16 ーやればできる子ー
観客席からは、物音一つ聞こえない。
息を呑む音すら立てることが憚られる静寂の中、誰かが声を上げる。
「…勝っちゃったよ、アイツ」
その呟きは、他の観衆にも伝播する。
「本当に魔法一回も使わないで、平民がだぜ?」
「魔法使ってなかったのか?身体強化系とか…」
「バカか、そんな素振りなかったし、仮に身体強化魔法使ったとしても平民が貴族に勝てるかよ」
「最後、なんでカリダム様は剣を溶かさなかったんだろう?」
一度喋り始めれば最後、興奮は波となり客席が沸く。
戦い振りを讃えるもの、貴族が敗れたことを信じられず呆然とするもの、手近なものと感想を共有するものー
そんな彼らを尻目に、シズクに近づく小さな影があった。
「ほら!やっぱりシズクが勝ったじゃん!」
相変わらずニコニコと、無邪気に声をかけるユキ。
「何がほらだよ全く。こっちは何の得もなかった所か、ペンも燃えちまってマイナスだぞ」
抗議の視線を向けるシズクに、ユキは気にした風もなく返す。
「ペンならまたあげるよ。それより、シズクを馬鹿にしてた人たちに何か言ってやりたいこととかないの?」
首を傾げるユキであったが、
「…いや、特に思いつかないな。というか、カリダム様に勝ったところで、魔法が使えない俺が無能だって事に変わり無いだろ」
肩を竦めるシズクだったが、ユキはニヤニヤと笑いつつ脇腹をつついてきた。
「またまた〜 僕の目は誤魔化せないぞ!最後のアレ、炎剣の自動反撃を無効化してたでしょ?どうやったのアレ?魔法の無効化なんて同魔導力、同系統の結界魔法をぶつけるとか、逆属性の攻撃魔法で一点突破するとか… とにかく一瞬でできるようなものじゃないよ?」
「だから昔から何度も言ってるだろ。俺は魔法を使ったことなんてねえって。今回も、これからもな」
矢継ぎ早に質問を浴びせるユキの頭を片手で抑える。相変わらずちっこい。
失礼なことを考えつつ、この後のことに思いを巡らせるが…
「…これは一体何の騒ぎですか?Ms.ウィンタエア?…それと、Mr.シズク」
思考は入り口から掛けられた声に中断させられる。