6話 スカートで出掛けよう。
歩くたびに、スカートの裾がふわりふわりと靡く。その感覚が理緒には、なんとも言えない気分だった。
「人前でスカート穿いてると、変な感じがする」
「 誤解まねきそうな、言い方は辞めなさい」
「だって〜」
理緒と香苗は、自宅から歩いて十分の所にあるファッションビルに来ていた。
昔ながらの、商店街の端に存在するこのファッションビルは、休日は、このあたりの学生が、沢山集まるのだが、平日の昼間という事もあり、人は、まばらである。
理緒は、歩きながら、初めて穿いたスカートの感想を力説していた。
「 自分で穿いといてなんだけどね。スカートをもう少し、長いのを選ぶべきだったよ。太ももを、晒すのはすごい恥ずかしいです!」
「さっきまで、短パン穿いてたじゃない。太もも出てたでしょ。何が違うのよ?」
「 裾が、ヒラヒラしてるせいだよ」
「 そうなの。まぁそのうち、慣れるわよ。それより、何か欲しい物あるの?」
香苗は、無理やり話題をスカートから切り替えて、理緒にそう訊いた。
「んー 鞄とかいるかな」
「じゃ、あっちに行こう」
「お母さんは、ここ来たことあるの?」
「何回か、来てるわよ。とは、いっても、拓人に、ついて来てって言われてだけど」
「へー 」
会話しながら、店内を歩いてると、鞄や小物を扱うショップに着いた。
「 鞄って言ってたけど、どんなのが、欲しいの?」
「 体操服とか入れるのに、丁度いいのが欲しくて、お兄ちゃんから聞いたけど、教科書を入れるのは、指定の鞄があるけど、サブバッグは、自由なんでしょ?」
「 そうよ。でも、派手なのは、駄目よ」
「 分かってる。けど、種類思ったより沢山あるね」
「 私としては、ピンクとかが、いいと思うけど、駄目?」
「却下。ピンクなんて目立つじゃん」
香苗と、話し合いの上、決定したのは、黒で、ドット柄のリュックにした。
「 なんで、そんな地味な色にするかなー」
「 使うのおれなんだから、文句言わないでよ。大体、学校に持っていくんだから、こういうのでいいの」
「はいはい。あと、ノートとか買わないといけないわね。……でも、お母さん、商店街で、夕食の材料買ってきたいの。理緒ちゃん一人で、行ける?」
と何気無く訊いたのは、理緒が、こちらの世界に来てから、香苗や拓人と何度か出掛けているから、エレベーターやエスカレーターに乗るは、平気よねという思いから、香苗は訊いたのだが、香苗の思ってる事とは、斜め45度くらいの答えが、返ってきたのだ。
「 ……多分行ける。迷子にならなかったら」
「 ここの5階に、ある本屋さんの文具コーナーで、買ってくるだけでしょ。どうやって迷子になるの?」
いつもなら、ツッコミを入れられル側の香苗が、呆れて理緒にツッコミをいれてしまう。
「 自慢じゃないけど、おれ、スゲー方向音痴だよ。この建物の内で迷子になれる」
―――どんだけー!てかそれ
「自慢する事じゃないわよ。でも、この前は、一人で、商店街の本屋さんから商店街の本屋さんから帰ってきたじゃない」
「あれは、人に訊いたの」
「 でも、お母さん夕食の材料買わないと、いけないし。そうだ、このビルの入口、バス通りの方じゃなくて、商店街側の方で、待ち合わせしましょ」
「了解」
香苗と理緒は、別れると、それぞれ目的地に、向かった。
理緒は、ノートを必要な分だけ買うと、エレベーターで1階まで下りた。
「えーと、商店街側の入口ってどっちだっけ?」
理緒は、キョロキョロしながら、1階のフロアを歩いていく。
「 こっち?違う。あっちは、トイレかあ。わーん。迷った~」
理緒は、パニックになって、あっちうろうろ。こっちに、うろうろしていたら、声をかけられる。振り返ると、ブレザータイプの制服を着た少年だった。
「 そこのオチビちゃん。何さっきから、泣きそうな顔して、うろうろしてるんだ?」
―――お兄ちゃんと同い年くらいかな?
四月からお兄ちゃんが、通う高校の制服着てるし。つか、今、禁句言ったし!何かムカつく。
「 おれ、オチビじゃないし、泣きそうになってません。ちょっと、迷っただけです」
泣きたい気分だったのは、事実なのでムカついいた理緒は、ついそう言い返してしまう。
理緒のむくれた表情に気づいたらしい少年は、頭をかきかき、罰が悪そうな顔になる。
「わりぃ。でも、140くらいだしどうみても、小学生だろ?」
「 中学生です。色々、事情があって今は、学校に行ってないけど4月から中二です」
―――やべー、完璧に怒ってるな。しかも初対面で失礼な事言い過ぎたかも。
「 それは、悪かった。で、君は、どこに行きたいの?おれが、連れてってやるよ。」
「ありがとうございます。 おれ、方向音痴なので、助かります。商店街側の入口に行きたいんです」
理緒は、事務的な口調でお礼を言った。
「 商店街側の入口。なら、すぐ、そこだよ」
「 あっ本当だ」
「 どんだけ、方向音痴なんだよ。まあ、みつかってよかったな。オチビちゃん」
くしゃっと、理緒の頭をなでて少年は、去っていく。理緒は、その背中に、向かって怒鳴った。
「 だから、俺は、オチビちゃんじゃなーい!」
少年は、振り返らずに返事の変わりに手を振った。まるで、はいはい、わかったよ。と言わんばかりに。
理緒は、その余裕な態度に、腹をたて、むきゃーと叫びながら、地団駄を踏んだ。
いつまでも、やってこない理緒を迎えに来た香苗は、地団駄を踏む理緒を、訝しげに見ていた。