21 ー共闘ー
…協力?
まさかあの熊と戦えって言うのか?
…冗談だろ。
あんな化け物相手に俺ができることなんて、いいとこ餌にでもなって気を引くくらいだ。
「…貴族様を救うための囮になれって事?」
不満を滲ませながら問うと、老騎士は笑みを溢す。
「ふっはは!そんな惜しい事できるか。お主、自分の価値に気付いておらんのか?」
価値と言われても、魔法も使えない孤児になんの価値があると言うのか。
「良いか?先程も見たと思うが、奴は見えない刃を飛ばして攻撃してくる」
おそらく風の魔法じゃろうが…
そう呟くと、協力とやらの内容を説明し始める。
「いくらワシでも、見えもしない、一撃でも喰らえば死ぬる攻撃を避け続けるのは難しい。そこでじゃ、お主にワシの目になってほしい」
目になるとはどう言う事だ?
「なあに簡単な事じゃ。ワシがお主を背負って奴に突っ込む。お主は奴の攻撃がどこに来るか教えてくれれば良い。あとはワシが全部避けて奴の首を刎ねりゃ勝ちじゃ」
言うだけなら簡単だろうけど… もし失敗したらこの人ごと真っ二つじゃないか。
「そう気負わずとも良い。少しなら勘で避けてみせるわい。奴に近づく程攻撃が苛烈になるでの。様子見して死にそうなら逃げればよい」
「わざわざ俺を使わなくても、魔法で分からないの?」
出来るだけ死にたくない俺は代案を出すが、老騎士は肩を竦める。
「無理じゃな。感知魔法もあるにはあるが、魔法の発動自体は分かっても、どこに攻撃が飛んでくるか分からん。他にも方法がない事はないが、確実に避けるのは難しい。高い魔導力があれば別じゃろうが、あいにくワシの魔導力は4での」
そう言われても4が高いのか低いのか分からない。貴族だし、多分平民よりは高いと思うけど…
考え込んでいると、老騎士は急に真面目な雰囲気になって、俺に語りかける。
「兎も角、今の最善はワシとお主の共闘じゃ。…危険を承知で頼めぬか? …あそこに居るのは、ワシの孫たちなんじゃ…」
妙な人だと思う。貴族のくせに、ただの孤児に頭を下げるのか…
魔法も使えない役立たずと陰口を叩く大人は何人も見てきたけど、俺が必要だと頭まで下げる人は初めてだ。
「…分かりました。協力します」
そう頷くと、老騎士は居住まいを正す。
「うむ。感謝するぞ坊主。…ワシは、ゴウセツ・ロン・ヴァ・ウィンタエア。王国騎士団の部隊長じゃった。今は引退しとるがの… 坊主、お主の名は?」
老騎士はそう名乗り、俺の名を問う。
…名前か。
本当の名前は知らない。今の名前は院長が付けたものだ。
…そういえば、この名前をもらってから初めて名乗る気がする。
「…シズク」
呟くように名乗ると、老騎士… ウィンタエア様は俺を背に乗せる。
「シズク… 良い名じゃ。それになかなかの肝っ玉をしておる。ワシの孫娘たちに紹介したいところじゃ」
「…それじゃあ、なんとしてでも生き残らないといけませんね」
軽口を叩き合うと、熊に向き直る。
未だ食事中みたいだ。
「征くぞ。シズクよ。準備は良いか?」
「…いつでも」
それを聞くと、ウィンタエア様は猛然と走り出した。
…さて、生きて帰れるといいんだけど。




