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28 ー現在に至るー

(そんな事もあったな…)

過去の回想を終えた俺は、懐かしさに細く溜め息をつく。

ユキはいまだに、隣で俺との出会いを語っている。

…9割以上謎の脚色が為されているが。

というかもはや誰だよと言いたくなる。ユキの中で俺は、物語に登場する勇者も真っ青の活躍をしたことになっているようだ。

恥ずかしいからやめてほしい。俺は光り輝く翼など生やしていないし伝説の聖剣など持っていなかったし片手で10メートル以上ある熊を投げ飛ばしたりしていない。というか剣を持っているなら投げてないで斬れ。


「ふぅー… というわけだよシズク!僕の中ではシズクは世界一カッコいい魔法師だからね!」

「マジでお前の中だけだぞそれ」

「ぶー そんなこと言ったって、シズクだって覚えてるでしょ?僕をぎゅってしてくれてー、笑った方が可愛いって…」

「言ってねーよ」

いや、ホントに。

俺はユキの頭をわしわしと撫でる。

「覚えてることといえば、昔からちっこかったって事くらいだな」

「なんだそれ!」

ポカポカと俺を殴ろうとするが、頭を押さえつつ腕を伸ばせばもう届かない。

戯れながら帰路を進む。


ーざわり


ちょうど俺の進行方向に、妙な気配が”視える“

(…またか)

そのまま気付かないふりをして進み、“その”場所を通り過ぎるー

ー直前で思い切りバク転をした。

いきなり奇行に走った俺を見て、ユキが「ほえぇ!?」と素っ頓狂な声を上げる。


直後、気付かず進んでいれば俺が立っていたであろう場所から、7本ほど氷の槍が突き出した。

ユキが「えぇえーーーー!?」などと喚いているが無視する。


着地した俺は油断なく周囲を見回し、ある1点に当たりをつけると石ころを投げつける。

それは何もない空間に向けて飛来しー突如凍り付いて粉々に砕け散った。


「…相変わらず、なかなかやるね」

そんな声が聞こえたかと思うと、空間の一部がぐにゃりと歪み…

まるで最初からそこに居たかのように1人の女性が腕を組み佇んでいた。


「それはどうも。…いい加減、普通に呼び止めてもらえませんかね」

「ふふ… 挨拶みたいなものだから」

挨拶にしては殺意が高すぎるだろう。下手しなくても普通に死ぬぞアレ。


「おっと、キミに構ってる暇はないんだった…」

彼女は理不尽な文句をつけると、いまだに立ち尽くすユキの目の前に一瞬で現れー

そのまま唇にキスをかます… 直前に手を差し入れた。

「んむっ…」「んちゅ…!?」

それぞれ俺の手のひら、手の甲に唇を当てながら、1人は恨めし気に、1人は困惑した視線を送ってくる。


「…なにすんの」

真っ白な髪の隙間から深海のように青い瞳が覗く。その瞳を恨めしそうに細めながらボソリと呟いた。

「これは失礼。言いつけ通りお嬢様の貞操を不逞の輩からお守りした次第でして」

大仰にそう返すと、「私は対象外だから…」などとボソボソ言っているが例外はない。自分で言いつけた事くらい守って欲しいものだ。

「もうっ!フブキお姉ちゃん!いきなりなんなのさ!」

固まっていたユキが唇を押さえながら吠える。心なしか顔が赤いな。そこまで寒くは無いと思うが…

「愛しのユキちゃんに愛を込めてキスを… ふへへ」


白髪の変質者… もといユキの姉「フブキ・ロン・ヴァ・ウィンタエア」が怪しげな笑みを浮かべる。

「相変わらずの変態ぶりで逆に安心… あいてっ」

ズボンで2人にキスされた手を拭っていると、何故か隣にいたユキに蹴飛ばされる。なんなんだ?

「変態じゃない。愛」

フブキが胸を ーユキのそれに比べると随分と… さながらメロンであるー 揺らしながら、もとい張りながら応える。

「いや、意味わからないし、威張るところでもない」

溜息混じりに額を押さえると、フブキはこてりと頭を傾ける。本気で意味がわかっていない顔だ。

「もー…いつもいつもやめてよ。他の人に見られたらおかしな子だと思われちゃうでしょー」

「ん… 大丈夫。私は気にしないから」

そう言いながらユキを抱きしめる。身長差もあり、ユキの頭がすっぽりと埋もれている。

…羨ましくはない。


「ぼーくーがー!きーにーすーるーのー!」

ユキがフブキの胸の内から逃れようと手足をバタつかせるが、その細腕に似合わず結構な怪力を持つフブキの腕はびくともしない。


…ユキよ。残念だが手遅れだと思うぞ。

その証拠に、絶世…といっても過言ではない美女と美少女が抱き合っている横を、ギョッとした様子で立ち止まった男子生徒が、お前たちの顔を確認した瞬間「ああ… いつものね」みたいな目をして通り過ぎたからな。


ハァ… 昔は正統派なお嬢様だったと思うんだがな。どうしてこうなった?

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