33 ー起床ー
「ん…」
いつも通り、夜明け頃に目が覚める。
『火時計』を見ると、まだ炎の色が真っ黒だ。時間的には4時頃と言ったところか?
布団から起き上がり伸びをする。欠伸を噛み殺して机の方に目を向けると、軽く左手を動かし魔力を操作。机の上に置かれていた服がベッドの上に飛んでくる。
布団から出て、手早く着替えを済ませ部屋を出る。
「…まだ少し寒いな」
薄暗い中外に出て、軽く身体をほぐす。
肌寒いが、まあ走っていれば暖まるだろう。
十分に体をほぐした後、ウィンタエア邸の外に向けてゆっくりと走り出す。
街の近くにある林でのトレーニング。毎朝の日課である。
軽いトレーニングをしておくと授業中にもよく眠れるのだ。
…それが正しいかは置いておく。
ウィンタエア邸を出た辺りで速度を上げる。ここから徐々にペースを上げていき、街の出口から林までは全力疾走をキープする。もちろん魔力による身体能力強化など行わない。それじゃトレーニングにならないからな。
10数分ほど走り続け、目的の林に到達する。ここは街に近い割に人の手が入っていない原生林だ。直線距離で1、2時間ほどの大きさだが、1年中立ち込める霧と何故か異様に早く成長する木々、そしてそこに生息する名前すら不明な原生生物のせいで滅多に人が訪れることはない。余談だが、昔から入り込んだ人間が時折消えるという噂があり『人喰林』などと呼ばれていたりする。
そんな林に躊躇無く踏み込む。ある意味ここからがトレーニングの開始だ。
一切人の手が入っていない人喰林には、獣道と呼べるものすら無い。
だが、シズクは道なき道をここまでと変わらない速度で突き進む。進路上の樹木を最小の動きで避け、倒木を飛び越え、苔むした巨岩を周囲の樹木を足掛かりに乗り越える。
立ち込める濃霧により一寸先も見えない原生林を一切の躊躇なく走り抜け、全身を酷使することで肉体と直感の両方を鍛えるのだ。
常人ならば通り抜けるのに半日… いや、進むことすら難しいその林を最短距離で走り抜け、数十分で反対側に辿り着く。
林を抜けると直ぐに踵を返し、再び走り抜けていった。




