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11 ー戦闘開始ー

「…では行こう。せめて一合は耐えてみろ」

声を発した瞬間。カリダムの姿が瞬時に掻き消える。

少なくとも、観衆は誰一人その姿を目で追うことはできなかった。


彼の姿を捉えることができたのは、戦闘の開始時から知覚魔法を発動させていたユキとー


「ほう、よく防いだな。マグレとは言うまい?」

自らの背後に剣を構え、カリダムの一太刀を完璧に防いだ無能少年のみであった。

「最初からっ!ガッツリ殺しに来ましたね!っと!」

背後に回した剣を跳ね上げ、身体を半回転させカリダムに斬りかかるシズク。

一閃、二閃、三閃ー その全てを苦もなく捌くカリダムは、わずかに笑みを浮かべつつ答える。

「当然だ。一度剣を抜いたのであれば、相手が平民であろうと迷いなく斬り伏せる」

「ちょっとくらい手を抜いてくれても俺は一向に構わないんですがねぇ!」

斜め下から勢いよく切り上げた剣を、完璧に目で追いながら皮一枚先で避ける。カリダムはそのまま後ろに大きく跳び距離を取る。ーそれはおよそ常人が生身で跳ぶのは不可能な距離であったが。


「ふむ、剣の腕は素人に毛が生えた程度か… 先程の一撃を防いだのはマグレか?それにしては堂に入っていたようだが…」

カリダムは構えを取り直し、先程の一合を分析する。

「まあ良い。では、これはどうかな?」

自己完結したのか、カリダムは再び真っ直ぐシズクを見つめる。

そしてー消えた。

一切のモーションもなく、煙のように掻き消える。


だがー

一合

二合

三合ー


背後からの一閃、左から右への振り抜き、頭上からの振り下ろしー

一つとして同じ方向からの攻撃は無い。しかしその全てを完全に防ぎ切り、さらに反撃をしてみせる。

カリダムはその一撃を、やはり余裕を持って避けてみせるが、その顔には僅かに驚愕の色が浮かんでいる。


そしてそれは戦いを見守る観衆も同様であった。

「…おいおい、アレが貴族の戦いかよ」

「あんだけ距離があって… 瞬きもしてねえ間に後ろに回り込んでたぞ?」

「一発も見えねえ… アレも魔法か?」


「そう!魔導力3から発動できる基本的な移動魔法だね!」

そう呟く彼の隣から、場違いに明るい声が響く。

ギョッとして振り向くと、そこには人懐っこい笑みを浮かべるユキの姿があった。

「えっ… いや、でもあそこに…」

慌てて前を向くと、闘技場には初めから変わらず堂々とした立ち姿ー

幻かと思い目を擦るが、それは一向に消えない。

「ああ、これ?これは遍在魔法って言って僕のオリジナル魔法なんだけど、意識の及ぶ場所なら何処にでも僕と同一存在を作れるっていう…ってそんなのはどうでもいっか」

サラッととんでもない魔法を披露しつつ、ユキは彼らに魔法の講釈を行う。


「カリダム様が使ってるのはオリジナルの魔法じゃなく、体系化された風の移動魔法だよ。魔導力3でぇ、詠唱は1節『背に風よ在れ』魔法名は『エア・フロート』!移動距離や速度は使用者によってまちまちだけど、カリダム様はそれなりの使い手だね!」

一息で捲し立て息が切れたのか、そこで一度言葉を切り、大きく息を吸って続ける。

「んでも『エア・フロート』は負担も少ないし、常駐で起動し続けるのが基本かなぁ?移動速度や距離は一定になっちゃうけど、中距離と短距離の2つを並列起動し続ければ柔軟に対応できるし… 何より、一度起動しちゃえば詠唱もいらないからね!1節の魔法程度なら脳内詠唱で発動できるけど、その一瞬が命取りだから、無いに越したことはないよねぇ」

早口で語るユキの言葉に、彼らはまるで理解が及ばない。


しかし無理もない話だ。魔導力1が殆ど、魔導力2もあれば少なくとも食うには一生困らないーそれが共通認識の平民である彼らからすれば、まるで別次元の話である。

「…あんな、斬られて初めて気付くような攻撃、どうやってよければいいんだ… いいんでしょうか?」

呆然とした少年が、慣れぬ敬語でユキに話しかけると、ユキは事もなげに言い放つ。

「え?あはは、そんなの知覚魔法を使うに決まってるじゃない?それこそ普段から… なんなら寝てる時も常駐させるでしょ?あ、武闘派の魔法師だったら、同時に身体魔法も使って眼でも捉えるかな?カリダム様も今やってるよ。」


あっけらかんに言うユキであるが、その場にいる全員の心は一つであった。

すなわち(できる訳ねえよそんなん…)である。

一つの魔法を使うだけでも集中が必要で、持続させられるのは、自分が持つ属性紋と同一属性の魔法でやっと半刻という彼らは、改めて貴族と平民の力の差を思い知るのであった。


「…アレ?でも、魔法が使えないはずの…えっと 彼はなんであの攻撃を防げるんだ?知覚魔法も身体魔法も使えないはずじゃ」

その言葉にムッとするユキ。

「だーからー、シズクは魔法使えるんだってば!普段は力を溜めてて使えないだけなの!」

わざわざ拡声魔法を使ってまでそう告げると、観客席にあったユキの姿は空気に溶けるように消え去った。

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