01 ーとある学園の不真面目な生徒ー
「んむっ………」
びくっと身体を震わせ、少年は突っ伏していた机から顔を上げる。
左を向き、窓の外を見ると木漏れ日が顔を照らした。
「………おー、いい天気だ。」
サラサラと風の流れる音。どこからか鳥の囀りが聞こえる。
こんな日には………
「もう一眠りするに限るね…」
再び机に倒れ込む。そのまま睡魔に身を任せ……
「こーらっシズク!いい加減起きろってば!」
ベシッ!
後頭部を叩かれ、快音と共に眠気が飛ぶ。
「もうっ!授業が始まってからずーっと寝通しで… 流石の僕ももう見逃せないって!」
机に突っ伏したまま、目線だけをそちらに向けると、彼にとってもはや見慣れた光景が広がっていた。
「ノートは僕がとってるからいいとしても… 流石に先生にもバレちゃうって!シズク、これ以上成績下がったらいよいよ最下位圏内でしょ?」
空のように青い髪に、感情をよく映すクリっとした瞳は翡翠の色によく似てる。
歳の割に小さい背はこれから伸びると本人は言い張っている。
「あ、でもさぁ こーんな不真面目なシズクより もっと勉強できない人もいるんだよねぇ…」
そんなことを大真面目な顔で呟いている。失礼な奴だ。
「とにかくほら!せんせにバレる前におーきーてー!」
………襟首を引っ張るのはやめてほしい。首が締まってる。結構…いや、だいぶ。
「あー うん… 起きた。起きたってば」
そう呟くと、少女はコロコロと笑う。何がそんなに嬉しいのだろう?
「よかった!これでせんせに怒られなくて済むねぇ」
自分のことのように嬉しそうだが、残念ながら手遅れだろう。
「あー… えっと ユキ… 後ろ後ろ」
ちょいちょいと、ニコニコと笑う少女の後ろを指差すと、少女はその緩んだ顔のまま振り向く。
ーーーそのまま固まった。
こちらからは表情が見えない。しかし、きっと笑い顔のまま固まっているだろう。
視線の先には…
「…ええ、随分と楽しそうで大変結構ですね?Ms.ウィンタエア?」
少女に負けないくらいの笑顔で、しかし目だけは全く笑っていない女性が立っていた。
「あ、えーっと… その、あは あはは…」
相変わらず笑う少女。
「…そりゃ あれだけ大きな声で騒げば気付かれもするだろうさ」
固まった背中にボソリと声をかけると、少女は振り向き、気持ち抑えめの声でーもっとも、手遅れであろうがー抗議する。
「もー!シズクのせいでしょー!」
目の前の教師がそれを見逃すはずはない。暖炉に新たな薪を投げ入れただけだ。
「Ms.ウィンタエア!」
「ひゃいいっ!」
椅子から飛び上がらんばかりに驚く少女。
「キャンキャンと騒ぐ暇があるのでしたら、わたくしが出した課題への完璧な回答を、今すぐ答えられるのでしょうね?」
それ見た事か。俺になんか構ってるから面倒な教師に目を付けられるんだ。
…まあ、面倒じゃない教師だったとしても、あれだけの声で騒げば怒られるだろうけどな。
少女はおずおずと答える。
「…えっと、僕が答えるのはいいんですけど… ぐーすか寝てたシズクに対しては何もないんですか?」
俺に振るな俺に。
…まあ、どのみち無駄だろうけど。
「ええ 魔導力もない無能にわたくしの授業が理解できるとも思いませんし、期待もしませんので」
さも当然のように教師が答える。
周りの生徒たちも当然だとでも言いたげな…いや、なんとも思っていないような表情で、少女と教師のやり取りを見つめている。
俺にとってもいつものことなので、今更なんの感想もない。
1人だけだ。こともなげに答えた教師の前に立つ少女だけが、酷く傷ついた顔で俯く。
…自分が言われたわけでもないのに、よくもまああそこまで感情を出せるもんだね。
1人感心していると、少女の変化に気付かない教師が続ける。
「どうかしましたかMs.ウィンタエア?十分反省したのであれば、座って結構ですよ。授業はちゃんと聞くように…」
それを聞いた少女は、スッと顔を上げる。先程までのふわふわした雰囲気は微塵もなく、目を閉じて堂々と答えた。
「…いえ、答えられます。問の答えはそれぞれ、教科書6、38、163ページ」
毅然とした態度を崩さず、少女は朗々と語り始めた。