視線を落とし、手のひらで撫で回す。そこにはまるで初めから何もなかったかのように、傷もナイフも綺麗さっぱり消えていた。




