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44 ー模擬戦ー

話し込んでいると、すぐに午後の講義が始まってしまう。

…結局昼飯にはありつけなかったな。

まあ、どうせ寝ているだけなので空腹でも問題は…

「さあ皆さん!お伝えしていたように、本日『詠唱学』の講義は『戦闘訓練』に変更されています。第一闘技場に移動なさい!」

…との事らしい。そういえば『詠唱学』の担当教師が休みだとか言っていたような気がしなくもない。

仕方がない… 適当に済ませるとしよう。

俺は席から立ち上がると、闘技場に向かって歩き出した。



第一闘技場にたどり着くと、いつの間にか背中に抱きついていたユキを摘み上げ地面に下ろす。


この学園には、昨日フェーゴと戦った場所以外にもいくつかの闘技場が存在し、それぞれ広さや設備が異なる。今回の訓練で使用する第一闘技場は中でも最も広く作られており、もっぱら大人数での戦闘訓練で使用される。

…つまり、ここならサボっていてもバレないということだ。


「では、これより戦闘訓練を開始する!本日は3対3での模擬戦を行ってもらう!」

…よりによって3対3とはツイていない。どうあっても俺をサボらせないつもりのようだ。嫌がらせだろうか?

「シズクー!3対3だって!僕と組もうよ!」

心の中で、教師に対して八つ当たりをしているといつものようにユキが背中に飛びついてくる。

まあ、ユキと組んでおけば3対3とはいえ一瞬で勝負がつくだろう。そうなれば残り時間は自主訓練だ。寝ていても文句は言われない。

「なお、公平を期すために今回のチーム編成はこちらで決めさせてもらった!能力や成績等を考慮し、極力平等となるよう振り分けているので安心してほしい!」

教師がパチンと指を鳴らすと、目の前に闘技場のエリアが浮き出る。ユキの眼前に浮き出たものとは違う …つまり別のチームという訳だ。

…今日は悉く想定通りにいかないな。何故だ。

「だってさ。ほら行けユキ」

残念そうな顔をしているユキの背を軽く押す。

そんな顔をするな。俺だって残念だ。…楽ができなくてな。


「…チッ。こいつかよ」

「ツイてねえなぁ」

指定されたエリアに赴き、チームメンバーと顔を合わせるなり悪態をつかれた。散々な言われようだ。

まあ、いつもの事だし気にするほどのものでもない。

「まあ良い。精々囮に専念してくれ」

「はいよ。攻撃魔法を使えるのはどっちだ?」

平民の魔導力では構築に時間がかかりすぎるので、訓練中ならいざ知らず戦闘で攻撃魔法が飛び交うことはまず無い。大抵の場合は武器を用いた近接戦闘がメインで、使うとすれば補助用の付与魔法くらいだ。だが、それは1対1での戦闘の場合である。

今回のような複数対複数の戦闘では、前衛が近接戦闘を行い、後衛の攻撃魔法構築を補助するのが一般的な戦術だ。


「両方だ。ま、魔導力1の魔法すら使えない無能と組むんだから当然といえば当然だな」

…2人とも攻撃魔法を使えるなら、前衛は俺1人か?

「そういうことだ。少しは時間を稼いでくれよ?」

この2人の魔導力から考えると、まともなダメージを与えられる攻撃魔法の構築にかかる時間は1分少々と言った所か。

相手も同様の戦法を執るとして、前衛1人なんて阿呆なことはしないだろう。つまり2人相手に1分程時間を稼げば良いだけだ。

…まあ、特に問題はないだろう。


「打ち合わせが終わったのなら各自武器を取れ!双方準備が完了次第模擬戦を始めろ!」

打ち合わせと呼べるほどの事はしていないので、早々に用意された武器の元へ向かう。


闘技場には模擬戦用に数種類の武器が用意されており、それぞれの役割に合ったものを選択することになる。

貴族ならば自前の武器を持っている事もあるが、模擬戦を行う場合は用意された武器を使わなければならない。闘技場内の武器には、闘技場自体の魔法と反応する特殊な結界魔法が掛かっており、致命傷を与えることができないようになっているからである。

ただし、防ぐのはあくまで直接の致命傷だけであり、受けた傷による失血死等は当然起こりうるし、何より普通に痛い。捨て身の特攻などはやめておいた方がいいだろう。


オーソドックスな片手剣、大振りな両手剣、槍や斧、攻撃魔法用の増幅器が取り付けられた杖等々、多種多様な武器が用意されている。

…その中から選んだ武器は小振りなナイフだ。魔力を使わない前提なら取り回しやすいこれが一番良いだろう。

剣技や槍技、斧技等は素人だし、杖は魔法が使えない俺にとってはちょっと丈夫な棒にしかならない。


握ったナイフを軽く振り、放り投げたり手の中でクルクルと回したりして感触を確かめる。

「おいおい、やる気あんのか?せめて剣くらい使えよ」

2人は自分が持つ紋章と同じ属性の増幅器が付いた杖を選んだようだ。どうやら本当に近接戦闘を行う気は無いらしい。

「せめて一回攻撃魔法を使う程度の時間ぐらいは稼げよな」

「わかってるよ。精々俺がやられる前に魔法を発動できるようにしてくれ」


武器を携えて戻ると、エリアが『対魔法結界』で区切られる。

起動させたのは相手チームのようだ。どうやら俺たちが戻るより前に準備を終えていたらしい。

「アイツらもう戻ってやがる」

「実質3対2みたいなもんだからな」

カウントされていない1は当然俺だろう。仕方無い。

「向こうは本気らしいぞ?今からでもどっちかは前衛にした方がいいんじゃないか?」

駄目元で尋ねるが、小馬鹿にしたような笑みを浮かべられる。

「冗談だろ?なんで攻撃魔法が使えるのに前衛なんてやらなきゃいけないんだ」

「そうそう。お前は精々的になってろ」

魔法に対する根拠のない信頼は相変わらずのようだ。…貴族様のように一瞬で使えるなら別として、発動に時間が掛かり、その間ほぼ無防備になる平民の攻撃魔法なんて使うだけ無駄な気がするんだが。これは魔法が使えない俺の僻みでしかないのだろうか?


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