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37 ー回収ー


(…ふぅ)

一息つくと、手の中の『魔力刃』が宙に溶ける。

この林でのトレーニングを始めて長いが、魔物に出くわしたのは久しぶりだ。

「おっと、忘れるところだった」

俺は振り返り、今しがた倒した『霧猪』の頭を拾い上げ、額の紋章から生えた角を切り取る。

この角は魔物の力の源で、魔力を取り込む力があるようだ。さらに、原理は不明だが角を他の魔物が取り込むと、角の持ち主の力を得ることがある。

また、魔獣が取り込んだ場合、その魔獣は新たな魔物となる。

人間が取り込んだ場合は不明だが、獣が取り込んだ際は肉体が魔力に耐えきれず崩壊していたのでおそらく死んでしまうだろう。

無駄に強力な魔物が増えても困るので、倒した魔物の角は回収することと法で定められている。

ちなみに、魔物の出現は騎士団に報告する義務があり、角も国に提出するよう法が定められている。

しかし、シズクは報告をせず、角もそのまま所持している。


…出現した魔物は全て倒しているし、角の入手方法を聞かれても困る。倒したと言っても信じないだろうし、よしんば信じて貰えたとしても方法を聞かれると答えられない。

(よし、角は回収した。ついでに持てるだけの素材を回収しておこう)

魔物の素材は高く売れるのだ。売る場所を考えれば出処も尋ねられない。仮に聞かれても森で拾ったとか適当に言い訳しておけばいい。


「ん?…ちょっ、おいおいおい!?」

思わぬ臨時収入があったし、ユキに美味いものでも食わせてゴキゲンでも取っておくか… などとニヤけていると、手の中で『霧猪』の頭が霧に溶けるかのように消えてしまった。残ったのは半透明の毛だけだ。

振り返ると、倒れていた身体もいつのまにか消え去り、僅かな毛だけが残されている。

今まで、死んだ魔物が消えるなどという現象を見た事はない。おそらくこれは、『霧猪』という生物特有の性質なのだろう。


「あーあ… 残ったのは毛だけか。売れるかな?」

とはいえ、あくまでここにきたのは小遣い稼ぎのためではなくトレーニングの為だ。

シズクはすぐに気持ちを切り替えると、再び走り出したのであった。

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