17 ー見てなきゃ誰も信じないだろうねー
「あ、先生…」
「闘技場で模擬戦を行なっている生徒がいると報告を受けて来てみれば、何ですかこの見学者数は。いったい誰と誰が戦って…」
闘技場を見回したその教師はシズクの後方、カリダムの死体に目線を合わせる。
「…なんてこと、行われていたのは模擬戦ではなかったのですか!?」
声を荒げる教師。教え子の死体を見ればさもありなんといったところか。
「はい、えっと… 魔導戦です。先生。そこのカリダム様と…」
ユキが答えると、その教師は一つ溜息をついた。
「…まさかこのご時世、魔導戦を行うとは…。Mr.カリダムも、なぜMs.ウィンタエアと戦うなどという愚を…」
「え?戦ったのは僕じゃなくてシズクですよ?」
ユキは事実を述べただけだが、到底信じられる内容ではなかったようだ。まあ、無能で有名な俺が中級貴族を、それも魔剣を受け継ぐ一族を倒すなど冗談にもならない。
「Ms.ウィンタエア。わたくしは冗談は好みません」
「…嘘じゃないです。僕の言葉を信じられないなら、観客の誰かに聞いてみたらいいんじゃないですか?」
ムッとした様子で告げると、教師はふんと鼻を鳴らした。
「この際誰がやったのかなど大した問題ではありません。まあ、幸い彼は中級貴族です。魔導力の面から言っても蘇生にさしたる問題はないでしょう」
ー金銭的にも。教師はボソリと付け足すと、パンパンと手を叩いた。
「さあ、あなた方も解散なさい!わたくしはMr.カリダムを保健室に運びますからね。…ああ、Mr.シズク、彼を運びなさい。無能なりに役立ってもらわねばなりません」
特に反論なく、言われた通りカリダムを運び出そうとするシズクだったが、無能呼ばわりされてムッとしたユキが行手を塞ぐ。いい加減慣れればいいのに。
「Ms.ウィンタエア?何をしているのですか?用がなければ帰宅なさい」
「…わざわざシズクに運ばせる事ないですよ」
代わりに運んでくれるのだろうか?俺としてはありがたいが…
「どういうことです?これは魔法が使えなくとも行える仕事です。少しくらい役立てねば…」
「こういうことです」
教師の言葉を遮り、ユキは魔法を行使した。
そして、観衆はこの日最後の奇跡を目にする。