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★ステラマリスが聞こえる★

深雪

 雪の朝はしずかだ。


 ひんやりとして凛と澄んだ空気に、

 微かに甘い林檎の香りが漂っている。


 昨日、林檎の産地の知人から段ボールが一箱送られてきた。受け取ったまま玄関に置いていたが、誰も動き回らない夜の間に、林檎の香りだけが家中を徘徊したらしい。

 締め切った雨戸の隙間からは一筋の光。


 布団から出て、冷たい空気に身を震わせながら、雨戸を開け放つ。

 一日の始まり。


 一人で暮らすようになって、もうずいぶん経つ。

 子どもの頃、こんな朝は玄関を出て、一番先に家を出た父の足跡を探した。

 後から出て来る家族が歩きやすいように、いつもより歩幅を小さくして、道を作りながら歩いていた。

 その足跡に足をのせて、父と行先が分かれるところまで歩いた。

 つけてくれた足跡から外れないように。


 今は後にも先にも誰もいない。

 父の足跡を息を詰めてなぞることもなく、

 光に溢れた青空の下、新雪を踏みしめて、自分で道を作っている。

 自分一人で歩く道を。


 もし気遣う相手が自分にもいたら、

 歩幅を小さくして足跡をつけ、道を作るのだろうか。

 在りし日の、父のように。


深雪 (しんせつ・みゆき)


深く積もった雪のこと。

雪の美称。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 詩的で美しい…… これは北国の人じゃなきゃわからないでしょうか 願わくば雪の積もらない地域の方にも伝わってほしい 香りも、肌を刺す痛みも 記憶も、足跡も 心も、命も、何もかも 刹那を…
[一言] >誰も動き回らない夜の間に、林檎の香りだけが家中を徘徊したらしい。 この文章の林檎の香りの表現、凄く良いですね。私の元へも香りが漂って来るようです。素敵だな~って思いました。 寒い寒い、…
[良い点] 滑らかな語り口調は、想い出の中の誠実さと愛を深々と積もる雪のように思わせていました 語彙の中に情景と心情を思い浮かべて、絞り込まれた短い物語の中で、寒さを感じながら徐々に温かくなりました…
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