14 ー炎剣と勝利への道筋ー
「…これを見せるのは“君”が初めてだ。我が一族に伝わる魔剣である」
カリダムが厳かに告げる。呼び名が変わっているのは、シズクを対等の敵であると認めた証拠であろう。
「それはどうも… 俺は満足したんで仕舞ってくれてもいいですよ?」
この期に及んで軽口を叩くシズクを無視して、前傾姿勢となるカリダム。手心を加える気は一切無いようだ。
「征くぞ。できるものなら生きてみせるがいい」
『エア・フロート』を使うわけでもなく、その場で炎に包まれた剣を振るうカリダム。
ゴッ!!!
直後、シズクを中心に爆炎が巻き起こる。火力は先ほどの炎とは比べ物にならない。
振るわれた剣を視て、大きく後ろに跳び炎を避けた。
「…っと!前髪が焦げるな…っ!!!」
自らが視た景色に従い頭を下げる。一瞬で背後に移動したカリダムが振るう剣を文字通り間一髪で避ける。
「やはり避けるか。…目が良いと言いつつ、今のは明らかに見えては居なかったと思うのだがな?」
シズクの視界は炎に遮られ、カリダムが移動する瞬間は視認できなかった。にも関わらず完璧に躱したシズクに対し、もはや呆れた表情を浮かべるカリダム。
「目だけじゃなく勘もいいって事にしといてくれっ!」
炎剣を躱した勢いのまま前転しつつ、牽制の意を込め剣を振るうシズク。
カリダムはその剣を余裕を持って受け止めー
「マジかよっ!?」
驚愕の声を上げるシズク。手には刀身の半ばから断たれた剣が残されている。
「我が炎剣、生半な鋼が斬り結ぶことなど叶わん」
「カリダム様が作った剣なんですがねコレ」
二度、三度と地面を転がり距離を取るシズク。
それを追い、炎剣を振るうカリダム。
剣の軌跡に沿って爆炎が飛び、シズクはそれをやはり間一髪で避けていく。
(…さて、どうしたもんかね)
シズクは自らの手に残る、半ばから溶け落ちた剣の残骸にちらりと視線を走らせ、生き残る道を探るのであった。
「なんだアレ… 炎を身体に纏わせてるのか?」
「あんな使い方したら、自分の身体まで焼いちゃうわよ… どんな魔法を使ったら、あんな事ができるのかしら」
「炎に剣が触れたと思ったら短くなってる… 一瞬で溶かしたってのか?」
観衆たちは繰り広げられる光景を信じられず、口に出して確かめる。
「あれは正真正銘、カリダム様のオリジナル魔法だね。火の魔法に相当の親和性がないとアレだけ完璧に制御された魔法は使えないよ。僕が同じ事をしたら剣が一瞬で蒸発するか、服が燃えちゃうだろうねぇ」
ユキも感心した様子で感想を漏らす。
「にしてもシズク、武器が無くなっちゃったか… おーい2人ともっ!シズクの武器が溶けちゃったし、僕が新しいの用意しようか!?」
「いや、手出し無用に願おう。ウィンタエア君。君が彼を、私と対等の魔法師であると認めるのならな」
すかさず反論するカリダム。
そっかー と軽い調子で返すユキにもはや手を貸す気は無いようだ。
圧倒的に不利な状況である事は誰の目にも明らかだが、それでもなおシズクの勝利を疑わない。
「…いや、俺は普通に武器が欲しいんだが… 何勝手に返事してんですか」
「君には悪いが、この戦い、もはや他者が介在する余地はない。私は君を魔法師と認める。正々堂々と決着をつけようではないか」
不満を露わにするシズクに、彼を対等の敵と認めたカリダムが炎剣を振るう事で応じる。
「どこが対等なんだよ!武器も魔法もない平民を虐めてくれちゃってさ!」
炎剣が振るわれるたびに起こる炎を避けつつ、勝ちの手を探るシズク。
実際、彼は追い詰められていた。魔法による攻撃は視る事で避けられる。だが発動された炎剣は、術者が解除しない限り永遠に振るわれ続けるであろう。維持し続けるのには途切れる事ない集中力が必須であるが、カリダムほどの使い手となれば1日は余裕で維持し続ける筈だ。
対してシズクは?
永遠に避け続けられる体力など持っていない。振るわれる剣に、炎に追いつかれた瞬間骨も残さず燃え尽きるだろう。勝利の天秤は確実にカリダムの方へ傾いている。
針を揺り戻すには、どこかで勝負を賭けなければならない。
シズクは剣を持たない左手を懐に入れると、“それ”に触れる。
(…仕方ない。やるか?)