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45 ー戦闘開始ー


「さて、んじゃ始めるか」

相手はやはり前衛2人で後衛の攻撃魔法を補助する作戦のようだ。こちらより利口だな。

「あっちの前衛は無能1人か。さっさと終わらせるぞ」

聞こえてるぞ。今更だが。


…魔力は使えないが、速攻負けても角が立つな。ここは逃げに徹して時間を稼ぎ、後衛2人に倒してもらうのが良さそうだ。

俺は軽く目に力を込めると周囲を満たす魔力を視る。これくらいならバレないだろう。

さて、相手は… 片手剣と金属盾のセット、もう1人は両手斧か。魔力の流れからして身体強化は使っていないな。

敵を分析していると、前方の2人が腰のポーチから何かを取り出す。…紙包みだ。

2人は取り出した包みの封を指で弾くように軽く開けると、手に持つ武器に押し付け、そのまま擦るように塗りつける。


ボウッ!

バチチッ!


片手剣からは炎が、斧からは雷が迸った。

彼らが獲物に塗りつけたのはゼリー状の薬品。主に魔法ゼリーと呼ばれるそれは、魔法の込められた魔石や薬品などを砕いて粘性の物質に溶かし込み、それを魔法を遮断する紙で包んだものだ。

塗りつけたものに込められた魔法を付与するそれは、様々な魔法の効果を簡単に得られるため、戦闘中に魔法を使えない者にとって需要が高い。


「おいおい、こっちは1人だぞ?そんな代物まで使うのかよ」

「使うならその間くらいは待ってやるぞ?」

ちなみに俺は魔法ゼリーの薬包を1つも持っていない。魔力があるので普段は使わないし、使用期限が短いので買ってストックしておくのも面倒だからだ。

紙ではなく、同様の効果を持つ小瓶に入ったものは多少長持ちするが、身体に触れても問題ない魔法 ー回復魔法や強化魔法だー 以外は紙包みが主流だ。魔法ゼリーは塗布された瞬間から効果が発揮されるため、包みを解いてすぐに塗りつけられる紙包みの方が効率がいいし、塗布する際に身体に付着して怪我をする危険も少ない。


(あれじゃ切り結ぶのは危険だな。まあこっちはナイフだし、元々そんな気はないが)

ゼリーで付与できる程度の魔法では、フェーゴの炎のように武器を破壊する事は難しいだろう。とはいえ当然生身で受けるのは危険だ。それでなくともナイフでは剣や斧を真っ向から受け止めるのは無謀というものだ。

(動き回って撹乱だな。武器を振らせ続ければ、ゼリーの効果も切れるだろ)

魔法ゼリーの効果は当然無限ではない。時間が経てば込められた魔法も減少するし、振り続ければ少しずつ塗布したゼリーが剥がれ落ちて薄くなっていく。

平民でも日常的に使用できる程度の値段ではあるが、乱用できるほど安くもない ー昼飯1食分程度の価格だー ので、模擬戦程度で2度も3度も使わないだろう。

効果が切れるまで避け続ければ、流石にこちらの攻撃魔法構築も終わるはずだ。


だが、それは向こうも同じ事。複数対複数の戦闘では、如何にこちらの後衛を守りつつ、敵側の後衛を妨害できるかが勝負どころだ。その常識から考えれば前衛1人などあり得ないのだが…

(まあ、『本当の戦闘』を経験した事がない奴らには分からんか)

シズクは頭の中で垂れ流していたチームメイトへの愚痴を打ち切ると、少し腰を落としていつでも動き出せるよう準備する。

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