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48 ー牽制ー

「オラァ!」

豪快な雄叫びと共に、負けず劣らず豪快な一撃を大地に叩きつける。

ゼリーによる付与魔法はとっくに解除されているとはいえ、当たれば致命となる事に変わりはない。…最初から要らなかったんじゃないか?

次々に振るわれる斧を危なげもなく回避する。中々の威力、しかし歴戦の魔物すら単体で撃破するシズクにとっては、魔力を使っていなかったとしても児戯に等しい攻撃だ。


自分が相手しているのがそんな化け物とはつゆ知らず、攻撃を余裕の表情で躱し続けるシズクに苛立ちを覚える。

「クソ当たらねえ… おい!アイツも満身創痍だ!威力はいらねえからとにかく撃て!」

斧を振るいながら、背後で攻撃魔法の構築をしているチームメイトに声をかける。

彼の魔導力は2。平民にしては高く、増幅器を用いれば攻撃魔法を連発することも難しくはない。構築していた範囲攻撃魔法を取り消し、手数を重視した魔法の構築を始めた。


「…よし、できたぞ!『炎弾』!」

手のひらと同じ程度の炎の玉を作り出し、シズクに向かって撃ち出す。威力ではなく速度を重視した一撃であり、当たっても致命傷には至らないだろうが、あくまで目的は牽制だ。

事実、魔法を躱したシズクは僅かに体勢を崩す。振り抜かれる斧に対し、ほんの少し反応が遅れた。

「やべっ… うっぐっ!?」

回避するには遅すぎた。咄嗟に斧と身体の間にナイフを差し込み受け止める。

だが、片腕しか使えない上に体勢も万全ではない。攻撃と反対側に跳ぶ事で可能な限り衝撃を逃すが、それでも足りない。

シズクは大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

斧の直撃だけは避けたが衝撃によるダメージだけでもかなりのものだ。2回ほど地面をバウンドし、一瞬だけ息が詰まる。

だが、その程度でどうにかなるような鍛え方はしていない。地面を転がり少しでも衝撃を逃す。


そこに2発目の『炎弾』が襲い掛かる。地に伏せた状態から手足を使い大きく横に跳ねて避ける。

「フンッ!」

息つく暇もなく斧が振り下ろされる。再び地面を転がり回避。

…もう身体中泥だらけだ。

握っていたナイフに目を向ける。刀身にヒビが入り、後1、2回も斬りつければ折れてしまいそうだ。

勿論、斧を受け止めるなど以ての外だ。次こそ上半身と下半身が泣き別れする事になるだろう。

…最も、闘技場と武器に張られた結界によって死ぬ事はない。だが痛みが消える訳ではないのだ。誰も進んで怪我をしたいはずはないだろう。


「…『炎弾』!『炎弾』!」

立ち上がった矢先に2発の炎弾が襲い掛かる。シズクはたん、たん、と軽く地面を蹴り飛来する炎を躱す。

だが、『炎弾』の利点は連射速度だ。2発躱した所で次々に飛んでくる。この様子からして増幅器はまだまだ余裕そうだ。

斧を担ぎ直して駆け寄ってくる生徒を視界に入れつつ、最小の動きで『炎弾』を躱していく。

「そのまま撃っとけ!ぶっ潰す!」

魔法による牽制を命じつつ再度斧を振りかぶる。


だが、同じ手を2度食らうつもりはない。体捌きを工夫し、斧を振るう生徒を誘導して射線を切る。

「おい!援護はどうした!?もっと撃ち込め!」

「そうしたいけど君の陰に隠れて狙えないんだよ!」

連携がうまくいかない事に双方苛立っているようだ。

擦りもしない焦りからか、攻撃が徐々に大振りになっていく。

(…貰った)

精彩を欠いた攻撃は、そのまま隙に繋がっていく。


ーそして、その隙はシズクを相手取るには致命的なものとなる。


頭上から振り下ろされる斧をギリギリまで引きつける。

眼前に迫った刃を見つめ、右足を軸に身体を半回転。

両手斧の分厚い刃がシズクの背中側、皮一枚先を素通りする。


…苛立ちと焦り、その2つが振り下ろされる斧から二の手を奪う。

先程までより僅かに深く刃先が地面にめり込み、先程までより僅かに長く無防備に垂れた頭を晒す。

シズクにとってその隙は容易く命に届きうるものだ。折れかけのナイフであっても首を裂くには十分すぎる。


…だが、やらない。

それじゃあ面白くない。

ー無意識の奥底で、黒い感情が湧き上がった。

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