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46 ー時間稼ぎー

「…ふっ!」「はあっ!」

2人が同時に走り出す。左右から襲いかかってくるが、1人に対して複数人が攻撃する場合、それぞれの武器が干渉しないようにするため必然的に攻撃する位置は限られる。


「…よっ、と」

足を狙って振われた片手剣と、頭上から振り下ろされた両手斧を一足で回避する。

…正直、この程度なら魔力を視る必要も、身体強化をする必要もない。


ズンッ!


雷を纏った斧が叩きつけられる。

「…ッ!」

一撃目が躱される事は予想の範囲内だったようで、特に焦った様子も無く片手剣による追撃を繰り出す。

だが、それはシズクにとっても予想の範囲内。

一足目で軽く地面を蹴り、続く二足目で大きく跳ねる。踏むのは叩きつけられた斧、その柄である。

「うおっ!?」

地面から引き抜こうとした斧が蹴り戻され、ガクンとつんのめる。シズクはそんな彼の頭上を飛び越え、背後に着地する。

シズクは無防備な背中を晒す彼に攻撃を仕掛ける事はせず、後ろに下がって距離を取る。

「ッ!ナメんな!」

斧を地面から引き抜き、身体を半回転させつつ力任せに横薙ぎに振り抜く。

…が、シズクはそれを予測していたように、さらに半歩、斧が通り抜けるギリギリの距離まで下がる。

「あっぶね!…おいおい、当たったら胴体真っ二つだぞ?勘弁してくれよ」

口調とは裏腹にその行動には危なげがない。

2度、3度と振られた斧に加え、横合いから不意打ち気味に突き出される片手剣までも躱しきった。


「クソッ!ちょこまかと鬱陶しい奴だな! …おい!まだ攻撃魔法は使えねえのか!?」

「もう行けるぞ!隙を見てそいつから離れろ!」

どうやら攻撃魔法の構築は向こうが先に終わったみたいだ。…だが、あんな大声でやりとりしてたら、どんな魔法を使うのか筒抜けじゃないか。

ちなみに場慣れした魔法師は、戦闘中に声を張り上げたりなどしない。風魔法を使って味方のみに声を届けたり、『念話』と呼ばれる特殊な魔法を用いてやりとりをするのだ。なので、魔法が使えない俺は基本、戦場で仲間と連携を取る事はない。…まあ、ユキだけは俺の考えを読んで的確に援護してくれたりするが。


言われた通り俺から距離を取ろうとする2人。

だが、その後ろにぴったりと張り付いて離れてやらない。

「クソッ!てめえ付いてくんじゃねえよ!?」

「いや、離れたら攻撃魔法喰らうってわかってるなら付いていくだろ…」

呆れた声を上げながら2人を追走する。魔法が飛んでこない所を見るに、相手が使おうとしていたのはやはり広範囲に影響を及ぼす攻撃魔法だったようだ。


…ブラフの可能性も考えたが杞憂だったようだな。

ナイフを握り直し、相手の背後から追撃を繰り出そうとしてー


「ぐあっ!?」

「がはっ!?」

「ッ!」


さらに俺の背後から熱風が叩きつけられる。

咄嗟に前方を走る1人の服を掴み、俺達の背後から吹き荒れる熱風を防ぐ盾にする。

全身に火傷を負い倒れ伏す。これは完全に戦闘不能だろう。


もう1人に目を向けると、斧を盾にうまく熱風を防いだようだ。腕を始めとした身体の随所に火傷を負っているようだが、戦闘継続に支障はないだろう。

そして俺… 人1人では流石に防ぎ切れなかったか。陰から出ていた左腕は焼け爛れ、指先をピクリと動かすだけで引き攣るような痛みが走る。


明らかに攻撃魔法。使用者は考えるまでもない。

「アレ?1人しか倒せてねえぞ」

「仕方ねえだろ?本来俺達の魔導力じゃ攻撃用の『熱風』魔法なんて増幅器がなかったら使えねえんだ。意外と難しいんだよなコレ」

熱風魔法は魔導力1の平民でも使えるような魔法だ。単に暖かい風を吹かせるだけの魔法で、温度はある程度調整ができるとはいえ人を火傷させるほどの威力は出せない。

だが、彼等の放った『熱風』魔法は、肉体の深い部分まで蝕むような、酷い火傷を負わせている。

その秘密は彼等が選択した、火属性魔法増幅器の取り付けられた杖だ。各属性の魔法を魔導力が足りなかったとしても実用レベルの威力まで引き上げてくれる杖は、魔法師にとって必須と言ってもいいだろう。


「ったく、あと何発撃てる?」

「増幅器の残りからしてもう1発… 威力を抑えても2発だな」

杖を用いるデメリットは… 嵩張るので大量に持ち込む事はできないということと、増幅器には回数制限があるということだ。イメージとしては、足りない魔導力を増幅器に補ってもらうという感じだろうか?本人の魔導力が低ければ低いほど増幅器の使用回数は減少してしまう。


「俺もそんなもんだ。…けど、おい!そんな怪我じゃ時間稼ぎは難しいかぁ!?」

…唐突に、俺に話を振ってくる。怪我も何もお前らの魔法に巻き込まれたんだがな。

「…いや、怪我に関しては向こうも同じ条件だ。1人は戦闘不能だし、もう1発分の時間くらい稼いでやるよ」

そう返すと、2人は何となく面白くなさそうな顔をする。

「…あっそ。じゃあもう一回だ。精々巻き込まれないように注意しな」

そういうと再び攻撃魔法の構築を開始する。

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