18 ー後始末ー
ユキを中心に、莫大な力の奔流が巻き起こる。
「っ!Ms.ウィンタエア!あなた一体何を…!」
「黙って見ててくださいよ先生!」
教師に向かって一喝すると、ユキは溢れ出る力を魔導力により制御する。
明確なイメージをもって力に方向性を与える。今回行使する魔法のイメージは一つ。
すなわち、死者の蘇生。
その魔法を習得した聖職者が、魔導力5以上の魔法師複数人の力を借りてやっと行使することができる大魔法である。それをこの少女はたった一人で再現しようというのだ。
死者蘇生は死んでから1日以内に、蘇生を行える術者のいる教会で、多額の寄付が必要となる。おまけに、受ける方にも高い魔導力が必要なのだ。故に平民には縁遠い物であり、観衆の誰も、今目の前で起きている事象が何かを理解することができなかった。
天に立ち昇る光の柱が一際強く輝き、カリダムの身体についた傷がみるみる内に塞がっていく。
完全に傷が塞がり、一拍置いてカリダムはゆっくりと目を開けた。
「ふぅ… よし、うまくいった!」
「…まさか、成功させるとは思いませんでした。相変わらず優秀ですこと」
額に手を当て、関心を通り越して呆れたように呟く。
「…む、私は、ゴホッ!…ここは、闘技場か? なぜ私は生きているのだ? 蘇生されるには早すぎると思うが」
口内に残る血を吐き出し、カリダムが周囲を見回す。
「ユキがカリダム様に死者蘇生魔法を使ったんですよ。蘇生費用が浮いて良かったじゃないですか」
驚きに目を見張るカリダム。
「蘇生魔法… ウィンタエア君、君がか? まさか… いや君ならあり得るな。感謝する」
意外にも、素直に謝意を表す。
そして、上体を起こし俺に目を向ける。
「貴様… いや、シズク君」
「お? 何だやる気ですか!? 次やったら多分俺が死ぬから勘弁してほしいんですが!」
ファイティングポーズを取り、戯けた様子を見せる俺に、カリダムは頭を下げる。
「いや、もう君と戦うつもりはない。…すまなかった。私の目が曇っていた事を認め、これまでの態度を謝罪する。…君は無能ではなかった」
まさか、平民の俺に頭を下げるとは… あまりの変わりように面食らっていると、カリダムは起き上がり、ニヤリと笑う。
「ユキ君の言葉に嘘はなかったな? 認めよう。君の方が強い。…おそらく、何度やっても私が殺されるだろうな?」
「でっしょー? 僕は嘘つかないもん!シズクは強いんだから!」
ユキが俺の背に飛び乗り、得意げに、嬉しそうに笑う。
「…重いぞ」
ボソリと呟くが、言い終わるや否や頭部に強烈な衝撃が走る。
「じゃ、帰ろっか、シズク!」
俺の頭をぶん殴った事について一切触れず、闘技場の出口を指差す。
「へいへい、仰せのままに。お姫様」
背中に僅かな重みを感じつつ、出口に向かって歩き出す。
…背中の少女を含め、闘技場で起こった事に誰も気付いてはいないだろう。俺は明日からも無能で居続けるのだ。